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罪悪感通貨
まえがき
車を運転するときに動かすのはハンドルだけどハンドルを見ていても上手く操作できないのと同じで、メンタルコントロールをするときに自分のメンタルと向き合ってしまうのはよくないのではないかと思います。
ストレスを感じたとき、あなたならどう対処しますか、という質問が就活のエントリーシートにあったりするけど、その技術って結構割と達人の技っていうか、だって世の中には「メンタルヘルス・マネジメント検定 セルフケアコース』などというものが存在するのだからもうほんとに。無理です。困ります。
という気持ちで書いた小説です。ぜひアロマキャンドルでもご飯でも炊きながら読んでください。
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棒アイスをくわえながら郵便受けを覗いていると、ほかのアパートの住人が横から現れた。おしゃれだ。理由のない恥ずかしさから郵便物の陰に棒アイスを隠して足早にエレベーターへと向かう。閉のボタンを静かに連打。たぶん5秒後にはさっきのひと乗るんだろうなと思いながらも、人の目もアイスが溶けてしまうことも気にしたくなかった。一人暮らしのせいで、人に見せられるラインが曖昧になってきているような気がしつつも快適な近頃。
良くない、と思う。悪くない、とも思う。
アイスを食べている時はアイスが最優先事項。部屋に着いてしっかり舐め切ってから、郵便物のチェックに取り掛かる。全部で4つ。そのうちの2枚は合同企業説明会のチラシ。そろそろうざい。もう一つは大学生協から卒業式用の袴のカタログ。これは好き。最後の一つは、通販。
病院でくも膜の内側に貼り付けてもらった、1㎝四方のチップと通信しながらつかう、それの名は、罪悪感メーター。ポケットサイズのガジェットだ。罪悪感を測定して、罪悪感通貨に換算する機械。貯まった罪悪感通貨は幸福感や恍惚感、解放感などと交換できる。
別にそこまで欲しかったわけじゃない。けど、人生何事も経験だと思うタイプの私は、就活が終わったらやってみたいことリスト(パーマ、カラコン、一人飲み等)の中にこれを追加していたのだ。使ってみて上手くいけば幸せ野郎だが、さてどう転ぶか。
小包を開封して、初期設定や自分のチップとの同期をしていると、家を出る時間になった。バイトのカバンにメーターを入れて出発。
更衣室についてから思い出した。お弁当、忘れた、、。ちゃんと朝ごはんの残りを詰めて手提げに入れたのに、その手提げを忘れたのだ。今日は気温が32℃なうえ、シフトは夜まで通しで入っているから、おかずが無事かは微妙だ。ご飯は休憩中にコンビニで調達すればよいが、食べたいものなんてないのに無駄な出費。なんてことだ。
ぴっぴっとカバンから音がして、みるとメーターのカウントが2になっていた。おお。
私、常にやらかしまくりの毎日だからこれは貯まるぞ、とほくそ笑んだ瞬間、チーンと音がした。メーターはゼロになっていた。