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44通目 わたしは自分の生まれた場所を知らない
わたしの生まれた病院は、今はもう存在しないようです。実父が喫茶店をしていたことしか知りません。
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それも聞いた話です。わたしは(自分が)本当は、一体どこで生まれた人間なのか、知りたくなりました。
わからないから、明日、戸籍の全部事項証明書を請求しようと考えたら、急に胸が弾んできました。
特段楽になることがあるわけでもないけれど、わたしは自分の生まれた場所の風景を見たことがない。
一度見てみたいと思うです。
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わたしは、自分の人生の歴史が最初から曖昧だったことに、今日初めて気付きました。
そろそろ整理して、人を知るのに、自分のことも知らないようではどうにもならないと、今更。
千葉県で生まれたと聞きました。
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五つの頃には恐らく目黒区の別所坂周辺に住んでいました。コンクリートに丸い模様のついた坂道で、天気の良いときには遠くに富士山を見て、見える見えると言っていたのを憶えているからです。
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近くの大谷さんの家の庭で、井戸のポンプを動かして水を出して燥いだのも憶えています。
それまでの自分が生まれてからどこにいたのか、さっぱりわかりません。
場面は所々思い出せるけれど、誰とどんな風に暮らしたか。恐ろしいでしょう。そんな、どこで誰の元に生まれて、どうして此処にいるのかもわからない人間と話をするのは、きっと恐ろしいだろうと思うです。
こんな、海の上の小舟のようにいるのは、さっさと終わりにしようと思います。 草々不尽
二〇二一年十二月十三日
11.729光年彼方へ枯渇しても愛を湧かす 44
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