詩・短歌・俳句 2018
短歌 1
コオロギが蠢く姿に怖気付く
夢中になってたくさん捕りしが
大通りバイクを停めて穏やかに
「族通らぬか」と硬派らしき人
書くことの取り返しのつかなさは
守れなかった約束に似る
解決を求めず行こうその他に
何のしようもないのだけれど
晴れた日に梅の咲く頃公園の
木に見付けしはくびれたる人
去りし人ただ一歩だけ先を行く
何と大きな一歩であるかな
起きた事ただ淡々と受けとめる
それ以外には出来るすべなし
2018.12.29
騒がしく人を選ばず呼びかける
嬉しそうなり血液足らぬが
恐るべき出来事ばかり起こるなら
もはや恐れる暇はなかろう
明け方まで猫が争う声に耐え
諦めること身をもって知る
コケコッコここでも鳴き声かわらずと
ケニアの村で友 感心す
顔に見える便座カバーが切な気で
用を足すたび振り返るなり
悪夢見て目覚めることがないならば
果たして耐えていけるだろうか
2018.12.24.
揺り起こす過ぎ行く暮らしの端々で
出し惜しみする余裕はあらず
過ぎ行けば本当なのかあやふやな
淀む記憶の滓を集めて
なんだなんだ何をそんなに騒ぐのだ
明日になれば過ぎ行くものを
発すればただ過ぎ行きて消えていく
そんな気しつつ言葉に頼り
2018.12.22.
駅前の凍える朝の托鉢を
有権者らは急ぎ過ぎ行く
考えて考えて事に当たれども
日々に追われて時は過ぎ行く
笑顔にて過ぎ行き人は今いかに
会社なくなり知りようもなく
唐突に木枯らし吹いてうららかな
秋は過ぎ行き冬服を着る
2018.12.19.
「しばれるなぁ」父の話した南部言葉
凍るBostonで肌身にしみる
(2021.11.26.改定)
我が家には手を合わせぬ人多くおり
気にもとめずに暮らしてきたが
通いしはお寺の中の幼稚園
歳重ねまた手を合わせおり
熊襲大和南部の人の混ざりし者
家族の話 合わせた我は
2018.12.14.
20年経っても胸で燻るは
2年過ごしたマサチューセッツ
(2021.11.26.改定)
東アジアを故郷と慕う人となる
2年のアメリカ暮しの故に
(2021.12.17.改定)
2018.12.12.
おもむろに古い記憶が滲む夜
腹に溜まってじわり汗ばむ
何もないそれも一つの答えだと
友が言うのをただ聞きし午後
静まった夜は寂しい心地する
騒音響く街に育てば
2018.12.11.
映画観て帰る夜道に立ちし女
何の用事か知らぬまま過ぎ
人々はどこへ移って行ったのか
あばら家の街にビル建ち並び
懐かしい駄菓子の店のおやじさん
シンナー売って捕まったという
ハゼ釣りしドブ川のことは懐かしい
オイルが漏れて汚れし事も
2018.12.9.
はからずも浸み出すままの現実を
メンテナンスして暮らす日々なり
落書きも枯葉もなにも自然だと
思えるときの生活のシミ
出口ない夢は迫りて苦しくて
目覚めてみれば滑稽なれども
話し合うたびすれ違う物事は
人の癖なり避けようもなく
2018.12.8.
からころろからころころと流れ落ち
下水の音も時に麗し
旅に出て自分の愚かさ身に沁みて
1週間の謹慎気分
長旅より帰り来たれば我が町が
おもちゃのように映り佇む
辛きことばかりと思う日々あれど
写真を見れば笑う我あり
2018.12.4.
俳句 1
次々と人が死にゆく秋の夢
2018.12.2.
短歌 2
元使い切ろうとザーサイ買い求め
うまくて円を両替し友
酒飲んで幾つかの語と身振りにて
愚痴を聞いたりセネガルの夜
5分から30分の遅れとの
アナウンスありしボストンの駅
2018.12.1.
