
スッタニパータ 第1章『卑賤者』 Vasalasuttaṃ(ヴァサラ・スッタ)第121偈
原文
「Kiñcikkhakamyatāti appamattakepi kismiñcideva icchāya.
Panthasmiṃ vajantaṃ jananti magge gacchantaṃ yaṃkiñci itthiṃ vā purisaṃ vā.
Hantvā kiñcikkhamādetīti māretvā koṭṭetvā taṃ bhaṇḍakaṃ gaṇhāti.」
訳
「ささいな欲望のために、
道を歩く人を見つけて襲い、
殺したり殴ったりして財物を奪う者、
その者を、卑賤者と知るべきである。」
話の背景
この偈では、「真に卑賤者(vasalo)とは誰か」を示すものの一つとして、
「強盗や殺人を行う者」 が挙げられている。
仏陀は、「たとえ小さな欲望であっても、それを満たすために他者を害する者は、
生まれではなく行いによって真の卑賤者となる」と説いている。
これは、暴力と貪欲の結びつきが、破滅へ導く ことを警告している。
注釈・補足
「ささいな欲望(Kiñcikkhakamyatā)」
「Kiñcikkhakamyatā」:「小さな欲望、ささいな欲求」
「Appamattakepi kismiñcideva icchāya」:「わずかなものでも欲しがること」
これは、「ほんのわずかな利益のためにさえ、不正な手段を取る者」を意味する。
欲望がどれほど小さくても、それによって犯罪を犯すことは大きな罪とされる。
「道を歩く人を襲う(Panthasmiṃ vajantaṃ jananti)」
「Panthasmiṃ」:「道の上で」
「Vajantaṃ」:「歩いている」
「Jananti」:「見つける」
これは、「道を歩いている旅人や通行人を見つけ、襲う行為」を指す。
特に、放浪者や商人を狙った盗賊が、
このような暴力を日常的に行っていたことが背景にある。
「殺したり殴ったりして奪う(Hantvā kiñcikkhamādeti)」
「Hantvā」:「殺して」
「Koṭṭetvā」:「殴って」
「Bhaṇḍakaṃ gaṇhāti」:「財物を奪う」
これは、「強盗や殺人を伴う窃盗」を意味する。
武力による略奪は、社会を不安定にし、人々の信頼を損なうため、
仏教では極めて重い罪と見なされる。
「卑賤者(Vasalo)」
「Vasalo」:「卑しい者、徳のない者」
仏陀は、「生まれによって人は卑賤者になるのではなく、
行いによって卑賤者となる」と説いている。
この偈では、「貪欲のために暴力を振るい、他者を害する者こそが真の卑賤者である」
ことが強調されている。