
スッタニパータ 第1章『卑賤者』 Vasalasuttaṃ(ヴァサラ・スッタ)第122偈
原文
「Attahetu parahetu, dhanahetu ca yo naro;
Sakkhipuṭṭho musā brūti, taṃ jaññā vasalo iti.」
訳
「自分のために、他人のために、
あるいは財産のために、
証人の前で嘘をつく者、
その者を、卑賤者と知るべきである。」
話の背景
この偈では、「真に卑賤者(vasalo)とは誰か」を示すものの一つとして、
「偽証をする者」 が挙げられている。
仏陀は、「自分の利益、他人の利益、財産のために嘘をつく者は、
生まれではなく行いによって真の卑賤者となる」と説いている。
これは、誠実さと真実を重んじることの大切さ を強調している。
注釈・補足
「自分のため、他人のため、財産のため(Attahetu parahetu, dhanahetu)」
「Attahetu(アッタヘートゥ)」:「自分自身のため」
「Parahetu(パラヘートゥ)」:「他人のため」
「Dhanahetu(ダナヘートゥ)」:「財産のため」
これは、「自己保身、他人の利益、金銭的な利益のために嘘をつくこと」を指す。
特に、財産争いの際に偽証をすることが、
当時の社会において重大な問題とされていた。
「証人の前で嘘をつく(Sakkhipuṭṭho musā brūti)」
「Sakkhipuṭṭho(サッキプッタ)」:「証人の前で尋ねられ」
「Musā brūti(ムサー ブルーティ)」:「嘘をつく」
これは、「法廷や社会的な場面で、
証人の前で意図的に嘘をつくこと」を意味する。
仏教では「不妄語(ふもうご)」、つまり真実を語ることが
基本的な倫理規範とされており、それを破ることは重い罪とされた。
「卑賤者(Vasalo)」
「Vasalo(ヴァサロ)」:「卑しい者、徳のない者」
仏陀は、「生まれによって人は卑賤者になるのではなく、
行いによって卑賤者となる」と説いている。
この偈では、「正義を歪め、偽証を行う者こそが真の卑賤者である」
ことが強調されている。