「ゲーム」が教育の主流になる
column vol.341
「ファミコンは1人1日1時間まで」
30〜40年前に子ども時代を過ごしていた方は、このルールを設けている家庭は多かったのではないでしょうか?
ゲームにハマる子どもに親は眉をひそめながら、その姿を見守る。
当時はファミコンの発売に全国の子どもたちが狂喜乱舞する時代。ゲームは勉強とは対局の娯楽の世界でした。
ところが今は、ゲームが徐々に教育のメインストリームに躍り出ようとしているのです。
まずは、ファミコンを生んだ任天堂の事例からです。
『はじめてゲームプログラミング』予約で爆売れ
今月発売されたNintendo Switch用ソフト『ナビつき!つくってわかる はじめてゲームプログラミング』。
アマゾンTVゲームストアの予約数ランキングで1位を獲得するなど、連日、各通販サイトで上位にランクインするほど話題になりました。
〈BUSINESS INSIDER JAPAN / 2021年6月11日〉
こちらはプログラミング教育にフォーカスしたゲーム。しかも、ノーコードで簡単にゲームプログラミングができます。
普通、プログラミングは、JavaScript、PHP、Java、Pythonなど、ソースコードをテキストで打ち込みますが、当ゲームはビジュアル言語を使い、プログラムに必要な要素を視覚的に表現。
ドラッグ&ドロップなど簡単なマウス操作でプログラムを作成できるようになっているので、誰でも気軽にプログラミングの基本が習得できるということで、子どもだけではなく、大人もこれを機会にと予約する人も多いそうです。
背景には、中学校でも2021年度から必修化となった「プログラミング教育」があります(小学校では昨年度から必修になっていますね)。
この機運をとらえて、任天堂が本格的にプログラミング教育市場を獲っていこうとしているのです。
教育の現場では「MEE」が先行
学校教育の現場でゲームを活用した事例と言えばマイクロソフトの「Minecraft: Education Edition」(MEE)でしょう。
人気ゲーム「マインクラフト(マイクラ)」の教育版です。
ちなみにゲームをあまりやらない方のために補足しますと、マイクラは、すべてが3Dの立方体で構成された仮想空間ゲーム。さまざまな種類のブロックを組み立てたり、壊したりしながら、自由なものづくりや探検を楽しめます。
教育版のマインクラフトには、先生用アカウントや、作った建造物をカメラで撮影して保存できるポートフォリオ機能などが盛り込まれており、プログラミング環境「Code Builder」を使えば、マインクラフトでプログラミング学習も可能です。
2016年に開発され、日本では渋谷区立広尾中学校が第一号として導入しました。
自由に創造し、自由に行動する。こういったゲーム特性が、答えのない問題に取り組む「課題解決型学習」などに利用。
さらに、通信機能を使って友だちとつながり、ひとつのワールドに同時にアクセスして一緒に何かを作ったり、冒険したり。
子ども同士のコミュニケーションやコラボレーションも活発になることから、海外の教育者の間では、21世紀型スキルを育むツールとしてマインクラフトを学習に生かす教育者も多いのです。
日本の教師が“教育界のノーベル賞”に選出
このMEEを活用して教育界のノーベル賞である「Global Teacher Prize 2019 Top10」に選出された日本の教師がいらっしゃいます。
立命館小学校教諭の正頭英和先生です。
〈ABEMA TIMES / 2021年6月10日〉
マイクラを使って英語の授業を行ったのですが、「さぁ、英語を話しましょう」と言われても、話題もないのに英語で話せというのは意外と酷です。なにせ恥ずかしい…。
ところがゲームを間に挟めば、子どもたちからするとゲームを実行する上で対話手段として英語を使っているだけという認識に変わるので、ゲームをより良く進めたいという気持ちが高まることに比例して、自然発生的にコミュニケーションが生まれるというわけです。
さらに、海外の子どもたちとの交流授業にも使われました。
『京都にある文化を紹介しよう』というテーマで、マイクラを使い、(1)清水寺、(2)金閣寺、(3)二条城、(4)平等院鳳凰堂、(5)伏見稲荷、(6)立命館小学校、の6ヵ所をゲームで制作。
歴史建造物を作った後は、Code Builderを用いて、エージェントが観光ガイドをできるようにプログラミング。
どういう経路で案内すれば、歴史建造物の良さが伝わるかなど、観光のポイントを考えながら、エージェントに動きと英語のセリフをつけ加えます。
もちろん、こうした作業もグループで話し合いながら行い、ひとつの作品としてまとめていきました。
こうして知恵と心が篭ったマイクラプレゼンを聞いた海外の子どもたちの反応も上々。とても良い海外文化交流となったそうです。
ゲームへの先入観を無くす
とはいえ、MEEの導入校は増えているものの、理想通りに活用されているかというと…、まだ道半ばなのではないでしょうか。
もしかしたら、未だ「ゲーム=ただの遊び」という方程式が社会全体で考えると根強いのかもしれませんね…。
新しい展開としては、5月27日に正式リリースされた「The Camps and Clubs Update」により、MEEが学校以外の教育機関や非営利団体にも門戸が開かれたと報道されました。
先日のAI同様、ゲームも活用次第で、「ゲームは遊びの機械」と決めつけず、上手に活用していけば学習にとっても非常に有効なツールに変わると感じています。
しかも、そもそも遊びの中にも学びは多く存在しています。
もちろん、ゲームの中毒性問題など懸念点は抑えながらも、今後のゲームの学習ツール化についての発展に期待したいと思います。