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Photo by
eiitiaoki
始まる
十九歳の夏
庭の木に抜け殻から
半分出たところで
息絶えた蝉を見た
さなぎのまま
とろけたスープのように
固まらないで
殻を破れない
自分と重なった
固まらないまま
ぼやけたスープに
映る世界の記憶は
曖昧なまま
時間だけが
身体を運んでいった
一周回ったところで
いや
二週回ったところで
ようやく
固まり始めたスープが
今だとばかりに
溜め込んだ怒りで
殻を破ろうとしている
本当はとっくに
飛び立っていたはずの
勇ましい幻影が
まだ目の前を
横切っていくが
これが俺なんだよ
そう自分に言い聞かせても
もうどこにも行かない
十九歳の夏で
抜け出ていった魂は
運ばれてきたこの身体を
寸分たがわず選んで
入ってきて
生き直していく
いや
全く新しい生命を
始めていくんだ