クレームとクレイジーな上司④(番外編・クレイジーになれた私)
仕事をしているとクレームを受けてしまう機会は誰しもあると思う。
これまで販売、営業、カスタマーサポート、事務と多様な仕事をしてきた中で様々なパターンを見てきた。
今振り返ると初めてクレーム対応の研修をしたのはカスタマーサポートの仕事をした時で、販売と営業の時は対応方法を研修したことがなかった。
一番最初についた仕事は販売だったので対応方法が本当にわからず相手の言うことを鵜呑みにするしかなかった。
ここで買ったと言い張るレシートのない返品にも対応して良いと言う方針だったので、ここで買っていない(言い方は悪いが万引きした)かもしれない商品でも事を大きくしないために返金に応じていた。
ある日、パートさんがお客さんを怒らせてしまったことがあった。
パートさんの接客態度が気に入らないと言う。
一緒に働いてる身からするとそんな失礼な態度と取る人ではないし笑顔も可愛らしくて至って普通の接客をする人だと思うのだが、その人には何か気に食わなかったらしい。
あんたじゃ話にならないから上司を呼べと言ってきた。
だがシフト制のため直属の上司はまだ出勤していなかった時間だったので副店長が降臨することになった。
颯爽と現れてどういう風にこの場を収めるのだろうと思ったら
なんと「うちの不出来な従業員が申し訳ありません。ほら、謝って!」と事情も聞かずに自分とこの従業員を下げてその場を終わらせようとしたのだった。
しかも他の従業員も見ている前だった。
パートさんはえっ?と思ったがとりあえず謝るしかできなかった。
副店長が出てきて謝ったことに満足したのかお客さんは帰って行った。
副店長は「気をつけてよ」と言ってその場を去った。
何かがおかしい。
謝ってその場が収まるなら良いのか?パートさんの気持ちは??
二十歳そこそこだった私は訳がわからなかった。
大人って、副店長って、偉い人って、こういう困った時の救世主だと思っていたんだけど違うの??
同じ仕事場で働いてる人の味方してくれないの???
学校だとなんか問題があったら終わりの会で話し合って解決するまで帰れなかったりしたけどそう言う話し合いとかしないのか?
若くて世間知らずなだけに衝撃的だった。
そのパートさんも悔しさのあまりトイレで泣いていた。
しばらくしたら気丈に振る舞っていたが、もう上層部なんて信じないと完全に心を閉ざしてしまった。
私自身も何度もお客さんに怒られたことがある。
シェアハウスの会社で働いている時にAさんという人に対してクレームの連絡が入った。事実確認としてAさんに連絡し、こんな報告が来てますが身に覚えありますか?とヒアリングした。するとAさんは身に覚えはないと答えた。
私の頭の中でAさんはまぁやってそうだな〜と決めつけがあった。それが発言に出てしまった。
「えっ、本当に身に覚えないですか?」
と聞いた私に対して
「もうそれやってる前提で聞いてますよね?心外なんですけど。間に入るなら平等に話を聞かないといけない立場ですよね?会社はどういう教育してるんですか?」
と二次クレームに発展し、上司に対応を代わってもらうことになった。
結果的にはクレームを入れた人が大人しくてはっきりモノが言えないタイプで、Aさんがはっきりモノを言うタイプだったために認識の相違が起きていただけだった。
受け止め方の違いだから自分たちで話して解決してね、コミュニケーションを自分たちで取ってね、不快な思いにさせてごめんね、と上司が伝えてくれて終わった。
上司からは「疑いの気持ちで見ると言動に出ちゃうから、一回フラットな目線で物事を見ることだね。まぁ、こんなこともあるよ」
とアドバイスをもらい涙が出そうになった。
自分のできなさに凹んだ出来事だった。
そこからはフラットな目線を心がけて介入しすぎない姿勢にしてそんなに激しいクレームを受けることはなかったのだが、習い事系の会社でこれまでの中で一番強烈な体験をした。
退会されることが決まっている方から連絡があり、退会するまでの期間で残っているチケットが使いきれないからどうすればいいかという問い合わせだった。
もちろん例外なく入会している間は使えるが退会したら権利は消滅するのでそれを伝えたら、「はあ!?なんで利用してない分を払わなきゃいけないんだ?金返せ!」と最初の穏やかな口調から一転して声を荒げ始めた。
「申し訳ないんですが、返金はできず、、期間内に使えるだけ使うか、使えなかった分はどうしようもないですね、、、皆様共通ですので、、、」とできないことを何度伝えても「だったらどうしたらいいわけ?」と話が堂々巡りだった。
しまいには「謝って欲しい訳じゃない!謝ってくんな!なんでそんな機械みたいな対応なわけ?お前の対応は心がない!」と私の対応に怒ってきた。
頭が真っ白になった。
この時に【謝る以外の選択肢を持ち合わせていない】ことに気づいた。
何を言ったら良いのかわからない。
クレイジーな上司はちゃんと言うことを言って屈しない軸を持っている。
私はどうだ?クレイジー上司を日々眺めてこんなやり方もあるのか、と新しい発見をしているのにただ見ているだけで何も変わらないままでいいのかか?
自問自答した。本当はどう思っている?
心の声:「無茶言ってくんじゃねーよ、退会したらサービスが受けられないのはジムだってヨガだってサブスクだってどこも同じだろって。
計画的に使用しなかったのはそなたであろう。八つ当たりじゃないか。」
答えは出た。
わずかな間のはずだがとても長く感じた沈黙を破りこう切り出した。
「お客様、大変恐縮ですが、退会後はサービスを提供できません。規約にも書いてありますし、皆様同じなので特別扱いはできません。残りの期間で使うか、無理なら諦めてください。何回も同じことを繰り返しお伝えしています。
これ以上お話をしても答えは変わりません。他に業務もありますので、失礼させていただきます。」
心臓がバクバクしている。
「なんだこの乞食!俺の払った金でお前らが生活できてるんだぞ!この受けられなかったサービス分もな!わかってるのか!」
「はい、わかってます、ありがとうございます。」
「なんだこのヤロー、いっぺん◯んでこい!」
「はい、ありがとうございました!!!」
カチャン。
心臓がずっとバクバクしていた。
近くにクレイジー上司もいたので私の会話も聞こえていたはず。
これで良かったのか確認を取りたくなってしまった。
「ずっと同じこと言ってきたんで、もうこっちから切りますって言って話終わらせちゃいました。私、お客さんの対応で『埒が開かないからこっちから切ります』とかいったの初めてです。
そしたら乞食とか、◯んでこいとか言われました。私、人生で◯ねって面と向かって(電話だけど)言われたの初めてです。むかつく。」
と報告した。
すると
「そんなこと言ってきたの!?やばいね、絶対そんなこと人として言っちゃダメじゃん。あのさ、従業員もお客さんも同じ人間だよ?平等だからね?
どっちが偉いとかないからね。金払えば何言ってもいいなんて大きな間違いだよ。話が通じない人はこっちから切っちゃえばいいよ。うんうん。」といつものクレイジー上司の反応だった。
私は新しい一歩を踏み出せた瞬間だった。
話が通じない相手でもなかなかこちらから失礼な感じにせず電話を切るのは至難の業だし、やっちゃいけないと思っていた。
「あ、電波が途切れ途切れで、あれ?お客様〜」と電波が悪くなって切れちゃった演出をする必要も、もうないなぁと思った。
もう、私もやれるよ、クレイジー上司!
(進んでやりたくはないけど)