ピンチが「社訓」を教えてくれた【後編】
column vol.165
昨日、執筆いたしました10年前に起こった「茅ヶ崎・南湖商店街で危機一髪」の続きでございます。
食品会社社長のIさんに商店街活性化を目的とした勉強会の講師を頼まれたものの、商店会の方々からするとお呼びで無い状況で、第一回の勉強会は圧倒的なアウェーの中で開催。
どこの馬の骨とも分からない若造に、貴重な商店会費が講師代として充てがわれてしまい、私は憎っくき男という状況でした。
それでも、Iさんからはゴリ押しに近いカタチで残り2回の勉強会を頼まれ、私は断れず、すごすごと帰ることになりました。
帰りの電車の中で、商店会の皆さんの心の鍵をどう開けるか考えてみるものの全く思いつきません…。
同時に、今まで如何に社長や先達たちが作り上げた土壌で、自分がぬくぬくと仕事をしていたかを気付かされました。
「社長たちは、どうやって初めての方々に対して心を掴んできたのだろう?」
当時は社長に気軽に話しかけられる立場ではなかったので、創業メンバーであり、私の尊敬する師匠であるHさんに相談することにしました。
お店の人たちが喜ぶことを考える
翌日、早速Hさんにお声がけします。
前日の地獄のような時間と惨敗っぷりを包み隠さず話したところ、Hさんは大爆笑(…?)
思わず「何で、笑うんですか?」とムッとして尋ねると、Hさんは「悪い悪い…。で、お前どうするの?」と、いつものように質問返しをされました。
(Hさんの教育は、基本、答えを言いません)
私は「それがですね…、昨日から一生懸命考えているのですが…、答えが見えず…。こういう状況を、社長やHさんは、どのように切り抜けてきたのか教えていただきたくて…」と改めてアドバイスを求めました。
すると、Hさんはキリっとマジメな顔になり「何言ってるんだ、お前?ウチの会社の経営理念と行動指針に書いてあるじゃん」と返答。
ウチの会社の経営理念と行動指針…?
私はクレドカードに書かれている言葉を改めて思い返します。
【経営理念】
Our Mission / 私たちの使命
生活者を主人公とした社会の実現
【行動指針】
Venture Spirit / 私たちの精神
起業家精神を持ち、生活者の新しい視点でビジネスモデルを創造する
Customer Agency / 私たちの役割
生活者と対話し、その代理人となって問題解決する
Professional Way / 私たちの成長
生活者・顧客に学び、自己成長をかけてプロとして行動する
Team Working / 私たちの職場
個性を活かし、チームワークを大切にし成果を分かち合う
……………(汗)。…どこ?
正直、ピンとこなく黙っていると、Hさんは「じゃあ、さっき笑っちゃったから、特別にもう少し教えてやる。まずは、難しいことを考えず、お店の人たちが喜ぶことを考えろ」と一言添え、「じゃあ、がんばって」と、その場を去ってしまいました。
お客さんの気持ちを考える
「お店の人たちが喜ぶこと」
…なるほど…、そういうことか…。
私はHさんの教えを理解し、後日、南湖商店街に向かいます。そして、全ての店を回り、買い物を始めました。
大抵の店主は私に一瞥を向けるもののつれない態度。それでも、商品を選んでいる私を横目で気にしている様子でした。
ただ唯一、和菓子屋の女将が「これ、食べてみる?」と、試食を進めてくれたのです。
勧められたお菓子を食べ、感想を話すと、気を良くした女将がさらに試食を促し、それぞれの商品のストーリーを語ってくれるようになりました。
私は特に共感した商品を少し多めに買い、商店街を後にします。少し多めに買ったのは、和菓子好きの知り合いに食べてもらうためです。
そして後日、和菓子好きの感想と自分の見解をお土産に、また女将に会いに行きます。すると、女将は私の言葉に耳を傾けてくれました。
そのまた後日、商店街にやってくると、和菓子屋の女将が計らってくださったのか、他の店でも私に話しかけてくれる方々が現れました。
洋菓子店なら洋菓子好きに、酒屋なら酒好きに商品をつなぎ、自分の見解と一緒に店主たちに話していると
店主たちは自店の商品についてだけではなく、店や街についても語ってくださるようになり、私は買い物を通じて、多くの対話を重ねることができました。
しかし、会長だけには会えません。会長は当時、確か80歳そこそこのご高齢で、お店には不定期で立たれており、結局は会えずじまいで2回目の勉強会を迎えることになりました。
勉強会2回目からの変化
会場に向かう道中は緊張感が胸を占拠しています。
店主たちの中には、話せるようになった方もいましたが、全員とは言えません。そして、何より会長とは一度も話せなかったので、そのことが気がかりした。
会場に着き部屋に入ると、1回目と同様、皆さん談笑ムード。
しかし、ここからです…(汗)
覚悟を決めて「こんにちわ」と元気良く挨拶すると、皆さん一斉にこちらに振り返りました。
その視線の多さに圧倒されていると、一人の店主が「おお、お客さん!売り場はあっちだよ」と商店街の方を指差し、高笑いを始めました。
そして、他の皆さんもその言葉に呼応するように、「‘’ウチでたくさん買えよ”いじり」が始まり、会場は笑いに包まれました。
会長をチラリと見ると、一切笑わず遠巻きでその様子を眺めています。
…ゴクリ…
そしてキリの良いところで、会長が「よし、勉強会を始めるぞ」と号令をかけ、皆さん一気にマジメモードに。会場の笑いはスッと消え、皆さん静かに席に着かれました。
…やはり、会長は私を受け入れないか…
ちらっと、会長の席に視線を向けると、そこには第一回のテキストが!しかも、テキストにはマーカーや書き込みがあり、明らかに読み込んだ形跡が見られました。
おおお!