歩みゆき疲れてしまい寝たのです
心と体の端々までも
振り向いて出してしまった言葉とは
他人のようだ自由にならぬ
ぼんやりとスマホいじりて三日月の
ような目だねと妻に言われる
3人でゴミ置場から運び出した
でかいスピーカー今はいずこへ
針の穴ほどの可能性あるならば
やる価値ありと父親言いし
濡れ場観てこういう演技する女は
男に尽すと言いし祖母なり
荒削るごつごつとした言葉尻
下手な手作りこんにゃくの様に
ありふれた日々の暴力止むことなく
続いていると感じるのです
2018.11.30.
夜が明けたらもう一度だけ拾い出す
散った破片の中からひとつ
騒めきは静かな調べ響かせる
雑踏でそっと耳を澄ませば
いさかいも誤解も何もすり抜けて
洩れる振動そっと添えてみる
裏表ときにさらりと翻す
心落ち着け移ろうままに
2018.11.27.
俳句 2
夕立の過ぎてからりと時計塔
晴天に黄葉沁みて登り坂
花火の音スマホ片手に窓を開け
2018.11.21.
短歌 3
急がねばそう思いつつまるまって
なんとはなしにスマホいじる朝
寒い朝とても静かな調子あり
車が通りヒヨドリ鳴くも
発火する後のむなしさ身にしみて
コーヒー淹れて哀しみてみる
音もなく流れる糸は粘りつつ
今日の心はそこそこ安定
待ってくれよ俺はまだここにいると
必死につかむ夢の中でも
2018.11.19.
リハビリに始めたはずが病みついて
息継ぎするも凝り疲れたり
ベランダは枯れ乱れつつ実を結び
ふらり家出て帰り来たれば
15年詩を書く事を忘れてい
ふと始め妻の批評にうろたえ
空腹でない食欲は際限なく
苦しくなって遣る瀬なさ知る
抜殻のような自分を焚きつけて
灰になっても灰汁とる世でなし
鬼太郎はねずみ男をなぜ許すと
ふるえるほどに怒りし友あり
殺されたし殺したからなと祖父洩らす
アメリカ行かぬと言ったそのあと
アルビノになるか実験していると
灯りつけずにドジョウ飼いし友
生き残っちまったなぁと呟いた
パイロットの祖父90過ぎ逝く
2018.11.15.
俳句 3
枯葉踏み小便すれば秋心地
2018.11.14
対話
あっという間に
5つ歳をとる
けれど5年後の
何も分からない
言葉が溢れても
月日は
何も癒やさず
人は行き違う
オクラのように粘る日々
濡れた体を横たえて
2018.11.13.
短歌 4
だんだんと霞がかかり絡み合う
死ぬ事だけが褪せぬ夢夢
上人と上人とらが争いし
身内に溜まる泥水の澱
ライフルで軍艦に向かい立ちつくす
何とはなしに残念な人
汚水出す工場のことが懐しい
ヘドロの川に鯉群れる今
文学は時代錯誤と思う身に
詩を書けという我の無慈悲さ
ヘドロ川堤防破れベランダで
釣り糸垂らし怒られた友
「お前には言った筈だ」との立て札《ふだ》を
すれば効果ありと自慢した友
壊れてるギターとアンプ修理して
第九奏でた小6の友
激安のロングコートとサングラス
身に着けた友 店潰れ泣く
平らだと何とはなしに落ち着かぬ
坂道ばかりの街に生まれて
詩などより絵の才能があるわよと
のたうつ僕の絵を見て言う妻
万引きをしては戻して楽しんだ
ギターのピックが自慢の友友
あいそなく注文を取り料理出て
沁みる味わい共に微笑み
2018.11.12.
俳句 4
肩寄せて風に吹かれる花薄
2018.11.3.
センチメント
あざむいたのか
あざむかれたのか
時はたち
明るみに出て
温もりは壊れてしまった
眠りこけよう
しばらくの間
力を待とう
分からぬことをいとおしく
分かることをこそばゆく思う
そんな気分だから
2018.10.27.
