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龍樹『根本中頌』第7章:「行為の検証(Karma-parīkṣā カルマ・パリークシャー)」(サンスクリット語訳)
導入
仏教において「行為(karma カルマ)」は、私たちの未来を決定づける重要な概念です。
善い行いが善い結果を、悪い行いが悪い結果を生むという因果の法則は、
広く知られていますが、そもそも行為とは何なのでしょうか?
もし行為が固定されたものであれば、それは常に変わることなく存在し続けるはずです。
しかし、行為は瞬間ごとに生じ、そして消えていくものではないのでしょうか?
本章では、行為がどのようにして存在し、その結果がどのように生じるのかを検討し、
行為の概念が 曖昧(あいまい/はっきりせず、確定できないこと) であることを明らかにします。
現代語訳
1. 行為(カルマ)は本当に存在するのか?
行為とは、どこに存在するのか?
もし行為が本当に固定されたものであるならば、
過去に起こした行為は、今も変わらず存在するはずである。
しかし、行為はすでに過ぎ去ったものであり、
過去の行為が現在に影響を与えるとは限らないのではないか?
2. 行為と結果はどのように結びつくのか?
行為が結果を生じさせるというが、
行為が消えた後も、結果は確実に生じるのか?
もし行為がすでに存在しないならば、
その結果は、何によって引き起こされるのか?
また、もし行為が今も続いているならば、
なぜ結果がすぐに現れないのか?
3. 行為は「私」に属するのか?
行為は「私」が行うものなのか?
もし「私」が行為を作り出しているならば、
行為が生じる前に「私」が存在していなければならない。
しかし、「私」そのものが五蘊の集まりであるならば、
「私」とは一体何なのか?
4. 行為が実体を持たない理由
もし行為が固定された存在であるならば、
それは永遠に残り続け、消えることはないはずだ。
しかし、行為は生じ、そして消える。
つまり、行為もまた 縁によって生じるものであり、空である ということになる。
要約:「行為と結果は固定されていない」
行為(カルマ)は 固定されたものではなく、条件によって生じたり消えたりする。
もし行為が本当に独立したものであるならば、それは永遠に残るはずだが、そうではない。
行為と結果の関係も、縁によって成り立つものであり、固定的な因果法則ではない。
行為は「私」が生み出しているわけではなく、「私」と行為もまた依存し合って成り立つもの。
つまり、行為(カルマ)もまた 「空」である。
注釈・補足
カルマ(行為)とは何か?
仏教において「カルマ(karma カルマ)」とは、
私たちの意志的な行為が未来の結果を生む という考え方である。
身業(kāya-karma カーヤ・カルマ) – 身体を使って行う行為(殺生、布施など)
語業(vāk-karma ヴァーク・カルマ) – 言葉によって行う行為(嘘をつく、真実を語るなど)
意業(manas-karma マナス・カルマ) – 思考や意志による行為(憎しみ、慈しみなど)
ナーガールジュナは、こうした行為が 本当に固定されたものなのか を問い直す。
行為と結果の関係性
通常、私たちは「行為が原因となり、結果を生じる」と考える。
しかし、ナーガールジュナは次のように指摘する。
もし行為が 永続的なものであるならば、行為はずっと続くはず であり、
すぐに結果が現れなければおかしい。もし行為が 一瞬で消えるならば、結果が生じるための原因がない ことになる。
つまり、行為と結果の関係は固定的ではなく、
因縁によって成り立つものである ということになる。
「行為は私のもの」という誤解
私たちは「行為は私が行うものだ」と思っているが、
ナーガールジュナはここにも疑問を投げかける。
もし「私」が行為を生み出しているならば、「私」は行為が生じる前から存在しなければならない。
しかし、仏教の教えでは「私」とは五蘊(skandha スカンダ)の仮の集まりであり、独立した実体ではない。
ならば、「私」が行為を生む主体であるとは言えないのではないか?
このように、「行為」と「私」の関係もまた、固定的なものではないことが示される。
締めくくり
次の第8章では、「自己(アートマン)」について検討します。
私たちは「自分」というものを持っていると感じますが、
その「自己」は本当に実体として存在するのでしょうか?
自己の本質について考察します。
💡 最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。
行為と結果の関係について、皆さまはどのようにお考えでしょうか?
また、本記事の内容でわかりにくい点や疑問がございましたら、
どうぞお気軽にコメントにてお尋ねください。可能な限り詳しく解説させていただきます。