
スッタニパータ 第1章『卑賤者』 Vasalasuttaṃ(ヴァサラ・スッタ)第129偈
原文
「Yo brāhmaṇaṃ samaṇaṃ vā, aññaṃ vāpi vanibbakaṃ;
Musāvādena vañceti, taṃ jaññā vasalo iti.」
訳
「バラモンや修行者、
あるいは他の求道者を、
嘘をもって欺く者、
その者を、卑賤者と知るべきである。」
話の背景
この偈では、「真に卑賤者(vasalo)とは誰か」を示すものの一つとして、
「聖者を欺く者」 が挙げられている。
仏陀は、「バラモンや修行者、または他の求道者に対して嘘をつき、
欺く者は、生まれではなく行いによって真の卑賤者となる」と説いている。
これは、誠実さと正直さの重要性 を強調している。
注釈・補足
「バラモンや修行者(Brāhmaṇaṃ samaṇaṃ)」
「Brāhmaṇaṃ(ブラーフマナン)」:「バラモン(司祭階級の者)」
「Samaṇaṃ(サマナン)」:「修行者(仏教や他の宗教の出家者)」
これは、「宗教的な立場のある人物、特に修行を積んでいる者」を指す。
当時のインド社会では、バラモンや修行者は社会的に尊敬される存在であり、
彼らを欺く行為は重大な倫理違反とされていた。
「求道者(Aññaṃ vāpi vanibbakaṃ)」
「Aññaṃ(アンニャン)」:「その他の」
「Vāpi(ヴァーピ)」:「または」
「Vanibbakaṃ(ヴァニッバカン)」:「求道者、托鉢者」
これは、「バラモンや仏教徒以外の、
精神的な修行を求める者や、托鉢を行う者」も含む。
つまり、宗教的な道を歩む人全般を対象としている。
「嘘をもって欺く(Musāvādena vañceti)」
「Musāvādena(ムサーヴァーデーナ)」:「嘘を用いて」
「Vañceti(ヴァンチェーティ)」:「欺く、騙す」
これは、「意図的に嘘をつき、修行者を欺く者」を指す。
仏教では「不妄語(ふもうご)」、つまり嘘をつかないこと が
五戒の一つとして非常に重視されている。
「卑賤者(Vasalo)」
「Vasalo(ヴァサロ)」:「卑しい者、徳のない者」
仏陀は、「生まれによって人は卑賤者になるのではなく、
行いによって卑賤者となる」と説いている。
この偈では、「嘘をつき、聖者を欺く者こそが真の卑賤者である」
ことが強調されている。