岬へ
流れるように
足音がする
ときに急ぎ
ときに堰き止められ
いくつもの穴の上を
とめどなく、とめどなく
エンジンがひしゃげ
動かない
(不穏な音はするけれど)
燃料だけはふんだんにある
枯れた井戸から
ガソリンが湧いているから
火がつかぬように
気をつけながら寝転んで
(すでに油まみれなのだし)
うつろい、うつろい
ちぎれたまま
取り繕うこともなく
2018.10.26.
街
降り積もった塵が
風雨と共に去っても
どうしようもなく
残る臭気がある
重くはなく軽くもない
深くはなく浅くもない
ただ息詰る音がする
掻き消されることのない
避けようのない淋しさ
地面を踏みしめると
沈黙が伝わる
留まることなく続く
静かな交流の時
2018.10.12
そっと
ひずむ言葉の陰で
ほつれる
あらい麻布を撫で
それとなく嗅いだ
含まれるような
砕かれるような
そんな心地がする
2018.9.29
情景
突然うろたえる
(雀は怯えながら啄んでいる)
沁みて来たのだ
30年前の孤独が
雨が放浪へと誘う
(崖の下に虫がたかる)
帰ろう
居場所があるうちに
(島々には
どこも家が立ち並ぶ)
恐れることはない
怖いと思うままでいい
2018.9.26
寛ぐ
冷ややかな優しさに
端々までも和らぐ
あえて隠すことも
語ることもない
溜池のような穏やかさ
どこにもあり
どこにもない
誰にもあり
誰にもない
辿り着いて思い出す
前に訪れた事を
2018.9.15.
歩く
都会の人波で
ただ動くものになり
自由だと思った
建物の合間で
どこにも辿り着かず
それが心地よかった
時は魚の群れのように
膨らんだり縮んだり
揺らぎながら過ぎた
目が覚めたら行こう
足元に注意し
ゆったりと踏みしめて
2018.9.12.
春
枯れ果て
ひと雫も残らない
殻の中で眠る
ごぁっごぁっごぁっ
草むらから
声がするまで
川底に転がる骨
あまりに白く
もう泣くこともない
そっと拾って
土に埋める
新たな始まりを待って
2018.9.10.
風
やわらかな風が
入り込み
静寂が生い茂る
思わず外に出る
かじかむ空
埃が舞い昇る中へ
2018.9.7.
一会
今日に突き刺る
繕いなく
ばらまかれた
感触を探る
もう会えないとしても
また会おう
互いに不審者として
不平等で
公平な土壌で
2018.9.6.
預言
僕の事を
神秘主義者だと
君は言うのです
気付いてないだけだと
他の人の言葉なら
気にしないけれど
君に言われると
どぎまぎしてしまう
神秘主義を嫌うのは
惹かれているからこそ
距離を置こうとしているのかと
自分を疑い
神秘主義的なものを目にして
悪い感じがしないと
やっぱりかと思う
君の預言に
僕はすっかり
絡め取られてしまったのです
2018.9.5.
時
思いがけず
ぬっくりと出た
隔たった塚の間に
埋もれるかけら
繁る葉の向こう
出ようとする光
心地よく
またせつない
にょろりと這い
蝉時雨の中
干からびゆく
居所を忘れたままで
2018.9.3.
営み
壊れたものは
そのままにして
眠ろう
平らにされ
日干しに慣れ
その分、残酷になる
いけない、いけない
隠れよう
そして少し休もう
2018.9.1.
夏
コンクリートの橋の下
誰かが笛を吹いていた辺りを
何度も眺めてみたのです
その時の僕は
途方にくれていたのでしょう
橋を渡り
川辺に降りると
思いのほかススキが茂り
両側とも背丈を凌ぐほどで
大きなバッタが
たくさん飛び交っていました
そんな場所があることを
それまで知らず
生き生きとしたバッタの力に
目がくらむほどでした
しばし呆と歩き
帰宅したのです
後で何度か思いつき
その川辺に
行こうとしたのだけれど
方向音痴の僕は
何かに化かされたように
たどり着けたことがなく
日照りの中をさまよい
途方にくれるばかりです
2018.8.31.
