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消費者の拠り所「ハイヤーセルフ」
column vol.932
これまで、noteの記事の中で「ファンマーケティング」について、ちょこちょこと取り上げてきましたが、ファン心理を醸成するにあたって、消費者が本質的に求めている価値(欲求)について深く理解できる記事に出会えたので共有させていただきます。
それが、フォーブスジャパンの【キーワード「SBNR」から考える。消費、つながり、社会、どう変わる?】です。
〈Forbes JAPAN / 2023年2月17日〉
この記事は、熱心なファンたちが生み出す経済圏「ファンダム・エコノミー」や、経済成長でも科学でも解決できないことが山積みの現代において、個人が信じられる心の豊かさを消費を始めとする体験に求める「Spiritual But Not Rel igious(SBNR、宗教的ではないが神秘的ないし精神的)」についての解説記事なのですが、「ハイヤーセルフ」というキーワードが出てきます。
直訳すると「高次元の自分」
私はこのハイヤーセルフにこそ、VUCA時代を照らす一筋の光なのではないかと思っているのです。
「藤井風」になぜ皆惹かれるのか?
ファンマーケティングとは、その名の通り「ファン」を育てることなのですが、単に商品やサービスをたくさん買ってもらえるようにすることとは違います。
「ファン顧客」と「上顧客」の違いは、「応援したい」かどうかにあります。
つまり、ファン顧客とは企業やブランドを熱狂的に支持してくださる方々のこと。
では「熱狂」や「応援」はどのようにして生まれるのか?
その1つのポイントに「ハイヤーセルフ」があると思うのです。
例えば、人気アーティストの藤井風さんの楽曲の根底にはハイヤーセルフがあります。
藤井さんは
全ての人の心に、エゴや利己心、嫉妬などというネガティブな感覚とは無縁の善良なヒーローが宿っている
という考えを持ち、楽曲でその価値観を表現しています。
特に昨年10月にリリースされた最新曲『grace』は「ハイヤーセルフとの対話の曲」というイメージが強い。
つまり、藤井さんのファンは楽曲を通して、「善良なヒーロー」「心優しい天使」である自分を取り戻すことができるのです。
なぜ時代は「倫理消費」に向かっているのか?
生活者は「正しい自分でありたい」という欲求を抱えていると仮定します。
思い出すのが3年前に話題となった「バイコット運動(買うことで支持を表明)」です。
当時、白人警官が黒人男性を死亡させてしまった事件に端を発して「BLM(黒人の命は大切)運動」が立ち上がりましたが、この運動を支持してくれた企業の商品を積極的に購入するというムーブメントが起きました。
つまり、「正義の消費活動」ということです。
他にもSDGsにつながるキーワードとして “フェアトレード” や “サステナビリティ” などを重視する「倫理消費」が、まさにそうですね。
「正義」というのは少し言葉として強いかもしれませんが、「世のためになっている自分」「人や社会にやさしい自分」でありたいという欲求は、日常のさまざまな消費行動でも見られます。
例えば、ファンマーケティング企業のシンボルである「よなよなエール」のヤッホーブルーイングには多くのファンが集まりますが、ここでもハイヤーセルフが存在すると感じられるのです。
「よなよなエール」のファンたちは、コミュニティを通して「クラフトビールを楽しみながら人々と心の交流を図る文化」を育んでいるという感覚を持っているような気がするからです。
クラフトビールがあることで「心のつながり」「心の拠り所」が生まれているという感覚です。
それは、日本の「茶礼文化」やフランスの「アペロ」に通ずるところがあるでしょう。
お茶やワインを媒介に、家族や仲間との団欒が生まれる。
クラフトビールは、家族や仲間を大切にする自分でいるためのツールであるとも言えるのです。
現代は「コミュニティ」を失った社会
では、なぜ現代社会が今、ハイヤーセルフを求めているかという話です。
そこには「コミュニティの希薄化」と「20世紀の幸福モデルへの疑問」があるような気がしています。
今日は昔と比べて地縁も血縁も社縁も薄くなってしまっている社会です。
そして、所得や出世がすなわち幸福ではないことを人々は知ってしまいました。
だからこそ、斎藤幸平さんの書籍『人新世の「資本論」』で語られている脱成長コミュニズムに注目が集まっているのでしょう。
考えてみると、人間が一番ハイヤーセルフ(正しい自分)でいられる(いたい)人たちって誰だろうと考えてみると、それは家族なのではないでしょうか。
親は子に何を一番教えているかといえば「倫理」「道徳」ですし、子どもの前ではなるべく正しい自分を見せたいわけです。
ヤンキーが仲間を大切にするというのも世の定説であるように、人は家族や友人の中で「正しい自分」「やさしい自分」であろうとし、コミュニティにいることで、一般的にはその欲求が満たされるわけです。
それなのに、地縁や血縁は薄らいでいる。
だからこそ、好きなこと(共通の趣味)で集まれる「趣味縁」が生まれるわけです。
好きなことで集まっていれば、好きなことでつながっている限り、自分は仲間から否定されないわけですし、自分も仲間を否定することはないわけです。
その中にいれば、ハイヤーセルフである自分でいられるわけです。
ファンマーケティングの根底は「応援消費」。
何かに貢献したいという欲求を満たすことにあります。
そう考えると、予測不能なVUCA時代と言えども、企業が正しい姿でいようとし、生活者を豊かにするための有益な商品・サービスを提供し続けることは、時代が変わっても変わらない普遍的な解なのではないかと思います。
その上で、「ハイヤーセルフな自分」でいたい生活者(消費者)の願望を叶えるための装置をつくり上げていく。
そうしてハイヤーセルフを通して企業と消費者の心が結ばれている状態が「ファンダム・エコノミー」の源泉になるような気がしました。
つまり、企業は生活者に正しい企業であることを示すことはもちろんのこと、生活者が正しい自分であるための世界(例えばコミュニティ)を商品やサービスをツールに築き上げていく視点も実は重要なのだと思います。
恐らく、それは企業経営(経営者と従業員の関係)を考える上でも同様なことが言える気がしてきましたので、その辺は明日の記事で語りたいと思います。
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。