生酛本来の味に対する疑問 その3江戸の食の発展の側面から 本日の紹介酒は天狗舞 山廃純米酒(石川県)
読者の皆様、ファーストフードと言えば、イメージするのはマクドナルドや吉野家の牛丼、くら寿司等を想像すると思いますけど、江戸時代にもファーストフードは有りましたし、現在のような定食が出来たのも江戸で江戸の街を作るための人夫さんの為に考えられた奈良茶飯が最初だったと言われています。
※下記映像に関しては、お江戸系Youtuber堀口茉純さんのページより引用いたしました。
江戸幕府が開府したのが1603年ですが、その当時の江戸の街は街自体の整備が不充分でしたし、1609年時点でも江戸の街の町民人口に関しては15万人程度で食文化以前に街自体の整備が不十分ですし、日本全体の人口自体が1600年時点で1230万人程度だったと言われていますし、大坂の陣自体が行われたのが1614~15年で、本当の意味合いで江戸幕府の天下統一が終わり日本全体が太平の世を迎えたのは1637~38年の島原の乱が鎮圧されて以降だと思います。
※下記画像は島原の乱を題材にした魔界転生のYoutubeムービーさん(https://www.youtube.com/channel/UClgRkhTL3_hImCAmdLfDE4g)より引用しました。
ただ、世界史上他に無い約260年にも及ぶ太平の世を築き上げ、現代のようにコンピューターも機会も無い状況で世界的に類を見ない食文化と町人文化、経済文化と国家管理に絶対必要な官僚システムと経済システム、現在のアメリカのような合衆国システムとも言える幕藩体制を築き上げたことに関しては本当に驚愕に値しますし、本当に西洋人が日本を幕末に植民地化できていたかどうかを考えると私はどう考えても無理だっただろうと思います。
※下記画像はNHKより引用の大名配置図
前置きは長くなりましたが、江戸の街がほぼ完成し文治政治が行われるようになったのは、四代将軍徳川家綱公の頃からだと言われており、この時代の1651年に置いても油井正雪の乱と呼ばれる江戸幕府を転覆させようとした反乱が起こっています。一方で、この時代には、将軍を補佐した会津藩主保科正之公、前橋厩橋藩主大老酒井忠清公、加賀前田家五代前田綱紀公や天下の副将軍と呼ばれ日本で初めてラーメンを食べたと言われる水戸徳川家徳川光圀公、芳烈公と呼ばれた岡山藩主池田光正公等、名君と呼ばれる優秀な人材が中央にも、地方にも誕生し、平和な時代でなければ発展しない独特の江戸の食文化を形成する下地が出来たのも、この家綱公の時代からだと思います。
※下記画像は水戸黄門オープニング(Youtubeより引用)
一方で、江戸文化以前に加賀百万石の加賀藩では江戸の食文化が形成される以前に、酒文化も幻の加賀菊酒が戦国時代からが存在し、藩祖前田利家公が加賀に入府する頃には「加賀鶴」の銘で知られる「やちや酒造」が1583年には尾張の国より移住し酒造りを開始し、1590年頃から独自の和菓子文化が形成され、さらに前田利家公百万石の経済力を背景に独自の食文化の基礎になる部分の下地が名君と呼ばれた三代目前田利常公によって整備が行われ、1620年代には現在の金沢港に近い大野で醤油造りが行われていました。
※下記醤油5大産地の図は石川県の大野醤油醸造組合様のHPより引用しております。
実際に1702年(元禄15年)4/26に徳川綱吉公江戸屋敷御成で振る舞われた当日の料理は以下のとおりです。
・朝 二汁五菜・酒肴一種・銘々菓子三種、木具 二〇〇人前
二汁五菜・酒、干菓子足打紙敷盛、木具 六五〇人前
一汁五菜・酒、菓子出る、木具 八〇〇人前
・夕 三汁八菜、後段酒肴一種・吸物・菓子、後菓子縁高盛、八寸居、木具 三一〇人前
二汁七菜、後段酒肴一種・吸物・菓子、後菓子縁高盛、八寸居、木具 五五〇人前
二汁五菜、後段酒肴一種・吸物・餅菓子、片木盛、八寸居、木具 一二〇〇人前
一汁四菜・酒・餅菓子、片木盛、木具 一五〇〇人前
一汁三菜・酒・餅菓子、片木盛、木具 二〇〇〇人前
締めて29万8千両(日銀の資料では、この頃の1両が6万円ですから単純計算で約179億円になります。上記資料は東京大学コレクションより引用)
上記の料理ですが、全て冷蔵庫の無い時代の料理で、お酒は加賀から持ち込みだったようです。この頃には包丁侍で知られた舟木伝内氏が加賀藩のお抱え料理人として腕を振るっていたようで、当時の加賀藩と言うのは、103万石のずば抜けた経済力を背景に独自の料理文化を誇っていて、お酒に関しても水酛をベースに高い技術力で造られたお酒が存在し、実際に金沢の福光屋さんで元禄のお酒を再現したものが発売されています。(実際にそのお酒が以下で見れます、2段下は実際に将軍様の供応で使われた殿様の献立 徳川ミュージアムより引用)
江戸の料理の発展に関して