両棲の人
乾きと湿り気を
あわせ持った
あやふやな
憎めない愛らしさ
辛抱強い足取りで
ぬかるみながら
揺れ動き
旨味を嗅ぎ分ける
水鳥が
勇ましく飛び去り
でたらめな光が
交差する沼地で
2018.8.30.
心の虫
縮んだり広がったり
空間なのか平面か
それとも線なのか
バランスを崩すと
静かに騒ぎ出す
そして
背けて逃げて行く
それでも欲が出る
冷飯のなんとうまいことよ
208.8.27.
黄昏
素朴な石に刻まれた
文明の匂い
侘しい厚化粧
沈黙に包まれて
聞こえる足音
すりへらし、へらして
皆、窒息しそう
僕もその一人
ビルの中の
滑らかな石
がらんとした人混み
寂しい古城を思い出す
2018.8.23
火花
反逆は虚しい
成功しても
膨大な厚みの上に
新たな埃が
僅かに積もるだけ
それでも日々
発火する
枯れた土の中からでも
2018.8.22.
渡河
河を渡る決意の
清々しさ
土から逃れる歓びに
眩んでしまった
するとベルが鳴った
足がとまった
留まると
水の気配が肝に染みる
ぐにゃりと曲がり
支えを失って
体が震える
思った事を
悲哀とともに懐かしむ
2018.8.20.
燃さし
何気ない午後
ぼんやりと椅子に座っていた
突然日差がなくなり
左頬に壁がひっついた
遠くの方から怒鳴る声がし
横たわった僕は
動くことを忘れたようだった
記憶は次に
破れた襖の前で
泣きじゃくる
子供へと飛ぶ
あれは僕なのだろうか?
自分の姿を
見た筈はないのに
学生寮の廊下で
腹立ち紛れに
素麺の束を床に叩きつけ
まき散らした
風邪引きの男
これはまあ僕だろう
追憶の中の
燃さし
しっくりとくる
隔たりのない事実には
辿り着けそうもないけれど
2018.8.18.
声なき人
川辺に暮らす人
沈黙が力
生活が道をつくる
迷い込んだ路地
粘る衆人
持久戦へと誘う
沢を頼りに
潤したら行こう
もう夜は明けた
2018.8.16.
方々へ
薄情な懐かしさ
パサつく臭いや
どよめく車内の心地がする
ざらつく舌触り
酸味の中に
ほのかな甘みがある
とてもいい
虫がざわめく
方々へ
向かう足音がする
2018.8.12.
隔り
流されて
どこに向かう
冷たい箱の中
それとも
ニジェール川のほとり
そこで何を見る
そこで何を見た
分からない、分からない
井戸の反射に眩み
おもわず振り返る
てんとう虫に笑われる
明日をかたるなど
アスファルトの煙と
土埃の匂い
交わることのない
拡がる古今の謂れ
やわらかいんだな
マシュマロのように
揺らめくひとひら
穴だらけの軌跡で
泡から生まれたものは
泡と消え
土から生まれたものは
土へと還る
分からない、分からない
親の顔さえ、分からない
208.8.10.
憂い
昨日まで
新鮮だった靴下
タンスの中で
穴の空いた仲間を横目に
実にしっかりとしていた
なのに
新しく5組ほどが入り
擦り切れ者をのかしたら
今は古びて見える
決して見劣りするのじゃない
ただ清新さは消えてしまった
友を見送った
憂いのせいだろうか
2018.8.9.
