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「泣きの日」という1人イベント
20代の頃、年に何回か「泣きの日」という1人イベントを開催していた。
もうこれ以上は無理、と限界を感じたとき。
今夜は「泣きの日」にしよう――
いつからか、そんなことを思いつくようになっていた。
そうと決まると、今にも目から涙があふれそうなのに、気持ちは妙にルンルンとしてくる。
残業しつつも早めに切り上げ、帰路へ着く。
運転しながらドリカムの『すき』を口ずさむ。
甘い愛の歌ばかりが
FMから聴こえる
旋律がいいのか、声の切なさがいいのか。いつもこの部分で琴線に触れて、私の声が出なくなる。
’ちょっと失敗’
つぶやいて また 笑った
「笑う」は「泣く」と紙一重。まだ家に着いていないのに、我慢できずに視界がゆがむ。
抱いた膝に 次々にこぼれるしずく
そっか 私
ずっと 泣きたかったんだ
泣きたかったんだ、は最後まで歌えない。あらためて自覚すると、言葉って出なくなるんだってこのとき気付いた。
私ずっと泣きたかったんだ。
私、ずっと、泣きたかったんだ……
もっと早く、「泣きの日」をするべきだったね。
単身者用のマンション5階。
小さな部屋。照明は薄暗く。
涙拭き用にティッシュを置いて。
「泣きの日」、開催。
この日にかけようと決めていた「泣きの曲」。
その1曲だけをエンドレスリピート。
曲を自分の中に、染み込ませて、染み込ませて。
歌っているうちに、泣けてくる。
ぼろぼろ、ぼろぼろ、涙がこぼれて。
唇が震えて、のどが詰まって。
泣いて、泣いて、声が出ない。
部屋で一人。
誰にも邪魔されず、集中して、泣く。
これが私の、「泣きの日」。
何回目かのリピートで、「もういいな」。
涙は止まった。
泣いてスッキリ。まぶたはぼってり。
明日はひどい顔決定。
全力で目を冷やそう。
何にそんなに泣いていたのか。
今となっては思い出せない。
あの頃の私にあって、今の私にないもの。
なんだろな。
つい先日、そういえば20代の頃「泣きの日」ってやってたなぁと、たまたま思い出した。
すごく懐かしい。
あれはなかなかに良かった。
デトックス効果なのか、やる前と後では心の状態がまったく違う。すっごくスッキリして、ちょっと癖になる。だからやるぞと決めるとルンルンするのだろうな。
いや「泣きの日」をやるということは、涙をこられないほどの精神状態だったということなんだけども。
今となっては、あの頃のすべてが愛おしい。