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「光る君へ」第36回「待ち望まれた日」〜波乱の予感
いよいよ中宮彰子さま、出産の場面。
「秋のけはひ入りたつままに、土御門(道長の邸宅)のありさま…」という書き出しで始まる紫式部日記とドラマがリンクしていく。
道長が依頼したように、紫式部日記の中にはこの出産の様子が描かれており、まひろのナレーションや描写はこの日記の通り進められていった。
「寄坐」といって物怪を寄り付かせる女たちが登場したが、あれは「寄坐《よりまし》」に悪霊を取り憑かせることで僧侶が悪霊を退散させようとするもの。
紫式部日記から、この日の「物怪」に関する描写だけピックアップ。
御もののけども駆り移し、限りなく騒ぎののしる。
西には、御もののけ移りたる人びと、御屏風一よろひを引きつぼね、局口には几帳を立てつつ、験者あづかりあづかりののしりゐたり。
今とせさせたまふほど、御もののけのねたみののしる声などのむくつけさよ。
宰相の君のをき人に叡効を添へたるに、夜一夜ののしり明かして、声も涸れにけり。
いやはや物怪のオンパレード。こんなおどろおどろしい中で出産するのかともうびっくりだが、目には見えない怨念に怯えるよりは、こうやって可視化したほうが対処できると当時の人は考えたのか。
ちなみにまひろの頭にお清めの米が降りかかる場面も、日記の中に書いてあった。
頂きにはうちまきを雪のやうに降りかかり、おししぼみたる衣のいかに見苦しかりけむと、後にぞをかしき。
ドラマは引き続き、敦成親王五十日の祝いの場面へ。寛弘5年11月1日(1008年12月1日)のことである。
右大臣藤原顕光(宮川一朗太)、無礼講だからとは言え、酔っ払いすぎではないかい?
大納言の君、宰相の君、小少将の君、宮の内侍とゐたまへるに、右の大臣寄りて、御几帳のほころび引き断ち、乱れたまふ。
藤原実資(ロバート秋山)が酔っ払って、女房の袖を指折り数えている場面も。
その次の間の東の柱もとに、右大将寄りて、衣の褄、袖口かぞへたまへるけしき、人よりことなり。
確かこれは、有職故実にうるさい実資が十二単の枚数があっているかチェックしている場面だったはず。かなり酔っ払っていたけど習性なのか?
そして私が楽しみにしていた場面は、藤原公任(町田啓太)と紫式部のこの会話。
左衛門督、
「あなかしこ、このわたりに若紫やさぶらふ」
と、うかがひたまふ。
源氏に似るべき人も見えたまはぬに、かの上はまいていかでものしたまはむと、聞きゐたり。
公任「この辺りに若紫はおいでかな。若紫のような美しい姫はおらぬのう」
まひろ「ここには、光君のような殿がおられませぬ。ゆえに若紫もおりませぬ」
いやいや、公任酔っ払いすぎ。もう赤ら顔になっているではないか。
そして、まひろは、低音、どすの利いた声で言い返す。
私としては、美しい公任とまひろの優雅なやりとりを期待していたのだが、残念ながら、ただの酔っ払い公任と、それを毅然と退治するまひろであった。
実はこの公任の言葉は、源氏物語について記述された初めてのもの。
公任のこの発言を根拠として、1008年ごろには源氏物語が宮中に流布していたと教科書には記されている。
ちなみに11月1日は古典の日と制定されているのをご存知だろうか。
これもこの公任の言葉が発せられたのが、寛弘5年11月1日(1008年12月1日)だったことによるもの。古典の世界では大きな意味を持つ一言なのだ。
公任との会話中に道長に呼ばれ、「なんぞ歌を詠め」と命ぜられたまひろ。
まひろ
いかにいかが かぞへやるべき 八千歳の あまり久しき 君が御代をば
(どのようにして数えたらよいのでしょうか。八千代まで続く、とても長い若宮様のご年齢を)
道長
あしたづの 齢しあらば 君が代の千歳の数も かぞへとりてむ
(私に鶴ほどの千年も続く寿命があったなら、若宮様の千年の年月も数えることができるに違いない)
道長の歌は、まひろの歌への返歌となっている。
あ・うんの呼吸で詠まれた、この贈答歌の後の空気。
道長、つい調子に乗ってしまったか。
二人の関係がこの歌のやりとりからそこはかとなく漏れ伝わるではないか。
そして射るような赤染衛門の視線。
実は尊卑分脈という1300年代に作られた系図には、紫式部のところに「御堂関白道長妾云々」と載っているとのこと。つまりそういう噂があって、300年後まで語り継がれていたということなのだ。
さて、今回は墨染の衣を着た清少納言(ファーストサマーウィカ)が久々に登場。
定子さま死後の彼女のことはほとんど伝わっていないのだが、それだけに来週からどう動くのか。波乱の予感しかない。
来週も楽しみ。