不一致
メダカを飼いたい
メダカを飼いたい
と言うのですが
妻は乗り気でなく
一緒に見には行ったのですが
5種類のメダカを見て
あれこれ説明したけれど
妻の目はうつろで
インド産の
小さいフグのかわいさに
見入っているのでありました
2018.8.6
弔い
バナナの皮よ
あんなにしっかりと
柔らかい実を包んでいた
今はだらしなく
手足を投げ出し
あとは捨てられて
ゴミ箱の中で
茶色くなるのを待つのみ
いま悟った
お前を踏んで転ぶ
古典的ギャグも
弔いの1つなのだと
2018.8.5.
妻
僕の詩を見せると
真剣に吟味して
ばさりと切り捨てる
これいる?
この言葉嫌い
詩じゃない
眠らせときな
どうにも的確なので
僕はうろたえて書き直す
妻の助けなしに
詩は完成しないのだが
合作者にされるのは嫌らしい
まぁ好きにしなと
妻はしぶしぶ言っただけなのだ
それでこんな詩を
書いてみた次第です
2018.8.4.
スリル
寺の池で生まれた
鯉の子供を盗もうと
2人で忍び込んだ
池の後ろの壁には
窓やドアは見当たらない
網を手にした
僕らは夢中だった
何匹ほどとったろう
そろそろ行くかと
こそりと話していると
たくさん取れたか?
と声がする
振り向くと
壁の庇のすぐ下の
細い引戸から
坊主が覗いていた
僕らは慌てて走り去った
2018.8.4.
大丈夫
問題ないと
呆れるほど繰り返す
答えはやってくる
大抵思わぬところから
2018.8.3
おのずと
すり潰して残る
ざらざらとした
表れるモザイク
曳き出される柄
ふるい立つ歌声
濁るハーモニー
存分に響き渡れ
舟まで届く様に
椰子の薫りの中
流れに身を寄せ
それでも方角は
独り臨む辺りへ
2018.8.2.
何とはなしに
しなるほど実って
落ちこぼれた雫
憤る胸に滴る
遠くを見る
目的はなく
ただ眺める
片隅にうずくまる
頼りなさを抱えて
ひまなふり
忙しいふり
楽しいふり
苦しいふり
そんなことする間もない
のっそりと
急いでいるのですから
2018.7.30.
散髪考
しゃきしゃきと
細胞の連なりを切り
体との繋がりを絶って
落ちたものは
さっさと掃いて捨て
細かいものは洗い流される
何のおくやみの言葉もない
しらじらしい
細胞にも生命が宿るなんて
2018.7.30.
平凡
発光する
今と昔の瞬間が
話をしたり
眠りこけたり
こんがらがって
足取りを眺めていた
がさつで熱がこもり
隅々まで腐食した
強風はおさまり
屋根の下でうろつく
外出を躊躇したまま
2018.7.27.
弔い
地表から直ぐに
染み込んだ液体
忘れた頃に
湧き出してくる
20年後の
ほんの20秒程
潤してくれればいいが
行き倒れた人
疲れ果てたのか
殺されたのか
腐りゆく
弔おう、忘れずに
ついこの前、200年程の間
20万年分の地層が
隆起したとしても
2018.7.26
ウサギ
朝行くと
小学校で飼っていたウサギが
5匹ほど子供を産んでいた
軟体動物の様なそいつらは
板敷きのケージの中に
遠慮がちに動きながら
転がっていた
僕はわくわくして
眺めていたのだが
呼ばれた先生は
何かつぶやいて穴を掘り
ぐったりとした
そいつらを摘んで
埋めたのだ
先生は悲しそうにも
怒っているようにも見えた
何も尋ねなかった
誰にも言わなかった
ウサギの世話は続いた
2018.7.23
水の音
おぼつかない
花火が上がり
谷間に響く
ひと呼吸して
走り、立ち止まる
煙の匂いと
雑踏が混ざる
目を閉じて
聴こえてくる
水の音
ざわめきの終わり
2018.7.22.
スカンク
アスファルトの幸福
火花を散らす
山へ行こう
意に添わぬ喜びが
硬化を阻む所へ
生業が何であれ
放浪は続く
良いも悪いもない
驚くだけ
恵まれている
血の轍
揺らぎの神学
スカンクには敵わない
流れと文字を横目に
信号を待ちながら
2018.7.18.
