自分のデコボコを埋めようとすると胃が反抗する
バランスの悪い人間だと思う。
つい最近も、食欲不振になっていた。
食欲不振なんて誰でもなるので、そんなに気にしなくていいものの、焦ってしまいあれこれと試した。
まず、薬膳の知識を調べて食事に取り入れた。
私の体質には、黒いものがいいらしい。黒ごまとか黒きくらげとか、ひじきとか。それらは補血に貢献度する。
あとは白いもの。豆腐や、山芋、などは体に潤いを与える。
積極的にそれらを食べたが、食欲不振は悪化した。
それから、栄養の動画を見て「女性はたんぱく質質を欠くと色々な不調を招く」ということを知ったので、さらにタンパク質を取り入れた。
ある日、私の胃は勝手に活動を休止させた。
黒きくらげも豆腐も、白と黒の物体のように思えた。
私はゼリーをちゅうちゅう吸いながら「こんなカブトムシみたいな食生活をするために生まれてきたわけじゃないんだよ」と、怒りちらかしていた。
私は私の胃に、もう何を与えていいのかわからない。
家にいると気がめいるので、外に出ることにした。
外に出て作業していると、少しお腹が減った。だけど私は一人前食べられるのだろうかと不安になり、店に入るのを躊躇してしまう。外食するのが好きだったのに。
デパ地下の惣菜コーナーなら少量ずつ買えるということはわかっていたけれど、それは以前に失敗している。
やはり、黒いものや白いものを探してしまい、それ以外はバツをつけて購入しないようにしていた。せっかく購入しても、食べる時に食欲がわかない。
しかし、今は何も食べられないという危機迫る状態なのだ。だから、何も制限する必要がないのだと気づいた。
やっと食欲不振の地の底に足がつき、私は浮上した。
とにかく基準は「食べたい」と思うかで決めよう。少しでも食べたくないと思ったら、購入しない。
こんなに簡単なことがなぜ今までできなくなっていたのだろう。
思えば私の中でインフォデミックが起こっていた。
SNS、本、動画、さまざまなメディアで見た、「あれを食べた方がよい」「これは食べない方がいい」という様々な正解が私の頭で肥大化し、あばれた。そして、私の胃はそれに反抗していたのだ。
外にある正解だけで自分をコントロールしようとしていた。
自分を欠点のない、まあるい人間に仕立てようとしていた。
どこにも欠点のない人間なんているのだろうか。
私はちょっとしたデコボコを埋めようとして、自分を見失い大きくくぼんでしまった。
そうなったら、もう一般的に正しいとされている正解やバランスを無視して、自分のくぼみを満たしてあげるしかない。
家に帰って、デパ地下で買ったものを広げる。
串カツと、卵サンドと、コンビニで追加で買ったツナマヨの海苔巻き。
串カツの玉ねぎは白く透き通って甘く、海苔巻きの海苔は黒々と艶めいて、私の食欲を連れてきた。