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AM5:30の匂い


朝4時、静寂の中で目を覚ます。

外はまだ暗く、家の中も深い眠りについているようにひっそりとしている。

その静けさの中で、僕は毎朝、自分だけの時間を迎える。
本当の意味での「始まり」は、その90分後。


ちょうど5時半、1日の中で最も香り高く、心が安らぐ時間が訪れる。

それは、淹れたてのコーヒーの香りがゆっくりと部屋中に漂い始めるときだ。


コーヒーは僕にとって、ただのカフェイン摂取ではない。

喜びに満ちた日には、その喜びにさらなる彩りを加えてくれるし、辛い日には、心の中に絡まった感情をそっとほどいてくれる存在が珈琲だ。

悲しみが深い日は喉の奥にずっしりと重く居座る棘を、ゆっくりと洗い流してくれる。

そんな一杯を、僕は毎朝、起床して90分後に飲むことに決めている。

それは僕の人生の一部であり、心の拠り所でもある。コーヒーを飲む瞬間は、まるで自分自身を取り戻す時間だ。


なぜ90分後にコーヒーを飲むのか。それは単なる習慣ではなく、体のリズムを意識した選択だ。

起床後すぐは、体がコルチゾールを分泌して自然と覚醒を促す。そのため、目覚めてすぐにカフェインを摂取すると、この自然な覚醒プロセスに逆らってしまう。

90分待つことで、体が本来持つリズムを尊重しながら、コーヒーの香りと効果を最大限に楽しむことができる。


5時半になると、待ちに待った瞬間が訪れる。

自家焙煎のコーヒー豆を手に取り、ゆっくりと挽き始める。

挽いた豆から立ち上る香ばしい香りが、空気を包み込み、まるで目覚めたばかりの自分を優しく抱きしめるように広がっていく。

静かだった部屋に、コーヒーの香りが少しずつ命を吹き込む瞬間。

その中で、僕は静かに座り、Noteに向かって自分の考えを綴り始める。

コーヒーと文章、その二つが交わる時間は、僕にとって何物にも代えがたい心の安らぎだ。


この一杯のコーヒーが、ただの飲み物以上の意味を持つのは、その背後にある物語にある。

自家焙煎の豆を買いに行くたび、焙煎士と話す時間が僕の楽しみだ。

どんな思いで豆を選び、焙煎しているのかを聞くと、その一杯に命が吹き込まれるような気がする。

彼らの情熱を感じると、目の前のコーヒーが単なる液体ではなく、一つの芸術作品のように思えてくる。
そして、その香りを吸い込むたびに、その背景にあるストーリーが胸の中に広がっていくのだ。

90分後に飲むこの一杯が、僕の心を静かに整え、これから迎える1日を形作ってくれる。

ただの習慣ではなく、僕にとっては「心をリセットする時間」。

部屋に満ちるその香りは、僕にとって何よりも大切な朝の儀式だ。

特別な教訓などない。
ただ、今日もまた、その香りに包まれながら新しい1日を迎えるという、それだけで十分なのだ。

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