
スッタニパータ 第1章『卑賤者』 Vasalasuttaṃ(ヴァサラ・スッタ)第125偈
原文
「Yo mātaraṃ pitaraṃ vā, bhātaraṃ bhaginiṃ sasuṃ;
Hanti roseti vācāya, taṃ jaññā vasalo iti.」
訳
「母や父、
兄弟や姉妹、あるいは姑を、
殴り、怒らせる者、
その者を、卑賤者と知るべきである。」
話の背景
この偈では、「真に卑賩者(vasalo)とは誰か」を示すものの一つとして、
「家族に対して暴力を振るう者」 が挙げられている。
仏陀は、「親や兄弟姉妹、姑などの身近な家族に暴力を振るい、
言葉で傷つける者は、
生まれではなく行いによって真の卑賤者となる」と説いている。
これは、家族に対する敬意と調和の重要性 を強調している。
注釈・補足
「母や父、兄弟や姉妹(Mātaraṃ pitaraṃ bhātaraṃ bhaginiṃ)」
「Mātaraṃ(マータラン)」:「母」
「Pitaram(ピタラン)」:「父」
「Bhātaraṃ(バータラン)」:「兄弟」
「Bhaginiṃ(バギニン)」:「姉妹」
これは、「家族に対する敬意と愛情を示すことの重要性」を指す。
仏教では、家族関係は最も大切な人間関係の一つとされている。
「姑(Sasuṃ)」
「Sasuṃ(サスン)」:「姑(夫の母、または妻の母)」
これは、「家族の中でも特に関係が難しくなりがちな
義理の母に対しても、敬意と調和を保つことの重要性」を示している。
当時のインド社会では、嫁と姑の関係は特に重要視されていた。
「暴力を振るう(Hanti)」
「Hanti(ハンティ)」:「殴る、攻撃する、害する」
これは、身体的な暴力を加える行為 を意味し、
家族への暴力が最も忌避される行為の一つであることを示している。
「怒らせる(Roseti vācāya)」
「Roseti(ロセティ)」:「怒らせる」
「Vācāya(ヴァーチャーヤ)」:「言葉によって」
これは、「乱暴な言葉や侮辱によって家族を傷つけ、
怒らせる行為」を指す。
仏教では、暴力だけでなく、言葉による暴力(悪口や侮辱) も
悪しき行為とされる。
「卑賤者(Vasalo)」
「Vasalo(ヴァサロ)」:「卑しい者、徳のない者」
仏陀は、「生まれによって人は卑賤者になるのではなく、
行いによって卑賤者となる」と説いている。
この偈では、「家族に暴力を振るい、言葉で傷つける者こそが真の卑賤者である」
ことが強調されている。