スッタニパータ 第1章『卑賤者』 Vasalasuttaṃ(ヴァサラ・スッタ)第126偈
原文
「Yo atthaṃ pucchito santo, anatthamanusāsati;
Paṭicchannena manteti, taṃ jaññā vasalo iti.」
訳
「賢明であるとされる者が、
尋ねられた際に有益でないことを教え、
秘密裏に策を巡らす者、
その者を、卑賤者と知るべきである。」
話の背景
この偈では、「真に卑賤者(vasalo)とは誰か」を示すものの一つとして、
「偽りの助言をし、陰謀を巡らす者」 が挙げられている。
仏陀は、「他者から助言を求められながらも、
間違った情報を与えたり、欺瞞に満ちた相談をする者は、
生まれではなく行いによって真の卑賤者となる」と説いている。
これは、誠実さと公正な判断の大切さ を強調している。
注釈・補足
「尋ねられた際に有益でないことを教える(Atthaṃ pucchito santo, anatthamanusāsati)」
「Atthaṃ(アッタン)」:「有益なこと、正しい助言」
「Pucchito(プッチト)」:「尋ねられたとき」
「Santo(サント)」:「賢者とされる者」
「Anatthamanusāsati(アナッタマヌサーサティ)」:「害となることを教える」
これは、「他者から助言を求められた際に、
正しいことを教えず、害となることを助言する者」を意味する。
知識や地位がある者が、その力を誤用していることを示唆している。
「秘密裏に策を巡らす(Paṭicchannena manteti)」
「Paṭicchannena(パティッチャンネーナ)」:「隠された、秘密の」
「Manteti(マンテーティ)」:「相談する、話し合う」
これは、「本心を隠し、相手に不利なように策略を巡らす行為」を意味する。
公正な議論ではなく、密かに陰謀を企てる態度が非難されている。
「卑賤者(Vasalo)」
「Vasalo(ヴァサロ)」:「卑しい者、徳のない者」
仏陀は、「生まれによって人は卑賤者になるのではなく、
行いによって卑賤者となる」と説いている。
この偈では、「正しい知識を持ちながらも、それを悪用する者こそが真の卑賤者である」
ことが強調されている。