すると、会長が「先生、じゃあ、よろしくね」と穏やかな表情で言葉を投げかけていただき、和やかなムードで勉強会をスタートすることができました。
第二回は「自店の強みの発見」がテーマだったので、皆さんとの対話が必要でしたが、不安をよそに勉強会は大盛り上がり。終始楽しく、あっという間に2時間が経過しました。
勉強会が終わった後も、1時間ぐらいは意見交換が続き、第三回もとても濃い対話をすることができました。
迎えた秋の商店街主催のお祭りでは、例年になく住民が集まり、商品もそこそこの売り上げに。もちろん、まだまだ改善の余地はありましたが、変革の波は海辺の住民に届いたのではないかと感じました。
何より勉強会をきっかけに、自分たちでマーケティングや商品作り、PRを勉強してくださるようになったので、当初の目的通り、リテラシー向上には繋がったのではないかと思います。
店主の皆さんも、お店に顔を出すと、お土産をくださるなど良くしていただき、それを見かけたIさんが「いやぁ〜、池さんに頼んで良かったよ」と、「ウソだろ?」という思うほど明るいトーンで褒めてくださいました。
10年経って思うこと
今、振り返るとこの出来事が、私の1つの大きなターニングポイントになったことは間違いありません。
行動指針に「カスタマーエージェンシー」とありますが、我々のコンサルの基本は顧客のニーズを読み解き、その代弁を行うことにあります。
時流研究、顧客調査の前に、まずは自分自身が顧客になることを大切にし、顧客としての実感をコンサルや顧客分析の仮説に繋げています。
今年も新規案件に恵まれましたが、その内の1社はまさに当社の社訓が仕事を広げてくれています。
20代の頃に一緒に仕事をしたクライアントが販促の責任者になり、再び声をかけてくださったのですが、その商業施設は今、顧客の見える化に苦心しています。
そんな中、まずは自分が顧客になり、館を利用する中で得られた実感を都度都度報告してきました。
その甲斐あってか、顧客リサーチを当社にお願いしたいと、当初予定に無かった依頼を年末にいただくことになりました。
来年早々には動かないといけないので、冬休みの宿題が増えて幸せです。この期待に応えたいと心に火がついております。まずは、2日がその館の初売りなので、妻を連れて、お買い物実感を高めたいと思います(笑)。
ちなみに、今回この記事を書くきっかけを作っていただきました久保田さんですが、こちらの記事もご紹介せずにはいられません。
【「スキボタン制限」を考える。】
私もスキボタンを押したはずなのに、制限を超えていて押せてない場合が多く、「ちゃんと読んでいるのに…」「ボタンを押したのに…」と悲しくなることが多いです…(涙)。
この悩みが、来年は無くなれば良いなぁと願っているのですが、noteさんいかがでしょうか…?
また、スキ制限がある中で、私にスキを割いてくださっている方々には本当に感謝していますし、本当に大スキです。
大晦日の今日、スキボタンでは表せない気持ちも伝えさせていただきました(久保田さん、何度も記事を引用させていただき、恐縮です…!)。
というわけで、今年は大変お世話になりました。来年も、そしてそれ以降も、ぜひぜひ末長くよろしくお願いいたします。
それでは、良いお年を!
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