響く
すかすかの街に
置いてけぼり
出口と思ったら入口
さて始めるか
風のない
熱帯夜は寝苦しい
らがらがと頭を振り
おどけてはみたけれど
ありがたい
未だ一寸先は闇
音が響く
歌い踊る拡がりで
2018.7.14.
骨
動き出して
否応なしに押し寄せる
汚水と雨水が混淆し
濁流になる
肯定と否定
方角も場所も時間も
全てが入れ替わり
なお語りつがれる奇談
形なく広がり
肉を腐らせる
それでも骨は滑らかだ
水晶製のまがい物だから
2018.7.13.
始まる
はぎれのわるい街
その場を凌ぐ
まあいい
筋違いの常識で
団結や不仲を招くより
事実から具体性を
言葉から意味を
感情から熱を剥奪して
引き出された
猥雑なアップデート
始まる
勝手口から潜り込む
地下室と屋根裏の
どちらでも暮らせるように
2018.7.12.
寝たふり
傷は舐め合えば
多少は良くなる
そうならないのは
舐めすぎるから
自己と連帯と無
責任の三角関係は
罵り合い、疲れ
結束を恋する
びびらずに
逃げるに限る
非難されたら
寝たふりをする
ぐうたらと呼ばれて
石の上に3年もいたら
あたたかくなる前に
足腰が弱ってしまうね
2018.7.11
道
掘り下げても
見付からなかったのに
遊んでいて拾った
アンモナイト
紙一重をすり抜けて
生き延びた
殺め渉る
双方ともの末裔
切れ間にl茂《しげ》る
思いがけない物語
もつれる新旧の形見を
じっくりと吟味して
踏み出せば
うねりが伝わり、進む
妖しくはない
当たり前の道
2018.7.10.
傍らで
喧騒とは無縁の淀み
どんな熱情の甲斐もない
そのうちゴーグルをしても
何も見えなくなるだろう
言葉が雪崩を起こす
間違いは避けられない
かけらを集めて捨てる
手ぶらが楽だから
濁った大きな川
櫓の支点を感じながら
かすかな隙間を探す
岩塩が積まれた傍らで
2018.7.2
出かけよう
裸のヘビ
裸の雲
裸の犬
裸の靴
どれも似たり寄ったり
王政が復興しても
裸の王様はもういない
泥水が染み込むところに
アルコールを滲ませても
ちょっと匂いを嗅ぐだけで
先に潰れてしまうくせに
夜の間に這い回り
かすかな湿り気を残す
かわいくて憎たらしい
はっきりとしないもの
ブルドーザーで地獄を造り
幻は狭間で生き続ける
ぬめりとしてどこにでも
忍び込んでみたら?
ずうずうしくうるわしく
猫のように眠って
出かけよう
とにかく出かけよう
2018.6.29.
交差点まで
店頭に並ぶ
花々から漂う
野草の香り
アスファルトの隙間の
草の匂いと混じる
突然なだれ込む
さまざまな声
進むのも遅れるのも
そのままで
芋虫とライオンを
比べるのは品がない
|錆(さ》びた鉄に
刻まれた飾り
慈しみと蔑みが
溶け合う場所から
離れたい
路地と山道の
交差点の辺りまで
2018.6.27.
揺らぎ
使い古され晒されて
忘れ去られた抜殻が1つ
いったいどこへ行ったのかな?
それは蝶なの?
それともカブトムシ?
土の中にいたの?
それとも葉の裏に?
意味ありげに軒下に
転がっていたよ
飛び去ったのか
行き倒れか
見当がつかないな
どこにも行きはしない
隠れてもいない
周りを飛んでいるのに
誰も気付いてくれないの
蝉ではないの?
確かにね
蝉なら見慣れているものね
行き倒れなんてそんなこと
電車も車もある時代に?
