見出し画像

「不安」が成功に導く

column vol.495

最近、ビジネスの現場で「レジリエンス」という言葉が一般化してきました。

レジリエンスとは、「回復力」「弾性(しなやかさ)」を意味する英単語。

困難な問題危機的な状況ストレスといった要素に遭遇しても、すぐに立ち直る力です。

今日は、コロナ禍の不安がはびこり、予測不能なVUCA社会でもある。そして前人未到の人生100年時代超高齢化社会であることなど、不安のタネは数多あります。

答えがない世の中だからこそ、失敗も多いはずです。

そんな中でも「心折れない」「逆境に負けない」心の耐久性をつくっていく。そんな心のしなやかさが今、求められています。

一方、「もっとポジティブになれ」「もっと強くなれ」と言われているような気持ちになりますが、実はネガティブな思考もレジリエンスを高める上でとても有効になるようです。

欧州で注目される「ストア哲学」

不安恐れを持つというのは、何か情けない気持ちになりがちですが、実は個人や組織を守る上で重要な感情になります。

それを裏付けるように、最近特に注目されているのが「ストア哲学」です。

〈Newsweek / 2021年11月10日〉

まず、ストア哲学というのは2000年も前から存在する哲学

キプロスの裕福な商人だったゼノンによって始められたそうですが、幸福を得るための「自律術」です。

変化していく世界はコントロールできませんが、その変化をどう受け止めるかは自分自身でコントロールできると考えます。

古くはジョン・D・ロックフェラートーマス・エジソンらの起業家がこの哲学から影響を受けたと言われ、現在ではハフィントン・ポストの社主、アリアナ・ハフィントンさんや、SquareやTwitterのCEOであるジャック・ドーシーさんがシリコンバレー・ストイックと呼ばれるほどの信奉者とのことです。

歴史的に見ても、第16代ローマ皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌスは、ストア哲学を精神的支柱とした哲人君主として知られます。

パックス・ロマーナと呼ばれる古代ローマが最も繁栄を謳歌した百年の、最後の時代を統治した皇帝で、個人的な覚書とも言える『自省録』は今も読み継がれ、愛読書にあげる政治家も多いのです。

その中で不安や恐れを上手く活用した戦闘術、組織マネジメント術があります。

「逆境の予行演習」で最悪の事態を避ける

ストア派には、「逆境の予行演習」と名付けたレジリエンスの構築があり、マルクス・アウレリウスは、これを実践していました。

つまり、「最悪の事態を想定したシミュレーション・トレーニングです。

恐れていることが実際に起こったと想像することは、最悪のシナリオに備える感情的な戦闘訓練になります。

また、知恵と徳を使ってそのシナリオに対処する方法をシミュレーションすることで、可能な限り、起こりうる不幸をより善い機会へと変えていったのです。

また、同皇帝は人材マネジメントにもこの思考術を活用していました。

――明け方から自分にこう言い聞かせておくがよい。私は、今日、でしゃばり、恩知らず、横柄なやつ、裏切り者、やきもち屋、人付き合いの悪い者に出会うことになる。(『自省録』2-1)

逆境の予行演習は、ネガティブな感情の中でも、特に恐怖や不安を扱うのに適しています。

ストア派は、恐怖を「何か悪いことが起こるのではないかという期待」とポジティブに定義。

それは、認知行動療法の創始者であるアーロン・T・ベックの定義と実質的に同じで、恐怖を感じている時は、未来に焦点が当たっているので、対処しやすいというわけです。

日本でも戦国時代、勝率68%と驚異の勝ち星を上げてきた武田信玄とても小心者だったと聞きます。

一流の武将、経営者には小心者が多いと聞くので、不安や恐れを肯定し、どうポジティブに活かしていけるかが肝要なのだと思います。

つまり、長所と短所はコインのように表裏一体。プラスの面にただ転じていけば良いのです。

「有害なポジティブさ」に御用心

会社組織において、公の場ほどポジティブな発言を求められる傾向にあります。

しかし、ポジティブにならないといけないというムードが現実にあるネガティブな感情を抑圧するだけではなく、直視しなければならない現実から目を背けてしまうことにも繋がるのです。

〈Forbes JAPAN / 2021年11月28日〉

・「ポジティブになれ」「元気を出して」「良い側面を見なきゃ」
・「もう考えるのはやめて」「前に進みなさい」
・「何も問題ない」「全てがうまく行く」
・「どんなことにも理由がある」
・「これより悪いことはある」「少なくとも〇〇にはならなかった」
・「心配するな」「ストレスを抱えるな」「怒るな」
・「ネガティブなことは言わない」「楽しいことを考えて」

ダチョウは恐怖を感じると砂の中に頭を突っ込むそうです。

怖いものは見ない。分かりやすい現実逃避です。

リーダーや上司が安易にポジティブな言葉でチームを覆ってしまうと、問題点が共有できなくなり、組織として現実を直視できなくなってしまいます。

これでは、本来プラスの面を持つポジティブさが「有害」に転じてしまっています

それよりも、「逆境の予行演習」を行い、最悪の事態に向き合い、対処を講じ、冷静に準備を進めた方が建設的かもしれません。

有害なポジティブさをなくすためには、次のような言葉を使うと良いとのことです。

・「その気持ちは分かる。解決のために私にできることは?」
・「途方に暮れる/疲れる/怒りを感じるのは普通で、問題ない。自分の気持ちに耳を傾けよう。自分のことは自分が一番理解している」
・「あなたが今つらいことは分かっていて、気の毒に思う」
・「自分に優しくして」
・「あなたのためになりたい」
・「もっと聞かせて」
・「それについて話したい?」
・「解決策を一緒に見つけたい?」

相手を否定せず、自分ごととして寄り添う。

チーム全体で課題を直視する。

そのことが相手の心理的安全性を高め、結局は、課題に向き合い乗り越えようとするモチベーションを築いていくのだと思います。

リーダーは部下ができなかった時にどうフォローするのか?最悪のシミュレーションで冷静にその準備することが、器の大きいマネジメントに繋がります。

ポジとネガを上手にバランスとりながら、この不安定な世の中をしなやかに突き進んでいくことが肝要ですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?