なぜ人類は月に向かうのか?
column vol.1094
昨日は「山」で起きているビジネスについてお話ししましたが
山の上にあるのは空。
宇宙空間が広がっています。
そして「宇宙」といえば、最近よく報道されているのが「月」に関するトピックスです。
例えば、先週メディアを賑わせたのが、インド宇宙研究機関(ISRO)の無人月面探査機「チャンドラヤーン3号」着陸のニュース。
〈BBC NEWS JAPAN / 2023年8月24日〉
アメリカ、旧ソ連、中国に続き4ヵ国目の成功となりました。
日本でも今年4月に東京のベンチャー企業「ispace」が挑戦。
着陸に成功したら民間機では世界初となっていましたが、この時は残念な結果に…
最近でいえば、JAXAが「X線分光撮像衛星(XRISM)」及び「小型月着陸実証機(SLIM)」を搭載した「H-IIAロケット47号機(H-IIA・F47)」の打ち上げを8月28日に予定していましたが、
高層風が打上げ時の制約条件を満たさないため延期に…
ただ、こちらは予備期間の9月15日までに改めて打ち上げを行う予定となっております。
他にも挙げればキリがない月に関するニュースですが、なぜ各国がそんなに月を目指そうとしているでしょうか?
ご存知の方も多いとは思いますが、本日は改めてその理由についてお話ししたいと思います。
「月の氷」を目指して
話をインドのチャンドラヤーン3号に戻しますと、今回は単なる着地成功に留まってはおりません。
着陸した場所が世界初なのです。
その場所とは「月の南極」。
ここがポイントでして、各国がこぞって月を目指す理由の1つが「月の氷」にあるからです。
月の氷は極地に多くあると言われており、南極はまさに「宝島」。
今回のミッションでインドは世界に先んじたというわけです。
氷を採掘できれば、月での生活がしやすくなり、さらには火星やその他の遠方に向かう宇宙船の中継点となります。
氷は人間が生きていくための水と酸素に分解することができる。
さらに、酸素をマイナス183度以下、水素をマイナス253度以下まで冷却すれば、液体酸素と液体水素が得られ、この2液はそのままロケットの推進剤として活用可能になります。
月での活動についても、トヨタが液体水素と液体酸素で動く有人月面ローバー「ルナクルーザー」を開発中。
月面は赤道付近では夜間にマイナス170度、局地のクレーター内であればマイナス250度まで温度が下がるため、極低温燃料の現地生産は実現可能と考えられているのです。
各国で次々開発される探査機
では、各国の予算規模はどうなのか?
まず、NASAは2018年からの10年間で「商業月面輸送サービス(Commercial Lunar Payload Services、CLPS)」に総額26億ドル(2860億円、1USドル/110円換算、2018年時点)を費やしていきます。
〈Forbes JAPAN / 2023年8月27日〉
先日、月面着陸に失敗したロシアの「ルナ25」の予算は、推定約2億ドル(280億円/140円換算)とされ、単体のプロジェクトとしては高額。
一方、インドのチャンドラヤーン3の推定予算は7460万ドル(約104億4400万円/140ドル換算)。
かなり格安ですが、これは2019年に月面着陸に失敗した2号機のシステムを踏襲しているためではないかと推測されています。
そして、日本のJAXAです。
「SLIM」の総開発費は当初180億円が見込まれていましたが、X線分光撮像衛星「XRISM」と相乗りで打ち上げるなどの工夫により、149億円まで抑え込まれる予定とのこと。
…ただ、JAXAの2023年度の年間予算が1554億円であることを鑑みれば、そのウェイトは軽くないと言えるでしょう…
そして、探査機によって氷の所在を確認したら、今度は人を月面へ送り届け、ミッションの確実性を上げることになります。
実際、NASAは2025年の「アルテミスIII」計画によって、4名のクルーが月周回軌道に投入。
そのうち2名が月面へ降り立つ予定です。
月で生まれる大規模雇用
そうして、採掘されるだろう大量の氷を資源に住居モジュールでの長期滞在が進んでいく。
モジュールの中では月の水と、クルーが排出した二酸化炭素を活用して宇宙野菜が栽培されるとともに、培養肉も現地生産される予定です。
そうして、月をフロンティアとした大規模採掘事業が生まれていきます。
何と言っても、月には100種類以上の鉱物があると言われています。
その中には自動車産業、電子産業など幅広い分野で使われ、「産業のビタミン」とも呼ばれる「レアメタル」も含まれると考えられているのです。
エネルギー問題の観点から言えば、地球ではほとんど採取できないヘリウム3が豊富にあることが注目されています。
これは昨今開発が進む核融合発電の燃料になるため、未来の資源と目されているからです。
ちなみに、今回着陸したチャンドラヤーン3は早速、硫黄の存在を確認したと発表。
〈産経新聞 / 2023年8月30日〉
他にも、酸素や鉄、アルミニウム、カルシウムなども想定通り見つかったそうです。
アルテミス計画にかける10兆円の予算
ちなみに、先ほど触れたアメリカのアルテミス計画ですが、計画全体でいうとかなりの莫大な予算がつぎ込まれていきます。
まず新型の有人宇宙船「オリオン」と、超大型ロケット「SLS」を開発。
そして、月周回軌道上の宇宙船オリオンから、クルーを月面に着陸させるために、スペースXが着陸船「スターシップ」を開発しているのですが、NASAは開発費として同社へ28億9000万ドル(3179億円、1USドル/110円換算、2021年時点)を提供。
これと並行して、月軌道を周回する宇宙ステーション「ゲートウェイ」の建設も予定されています。
このため、アメリカ政府が組み立てた2021-2025年における総予算は、何と930億ドル(10兆2300億円、1USドル/110円換算、2021年時点)。
同国の本気度が伺えますね。
他の国もどのように計画を進めていくのか、今後の展開が気になるところです。
ちなみに、個人的には先程挙げた日本の「H-IIAロケット47号機」とベンチャー企業の「ispace」に熱視線を送っております😊
前者は祖父が務めていた三菱重工が関わっていること、そして後者はispaceのCEOである袴田武史さんが非常に才能溢れユニークな方だからです。
そういえば、袴田さんは今月放送されたTBSの『クレイジージャーニー』にも出演していらっしゃいました。
4月のミッション1は残念な結果となりましたが、来年のミッション2、そして2025年のミッション3は期待したいところです。
ミッション1に旅立つ前の記事となりますが、ispace並びに袴田さんに興味を持たれた方はこちらのNHKの記事をぜひご覧くださいませ。
〈NHK / 2023年4月17日〉
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました😊