高速道路を通って
川を渡って行けばいい
私はいつまでも皆の中を
飛び回っていますから
本当は知っているんだよ
みんな忘れているだけさ
見ているけれど見えないし
聞こうとしても聞こえない
描いてみようと思うんだ
その抜殻のぬしのことを
なぜだろう?
分からない
そうしなきゃって思うんだ
見てもいないし
聞いてもいない
そんなものをどうやって
描こうっていうのかしら?
私は蝶で、蝶は蝉で、
蝉はあなたで
あなたは甲虫
蜘蛛のように捕なくても
きっと描けるはずよ
いつのまにか生えている
そんな風に
やってみようと思うんだ
できたらきっと見せるから
そうしてね
2018.6.25.
峠で
離れると
遠くに見える
選んだものが
ガラクタとして捨てられ
ゴミ屑から
別の物が拾われる
気を付けて
浅瀬を歩いて行きなさい
深みに手を取られないで
遠くを見て
もとの通りを歩く
捨てたもんじゃない
またきっと交る
丁寧に進んで行けば
山道を歩いて
思いがけず海が見える
ちょっと嬉しいね
2018.6.24.
きっと
思い込み
まわり道して
立ち止まる
言葉にならない
絡まるばかりで
明かされると
自然と影になる
控えめに寄ってみる
潜むものに
ふれないように
霞んだ向こう
そう辛くはない
きっとうまくやれる
秘密を恐れなければ
2018.6.20.
そこから
せつなにあふれ出し
言葉が開かれる
そこから
必要なものをすくった
残りのわずかな淀み
不具合な社交性
口火を切るのは
ありきたりのこと
そこから広がった炎の
燃えさしから漂う
煙のにおい
取り返しのつかない響き
2018.6.17.
ありふれたこと
身近なものが
まとわりつく
そうか400年前の
あの仕返しかと
ふと思う
ついこの前のこと
猛威を振う荒くれ者を
手なずけて来たのは
制御したいという
ありふれた願い
平穏にこそ注意がいる
間に合わせの凌ぎ合いに
捕らわれてしまうから
2018.6.14.
轍の上で
波立つ水を眺めている
とてもいい
かつて老人と呼ばれた
そんなこともあったのだから
つらい時を抜け
苦い余生を送る
そんな手触り
明かすほどのこともなく
隠すこともない
かすかな甘い匂いと共に
ただこぼれるがままに
2018.5.30.
たまに
雑踏で耳をすます
頭をからにして
とき放つ
そんなに難しくない
恥ずかしい事でもない
なぜそこに転がるのか
分からないものばかり
散らばっているから
通りに出て
話かける暇がない
息苦しかったら
忘れるのもいい
周りに注意を向け
ゆったりと
水の匂いをかいでみる
なんとも
どうにもならない
ありきたりの事
でも嫌いじゃない
ただたまに
やるせないんだ
2018.5.23.
気楽に
暴力的な事だ
意見を持つというのは
だから少ない方がいい
どちらにも向けるように
身軽でいたい
なぜ選ぶのかと問われても
答えようがない
手垢のついた言葉が
道を塞いでしまうから
いやだからこそするのだと
言い切るほどの度胸はないが
せめて気軽に行こう
小さな変化を
見落とさないように
2018.5.11.
本当の事
会わなければ分からない
そのいやらしさ
かわいらしさとか
魅力的な瞳や笑顔は
幾多の残酷さを通って来た
そこから残る力
驚くべき事
見間違えようもない
本当の事
惹かれる事は恐ろしい
驚いて距離を置く
そしてじっくりと噛みしめる
息を整え
近づくか遠ざかるかを決める
間違えてはいけない
本当の事を
2018.5.10.
悪くない
従順でいよう
吠えてみても仕方ない
やれる事はある
獲るものはなくても
爪痕は残る
混じり合ったらいい
いっそ体液までも
ミトコンドリアが
細胞に入り込んだように
忍び込んでみたい
ほんの100年前の事も
よくはわからない
失うものは何もない
行き交えばいい
笑われたって気にしない
黙っていよう
叫んでみても届かない
歩いていって
迷い込み
共に笑らえるなら
そう悪くない
2018.5.6.
