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【ホッとする話】「庭に現れる悪猫」がある幸せ

今から10年ほど前

妻のお義母さんが横浜を訪れていました


自分と妻の結婚にあたり、自分の父と母と顔合わせしたいとのこと


お義母さんが住む広島県三原市から新幹線で約4時間の長旅なので

広島での顔合わせを提案するも

とても気遣いで優しい方のため

お義母さんは横浜での顔合わせを譲りませんでした



無事に顔合わせの翌日は、妻とお義母さんで水入らずの箱根観光


旅の最中のお義母さんは

星の王子さまミュージアムのパスタランチで

「この『ホタテ』、美味しいねー」

と言いながら『カブ』を頬張ったり


大涌谷で

たくさん居る観光客の中から、わざわざアフリカ系の外国人の方を選んで

「黒たまごは、どこで売ってますか?」

と、広島弁混じりの日本語で質問するほどの『天然』ぶりだったようです


 

そんな優しくも天然のお義母さん

自分と妻が結婚して間も無く、以前からの持病が悪化


お義父さんからの電話を受けて

その週末に慌ててお土産を買い揃え

そのまま新幹線に乗って妻の実家に向かいます


新幹線を降りて駅から徒歩で10分ほど

狭い路地に抜けたところにある

平屋建てでとても古く、ジブリ映画に出てきそうなお家


「こんにちはー」

インターホンを鳴らし、昔ながらの引戸をガラガラと開けると



「おぉ、良く来たのー」

という明るい声のお出迎えはもちろんなく・・・静かに中に入ります



奥に進むと、ベッドに横たわるお義母さん


お父さんに促されるまま荷物を置き

備え付けられたこたつに足を入れると

お義母さんがゆっくりとこちらに視線を向けます



結婚式からそんなに時間が経ってないのに驚くほど弱ってしまった姿に

ほんの少しだけあった観光気分もすっかり消えます




差し出されたお茶を飲んで気持ちを落ち着かせた後は

結婚式で撮った動画を一緒に見たり

買ってきたお土産の話をしたり

いつも通りに振る舞いますが、お義母さんからの反応はやはり元気のないもので



(お義母さんの体調もあるし、そろそろ帰った方がいいかな・・・)



妻と目を合わせ

いつもの半分にも満たない滞在時間で帰ることにしました


「じゃあ、そろそろ・・」

意を決して、こたつから出ようかとしたそのとき



お義母さんがゆっくりと身体を起こし

枕元の水を飲んで話し始めます




「そういえば最近ね・・・


うちの庭にとっても悪い猫がくるんよ」




妻も自分も動物好き

最近の横浜では猫もあまり見かけなくなってしまったので

(庭に猫がくるなんて羨ましい)

と、心の中で思うものの



こんなときに話すのだから、よほど困った猫に違いない

悪い猫がどんな猫なのか尋ねてみました




「悪い猫って、どんなことするの?」

妻が真っ直ぐお義母さんの顔を見て問い掛けます




「あのな・・・


塀の上を歩きよる」



(あぁ・・・なんでこんなときに)

弱りきった姿に動揺して、お義母さんが天然であることをすっかり忘れていました



ふいを付かれて笑いそうになりますが

今はそんな雰囲気ではありません




「猫だもん、塀ぐらい歩くでしょ・・・」

おそらく妻もお義母さんの天然に気付きましたが、真面目な顔で返答します




「いや、本当に悪い猫なんよ・・・」

妻と自分の様子を見て

猫の悪さが伝わっていないことを感じ取ったお義母さん



塀の上を歩く猫がどれだけ悪いのか、言葉を続けます



「塀の上を・・・



我が物顔で歩きよる」



(あぁ・・・すごい面白いのきたなぁ・・・)



曇りなき眼で見つめるお義母さん

そして

頭に浮かぶ『塀の上を我が物顔で歩く猫』・・・



しかし、今は笑ってはいけない



「猫だって、我が物顔くらいするでしょ・・・」


いよいよ妻の返答もわけがわからなくなってきました



「いや、ほんと悪い猫なんよ・・・だってね・・・」

猫の悪さが伝わらなくてもどかしいお義母さん

これまでの猫との戦いの日々を思い出し

言い放った極悪猫の一番の悪行


それは・・・


「塀の上を我が物顔で歩いてな・・・



庭でうんちしよる!」



我慢の限界



「ぷぷぷー、あははは!・・・それは悪いわー!極悪だわー!」


お義母さんのあまりの天然ぶりと

こらえていた笑いが噴き出して

妻も自分も腹がよじれるほどの大爆笑



お義母さんは妻と自分が笑う様子を見て

少しキョトンとした後


「ふふふ・・・」

と釣られ笑い


そして


「何かあったんか?」


と、突然聞こえてきたみんなの大きな笑い声に驚いたお義父さんがキッチンから顔を出し

お義母さんが笑う姿を見て

お義父さんも一緒に大笑いしましたとさ


以上!


今は亡きお義母さんのお話


以前の記事でも書きましたが

いつも妻と自分を心配してくれていたお義母さん

結婚して間も無く亡くなってしまったので、ほんの数回しかお会いすることができず

もう少しお義母さん孝行しておけばよかったな、という思いでいっぱいですが

もう少しお義母さんの天然ぶりも見たかったな、とも思ったりします(笑)

一期一会を大事にしないとですね

ちなみに!


大涌谷で明らかにアフリカ系の方に黒たまご売場を聞いていたという話をしましたが


お義母さん、きちんと場所を聞き出せたそうです


日本語で問い掛けているのに、なぜか伝わり

何語かわからない言葉で返答されたのに、なぜか理解している

妻はお義母さんのそんな様子を見て

呆れながらも感心していたとのことです


ここでは書きませんが

ちょっと不思議なチカラも持っていた方なので

本人は普通にしてても

傍から見ると「天然」に見えてしまうこともあるのかもしれないですね


ということで、皆さんの回りにも面白い方がいたら教えてください

ではまた!


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