稲と発酵と乳酸菌
日本の食に欠かせない稲。
主食の米はもちろん、日本酒、焼酎、味醂の原料、酒や味噌を醸すのに用いる糀、糠漬けや三五八漬けといった漬物など、様々な食物に関わっています。
また稲藁も縄やしめ縄などに使われ、また元来の納豆は稲藁で包んで作られます。
こうしてあげていくと生活に密着している反面、神聖視されている面もあります。それだけ大事なモノだったとも言えるのかもしれません。
それだけ大切にされてきた稲ですが、上の例を見返してみると、神秘的な意味で見えないものではなく、物理的に見えない細菌類との関わり合いが強いものだと伺えてきます。
稲穂由来の麹菌、稲藁に住み着く納豆菌、糠床に棲む乳酸菌と、稲にまつわる菌類は今でも息づいています。
細菌類の存在を知らない時代では神がかった変化に思えたかもしれません。
また稲由来ではありませんが、乳酸菌は日本酒や味噌、ミキを醸すのに大事な役割を果たします。特にミキは日本では珍しい乳酸主体の発酵飲料です。
古来の日本では酒に酔う状態を神が降りたと称した時がありますが、発酵という変化に神の御業を視ていたのかも知れません。
だからでしょうか。乳酸発酵飲料のミキは酒ではないのも関わらず、琉球弧では今も神酒として神に供えられています。
本土では濁酒=どぶろくを神酒として祭りで醸しているところがあります。アルコールの有無という差はありますが、白濁した液体という面では共通しています。
口噛みの酒も濾さない酒なので、多分白濁酒だと思われます。
もしかするとアルコールの有無よりも白い液体にこそ意味があり、無色透明の蒸留酒ではなく、乳酸発酵飲料のミキが供えられているのかも知れません。
あるいは、理屈は分からなくとも乳酸発酵が生活に密着しているのを感覚で知っており、その変化が主体のミキを口噛みの酒の代わりに据えたのかも知れません。
これらは自分の想像で書いています。けれど今でも白は穢れのない色と謂われていますし、ミキに限らず乳酸菌・乳酸発酵は、日本の発酵食品の中で大事な役割を担っています。
なのでその味わいの白い液体は、神に供される飲み物だと感じていてもおかしくない気がします。
乳酸菌は空気中も含め、様々なモノと共に棲んでいます。
先に書いた通り、日本酒や味噌を醸す過程にも入り込みます。けれどだからと乳酸菌が主発酵になるのではなく、麹が働きやすい環境を作り上げる役割を担います。
もちろん乳酸が味に深みを与えますが、それよりも麹が増えやすい酸性環境を作ることが主の働きと言われています。
菌類は共生しているといいますが、乳酸菌もそういった菌の一種であるということでしょう。
逆にその場に悪さをする、所謂悪玉菌と呼ばれる菌類を増やさないように抑制する性質があります。なので一種の魔祓いになっている気がしなくもありません。
まぁ、これは菌類の存在を知っている今の考えではありますが、感じる匂いなどで感じ取った人、例えば杜氏や職人はいたのではないでしょうか。
何にせよ発酵にまつわるものは、見えないモノに神や魔を見出した昔の人にとっては、生活に密着したものであると同時に、神秘的な現象だったのは間違いないでしょう。
ただ乳酸菌の発酵臭は分かりやすく、かつ良い変化の前兆なのが多いので尊ばれたのではないか。そう推察しました。
そして酒やミキ、味噌などの発酵の材料にして主食の稲だからこそ、何よりも大切にされてきたのでしょう。
稲作を始め農業では色々と不穏な動きもありますが、反する動きも多々あります。
何が正しいかは分かりませんが、稲作も発酵も大切に受け継がれていくような未来になることを願ってやみません。
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