自然
体の内も外も
自然の他には何もない
溢れ出す過剰なもの
いばらが外側から
傷を付けるように
内側からも
なにものかが突きあがる
管理に抵抗する頑固者
自然は恐ろしい
それを避けることはできないが
多様な渦は姿を変えるから
ゆっくりと目を閉じて
耳をすませる
なるべく間違えたくはない
陳腐なものを
必然と思い込まず
常識に惑わされないように
2018.4.22
心
精神とか魂とか心とか
なんだか
つかみどころがない
だからといって
精霊を信じるほど
純朴にはなれない
本当は
肉体だけなのだとしても
留まることのない体内の営みを
捉えきれそうもないし
合理的な文字の裏には
神秘的なものが
もぞもぞしている
支えよう、それでも
科学に寄りかかり
たまに神頼みして
のらりくらりと生きて行く
他にしようがないのだから
2018.4.19.
今
目の前の事に追われ
じたばたすれば
それでいい
成果を得たと思った事が
百年後に
何を残すか残さないか
見る事はかなわない
今日をおろおろすればいい
悲惨さに慣れて
壊れた自分を横から見ている
そんな心持ち
拳を振り上げて
ついにひっくり返す
そんな時、誰を殴る?
逃げる、逃げる、逃げる
失われたものはそのままに
自身が
おぞましく化ける前に
隠れてしまう
そしてやり過ごす
百年後の平穏を
知るすべはないとしても
せめて今、ここだけは
目の前の事に追われ
じたばたすれば
それでいい
成果を得たと思った事が
百年後に
何を残すか残さないか
見る事はかなわない
今日をおろおろすればいい
2018.4.18.
いい
嘘の中で寛ぐ
時にはそれもいい
本当の事ばかりでは
辛くて仕方ないなら
逃げ出すわけでも
ごまかすわけでもなく
ほんのちょっとの休息
またゆっくりと始まる
みじめな安らぎを捨て
嘘も真も携えて行く
責めたりしない
気がすむまで
泣いたりして
汚れた川を堰き止める
そんな事はやめて
海へ出よう
そこで無邪気に
笑えたらいいね
2018.3.31.
まだ
いくつもの
冷ややかな目に見つめられ
はみだしたものが
とまらなくなる
塗りつぶされた紙の裏に
浮かび上がる絵
表裏を引き裂く力が
忍び込む
逃げよう、隠れよう
新しい芽が出るのを待とう
闘いはまだ
はじまったばかりだから
2018.3.22.
息づかい
誠も嘘も晒されて
明るみに出されたとしても
ただ息づかいだけが
伝わってしまう
語る言葉がない時には
輝かしい光は
ものを見えなくする
そっと寄り添って
耳を澄ませる
その温もりまで
聞こえて来るように
2018.3.20.
ゆったりと
日が暮れる
眠りにつく前に
吐き出そう
隠す事など
何もないはず
夢を見ずに
終わるかもしれない
暗闇が訪れる前に
ゆったりと速度を上げて
ほとばしる
恥じる事も誇る事もない
あるがままの姿を
2018.3.18.
自由に
待とう
嵐が過ぎるのを
人は昔から
そんなに変わらないと
そう思える
ちょっとしたコツを掴みたい
皆が少しづつ
楽しくなれるような
みにくさは
そんなに捨てたもんじゃない
ちょっとした事で味わいは変わる
受け止めたり、受け流したり
遊ぶように転がって
ほんの少しだけ
自由になれたなら
2018.3.8.
自由に
岩にぶつかりながら
流される
思う間もない
漕ぎ進み
どこかへ向かう事などは
内でも外でも
ぶつかり
絡まり
しぶきを上げる
間違えないように
多様な波に
中心などはないのだから
2018.2.21.
(詩・短歌6〜86+俳句、日付はinstagram (philosophysflattail)投稿日)