始まりは、家康公が持ち込んだ三河の田舎料理でかなり質素で、塩、味噌、酢を使ったもので、かなり塩辛かったようですが、この頃は、武家も江戸の普請に集まっていた人夫の方々もこれで良かったし、油井正雪の乱が終る頃の1650年位迄まで、江戸の庶民にとって食は「生きるための物」であり、現代のような「楽しむための物」ではありませんでした。そう考えると、大坂が天下の台所と呼ばれたのも何となく分かる気がします。
※奈良茶飯の再現 江戸の外食・醤油文化のページより
元禄期に入ると、日本全体の急激な経済発展により人口が江戸幕府開設当時の約2.5倍、経済規模も約2.6倍になり、これに伴い江戸自体も急激に経済発展を遂げ、徐々に食を楽しめる環境に移りだして来ました。また、江戸初期は紀州湯浅の溜り醤油が江戸へ移出されていたようですが、1645年に千葉県の銚子でヤマサ醤油が開業し、元禄年間の1697年には濃い口醤油の醸造が始まったようです。また、この頃の江戸は鰹出汁、上方は昆布出汁がメインでした。江戸の経済の急激な発展に伴い、上方でも下り酒の猛烈な品質の向上の為の技術開発競争が激化し、池田や摂津富田では、お酒の製造権である酒造株の貸出がこの頃から行われるようになり、今までのように造れば売れるという状況から変化しだします。この頃に下れない酒が、下らないと言われるようになり、初期の生酛や柱焼酎等の新技術が伊丹で確立されましたし、江戸に置いては当然、中国酒(現在の愛知や三重で造られた)や地回り酒との市場競争も行われていました。
※下記画像は忠臣蔵絵図(Wikipediaより引用)
さらに時代が8代吉宗公の享保期(1716~36年)位に成ってくると、新田の開発や農業の技術が発展し、大きな戦争もなく世の中も安定期に入ってきて、江戸の暮らし自体が豊かに成ってくると、1733年(享保18年)には両国の川開きの花火が行われたり、江戸の街中で夕方に総菜やお菓子、おつまみを売り歩く棒手振りが出て来たり、暑い中でスイカや瓜、水菓子等を売り歩く商売人も誕生しました。また、屋台の天ぷら屋、蕎麦屋、時代がもう少し進んだ頃には、江戸前寿司(屋台で生モノでは無く、煮たものや醤油、昆布、酢で絞めたり漬けたりしたものがネタ)の屋台や高級料亭も登場しだしました。お酒に関してはこの後、田沼時代を経て、酒造株が事実上の自由化になり、松平定信公の時代に一時的に、関東御免上酒が奨励され上方の酒の流通がストップした時期がありましたが、江戸後期から伊丹酒よりも水車で精米され、宮水を使用し、マニュファクチャーによる大量生産が可能で、比較的スッキリした味わいの灘酒が台頭しだしました。
※下記画像はお江戸系Youtuber堀口茉純さんのページより引用いたしました。
次回は、幕末から大正年間、昭和初期に至る食と日本酒のお話をしますが、加賀の食文化、現代でも独特ですが、当時としては豊富な食材と莫大な経済力を背景に、食もお菓子もお酒も独特の文化を形成していますし、現代でもきき酒師目線で見ると、食もお酒も独特の文化が存在すると思います。生酛系のお酒に置いても石川のお酒に関しては、比較的味が濃醇で俗に言われる生酛系らしい山廃のお酒って話になりやすいとは思います。一方で石川県の食文化や能登の豊かな漁業や農業を見ていると、都会の生活とは違って食材の味わいが濃醇であり、また、漁業や農業関係の仕事の方が多いので都市部の比較的淡麗でキレイなお酒ではどうしても物足りなくなる部分は否めないと思います。
※下記画像は能登の祭り(北陸朝日放送のページより引用)
やはり、食も酒も時代背景やその土地により求められるものやニーズが変化するので、生酛系の味わいも必ずしも濃醇である必要は無いように思います。
本日の紹介酒、石川県を代表する天狗舞の山廃純米酒です
日本酒テイスティングデータ
銘柄 75、天狗舞 山廃純米酒 (石川県)
主体となる香り
原料香主体、凝縮した根菜お系の香と凝縮した柑橘香有
感じた香りの具体例
焼いた餅、バター、ビスケット、稲穂、ホワイトペッパー、オレンジママレード、メープルシロップ、干しシイタケ、アーモンド、千切り大根、樫樽
甘辛度 やや辛口
具体的に感じた味わい
ふくよかでキレの良い飲み口、ふくよかでなめらかな旨味が主体、後味のキレは良い、干しシイタケや千切り大根を思わせる含み香
このお酒の特徴
ふくよかで滑らかキレの良い味わいの醇熟酒
4タイプ分類 醇熟酒
飲用したい温度 20℃前後、50℃前後
温度設定のポイント
20℃前後にて、ふくよかで柔らかくキレの良い味わいを引き出す
50℃前後にて、ふくよかで滑らかキレの良い味わいを引き出す
この日本酒に合わせてみたい食べ物
茹で勢子ガニ、ぜんまいの煮物、味噌田楽、サザエのつぼ焼き、車エビの塩焼き、野菜の炊き合わせ、桜餅等
お問い合わせは 酒蔵 http://www.tengumai.co.jp/
Quoraテイスティングブック https://jp.quora.com/q/vqteahszdbwtotmx
※日本酒4タイプ分類に関しては、SSI(日本酒サービス研究会)の分類方法を引用し、参考としています。
※写真は製造元酒蔵様のHPより引用しています。