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『詩篇の花束』(広路和夫写真・草苅美穂花・いのちのことば社)

義母に差し上げようと思った。店頭で見たとき、これはステキだ、と感じたのだ。
 
2003年に発行され、入手したものは2014年の第8刷である。長きにわたって、よく売れているということなのだろう。ただ、私が好んで買うタイプの本ではなかったので、私の視界には入っていなかった。いま、こうして誰かのために役立つことを考えるようになって、目に映った景色だ、ということだろうか。だから、写真がこよなく美しく輝いて見える。
 
内容は、詩篇の中での、印象的な言葉の一部が、その多くは2、3行程度で引用されているだけの本だ(詩篇23篇は例外)。レイアウトは様々だが、たとえば見開きの片側の頁が詩篇、もう片側が花の写真、というふうなものが目立つ。頁一杯に写真があることは稀で、殆どが比較的小さく切り取られている。が、それも頁によっていろいろ異なる。
 
背景はすべて白。清潔な印象を与える。花は基本的に花瓶に入れられている。ときにポットやバスケットに入っているが、土がついているのだろうか。中には花束の形もある。置かれている背景は、部屋の中といっても、窓辺の明るい光のもとなど、部屋の中も随所である。あるいはまた野原も少なくない。
 
このように、形式がワンパターンにならず、実に多様である。全く、厭きさせないという意味では、天才的な構成であると思う。私はこのデザイナーに敬服する。この美しさといったら、なんなのだろうと思う。
 
それから、もうひとつ特筆すべきことがある。その詩篇の言葉には、第何篇などといった数字が、一切書いていないのだ。
 
これは私の心を貫いた。教えられた。そうだ、聖書の言葉には、このような数字はないのだ。ここに見えるのは、聖書の言葉のみ。もちろんヘブライ語というわけではないが、日本語でも十分だ。むしろ日本語だからこそ、伝わる。真っ白く正方形に近いその頁に、贅沢に置かれた短い聖書の言葉。もしこれが、長く全編書いてあったらどうだろう。読むのに忙しくて、ああ読んだ、と終わりそうだ。だがほんの2、3行ならば、読み返す。何度でも、何度でも目が往復するし、ひとりでいるならば、きっと声に出して読むだろう。声に出すということは、実は最高の読み方なのだ。昔の人は字が読めないのが基本だったから、耳で聞いて覚えた。詩篇だから、歌として歌った。目で読むものではなかった。声に出すべき言葉だったのだ。それがまた、人の言葉であると共に、神からの言葉として自分の耳に入ってくるようになる。それもこうして、何度も繰り返し、ゆっくりじっくり味わうことができるものとして与えられている。なんと素晴らしいことではないだろうか。
 
その横には、鮮やかな色とりどりの花が、最高の写真として佇んでいる。この世界でも最も美しいものと認められるのが、花ではないだろうか。その花々が、基本的に影が写らないように撮影されている。光の中を歩め、少しも暗いところがない、と聖書は神と聖徒について告げることがあるが、まさにここにある写真は、光の中の花である。もしかすると、黙示録が描く天の都エルサレムは、このような景色ではないか、と思えるほどである。小羊が光であるから、そこには夜がない、と言っていたではないか。
 
私は思う。この写真家は、このような聖書の理解を、私たちにメッセージとして届けているに違いない、と。
 
この美しい光と共に、神の言葉がぽつんと届けられる。どうしてこれが心に留らないはずがあろうか。タイトルの「詩篇の花束」という言葉も、これ以上は求められないほどに美しい。
 
いのちのことば社である。聖書の言葉は新改訳である。その響きはとても優しい。やわらかな言葉で、心に花咲くような印象さえ与える訳語だと思う。実によくできた本である。私は絶賛したい。
 
ただ、その詩篇に心が動かされて、その周辺の言葉も知りたい、と思う人がいるかもしれない。あるいは、もっと詩篇というものを知りたくなることもあるだろう。大丈夫。本書は巻末に、その頁の言葉が詩篇の第何篇の何節か、ちゃんと記録している。この数字は、聖書を開きたい人のために、特別に置かれたものである。花の写真のところには一切ない。
 
さらにうれしいことに、写真の花の名前も、そこに同時に載せられている。この花を飾りたい、花屋さんに行って注文したい、そのようなニーズに完全に応えるものである。いったい、これまでどれくらいの本が、花束の写真集に、一つひとつ全部の花の名前を教えてくれたであろうか。
 
だが、その索引の後、奥付を除く最後の頁には、中央に小さな花の写真がある。同じ写真は3頁前にも、「詩篇引用箇所&花の名前」という見出しの上にあったが、この花だけは、名前が記されていない。
 
その下に中央寄せで、次のような言葉が記されている。ネタバレになってしまうかもしれないが、あまりにもステキなので、紹介してしまう。本書にある、聖書の詩篇以外の、唯一の言葉らしい言葉である。
「名も知れぬ草花が心を癒し、/詩人たちの祈りが魂を天に向けてくれます。/なぐさめと希望が、あなたへ届きますように。」
 
最後まで、心憎い演出だった。強い信仰を伝える本だった。因みに、美しい花の写真のカバーを外すと、本体の表紙は、真っ白である。
 
もっと早く本書を知っていたらよかった。そうしたら、私の母にもこれを手に取ってもらったであろうに。

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