「出社回帰」に思うこと
column vol.941
3月13日からマスクが個人的な判断に任されるなど、徐々にコロナ対策が緩和することに合わせて、高まってくるのが「出社回帰」のムードです。
特に昨年、マスクはマスクでもイーロン・マスクさんが「週に最低40時間オフィスで勤務しないとクビ!」というお達しを出したことが世界に衝撃を与えました。
他にも、DisneyやApple、Googleなどなど、世界の名だたる企業で出社回帰を唱えることもあってか、日本の企業の間でも出社を求める考えが拡がっていると感じます。
オフィス勤務にシフトした方が良いという理由はいくつかありますが、よく聞くのが「企業文化の醸成」と「リモートによるサボる社員の抑制」です。
(他にも、単純にオフィスの賃貸料がもったいないとか)
企業文化の醸成は、企業内でのマインドシェアだけではなく、社員間の情報交換や親密性の向上なども含まれます。
ということで、本日は主な理由2つに絞って、考えてみたいと思います。
オフィス勤務で「企業文化の醸成」は成るのか?
まずは個人的な考えをお話しすると、私はハイブリットワーク推進派で、オフィス勤務、リモートワークそれぞれにメリット・デメリットがあると感じています。
ですから、当社では社員が上手くそれを選択し、組み合わせてもらうようにしています。
(もちろん、柔軟な勤務形態で働ける場合ということが前提です)
「企業文化を醸成したい!」と経営者が考えても、結局は社員がそれを望まないとオフィスに出社してもらってもあまり意味がないからです。
「ABEMA TIMES」の討論会で、元NHKアナウンサーの堀潤さんがこのように話しておりました。
〈ABEMA TIMES / 2023年3月1日〉
こういった考え方に共感する人はいるでしょうし、そんな人たちに企業文化を押し付けても逆効果なような気がします…
もしも企業文化を醸成させたいのならば、オフィス勤務を強要する前にやらなくてはならないことがある…
ちなみに、Slackが働き方の未来に着目して立ち上げたコンソーシアム「フューチャー・フォーラム」の調査では、柔軟な勤務形態で働く従業員は、完全オフィス勤務の会社で働く従業員よりも「過去2年で企業文化が改善した」と回答する割合が57%高いという結果が出ています。
企業文化が改善した主な理由として「柔軟な勤務形態」が挙げられているのです。
〈Forbes JAPAN / 2023年3月2日〉
つまり、「オフィス勤務だから企業文化が醸成される」とは一概に言えないのです。
「リモートワーク」したい理由はさまざま
それから、「リモートワークだとサボる人が出る」という論調にも冷静な目を向けてみます。
私の考えを言わせていただくと、「サボる人はオフィス勤務であろうがサボる」と思うのです。
コロナ前、みんながオフィス勤務していましたが、サボっている人がいなかったかどうか…?
そもそも、この「サボる」というのは見る側の主観(キャパシティ)によるところが大きいので、ここにも慎重な眼差しが必要なのだと思いますが。
ちなみに、知人から聞いたリモートワークを活用する理由が面白かったので共有させていただきます。
知人の部署では、「忙しい自分をアピールする」ために出勤する人もいるそうです。
その人は打ち合わせも長く、そして雑談も長い……(汗)
その雑談の内容は「いかに自分が大変かという話」がメインなので、それを聞いているだけで一日が過ぎていく日もあるそうです。
一日中話ができる人が果たして忙しいのかどうか…
サボるという言葉は適切ではないので、人から見るとキャパシティの狭い人の中には「巻き込み型」の人もいると考えられるのです…
ですから、その知人は上手くリモートを活用しながら、一週間の業務に向き合っているそうです。
別の知人からは「仕事がないアピール型」という人がいるとも聞きました。
少し問題のあるタイプの方らしいのですが…、そのキャラクターゆえに仕事の集まりが悪い状況なのですが…
しかし、本人としては「不遇を受けている」と感じ、一切出勤せず、暇アピールをしているとのこと。
では、オフィス勤務時代はその社員はどうだったのか?
知人によると、ずっとYouTubeを観続けていたそうです…
知人や同僚としては「それならリモートしてくれていた方が良い」と感じているとのこと。
ポイントは「出社」か「リモート」ではない
「巻き込み型」や「仕事がないアピール型」の話を聞いて、「そういう人を放っておく会社がおかしい!」と思う方もいらっしゃるでしょう。
ただ、ここで重要なのは、その解決においても単に「出社させることだけではダメだ」ということです。
まず、経営陣が考えないといけないのは、「どうすればその社員を活かせるか」「皆から認めてもらえる(少なくても許容してもらえる)か」を丹念に考えていくことでしょう。
つまり、活躍どころをつくる努力が必要です。
アメリカの大手が「出向回帰」に舵を切るには、こういった理由もあるかと思います。
先ほどの「ABEMA TIMES」の討論会に出席した株式会社ACROVE代表取締役の荒井俊亮さんの意見です。
つまり、出社回帰は「人員削減しないといけないから、本気の人だけ残って」という隠れたメッセージでもあるということですね。
つまり、レイオフを考えていない企業は、先ほどのフューチャー・フォーラム(slack)の調査結果が示すような「柔軟な勤務形態」を採用する方が企業の成長につながるのではないでしょうか。
ちなみに、コンサルティング企業「グローバル・ワークプレイス・アナリティクス」のプレジデントであるケイト・リスターさんが行った調査でも、ハイブリッド勤務の企業は、完全リモートや完全オフィス勤務の企業と比べて、従業員エンゲージメントが常に高いとのこと。
そして、フューチャー・フォーラムの共同創設者でバイスプレジデントのシーラ・スブラマニアンさんはこのように結論づけています。
結局、上手くいっている会社は経営陣が社員を信じている。
人は強制されると反発してしまう。
子育てでも「勉強しなさい!」と言って、「うん!がんばるね!!」とモチベーション高く勉強を始める子は少ないでしょう。
社員の間でもモチベーションや能力にグラデーションがあることは仕方ないことです。
その中で、じっくりと辛抱強く「内発的動機づけ」を社員の心に芽生えさせていくということが肝要なのでしょうね。