ミュージカル「赤と黒」感想━「舞台上が殺風景」という第一印象を挽回してくれた
ミュージカル「赤と黒」を観劇しました。期待していた部分はちょっと期待はずれだったけど思わぬところでものすごい挽回があった、あまりないタイプの観劇体験をしました。
調整が難しいのか?2階席だとすこし音量バランスが気になる……
今作の大きな期待ポイントのひとつが、エンジニアやジャベール俳優の豪華共演だったかと思います。しかし、残念ながら「歌がすごくよかった…!!」という感想は個人的には抱けませんでした。
わたしが観劇したのは2階席最後列センターブロックでした。そこから聞くと、どうも伴奏のバンドのサウンドが歌に比べて強すぎに聞こえてしまいました。クラシカルなミュージカル歌唱を強みとされる出演者と、バンドと、ホールの響きのバランスが少々悪かったのかもしれません。歌詞もところどころ聞き取れない箇所がありました。
そんな中で印象に残った歌は、終盤の川口竜也さん演じるラモールの歌でした。全編通して、バックダンサーを従えてバンドのサウンドにのせて視覚的にも音楽的にも歌う必要がある曲が多かったのですが、この曲は違いました。ミュージカルらしく歌い上げるタイプの歌かつ舞台上にひとりだったこともありますが、とても際立って印象に残りました。終盤に他の曲とは少し違うタイプの歌を持ってきていいアクセントにするのも、娘への思いを歌い上げる川口竜也さんもすばらしかったです。
また、田村芽実さんはこの作品らしい「バックダンサーを引き連れてドライブしながら歌う」タイプに最もよくノれていると感じました。私は、劇で最も大切なのは幕間で気持ちが散漫になった客の集中力を一気に高めないといけない2幕の冒頭だと思っているのですが、このメンバーが出演するこの作品の2幕冒頭を担うのが田村芽実さんで本当によかったと思いました。1幕の幕切は怒涛の展開かつ三浦宏規さんによる圧巻のパフォーマンスで、かっこいい照明がバシン!と落とされ暗転で終わる、大変印象が強いものでした。それ以上のものを期待して見てしまう状況でしたが、まさに期待以上でした。これだけ「レミゼ俳優」や「サイゴン俳優」が揃っている中で2幕頭を務め上げた田村芽実さんにブラボー!! ピンクのドレスで毒々しく踊る様子は1幕の田舎町や赤と黒という作品からのギャップもあり、とても良かったです。
今年、宝塚星組の1789で初めて「フレンチロックミュージカル」なるものに触れたのですが、フレンチものの顔とも言えるドーヴ・アチア作品でも、ルパンはかなりクラシカルなミュージカルっぽい音楽だったのかもしれません。この作品はアチアではありませんが、ここまでロックサウンドかー!とちょっとびっくりしました。
上に人しか乗らない盆、なかなかなくない!?
投稿のタイトルと小見出しの通り、舞台上にほぼ大道具はなく、非常にシンプルでした。ジュリアンが両ヒロインの部屋に行くシーンのベッド以外はほぼ何も舞台上にはありません。言葉を選ばないと、まさに殺風景という感じでした。
舞台中心には盆があり、何度か回転するのですが、なんとその盆の上には人しか乗らないのです。これ、けっこう珍しくないでしょうか。宝塚と歌舞伎の見過ぎ?そんなことないですよね?
ジュリアンとマチルドが乗って回っている盆にさらにルイーズが加わったり、ダンサーがフォーメーションを組んで乗っている盆の上をプリンシパルが行ったり来たりと動いたり。とにかく、心情や関係を表すためだけに盆が動き、盆による場面転換がないのが新鮮な気がしました。そんな広い広い舞台の上で、三浦宏規さんは劇中2回ほど、ただひたすらぐるぐると2、3周走らされたりしていました。
私はどちらかというと派手でアナログなセットが好きで、セットが少なめだったりそれを埋めるように映像が多用されたりする舞台にはちょっとがっかりしてしまうタイプです。今作でも「ちょっと殺風景かも……」と序盤に思ってしまったのですが、途中から「こんなにシンプルなのに視覚的におもしろいことある!?」と盛大に手のひら返しをしました。とにかく照明がかっこよかったのです。
バレエ仕込みで美しい三浦宏規さんのシルエットがデカデカと舞台奥に映されたと思ったら、次の瞬間パッと照明が切り替わって無機質で直線的なライトに舞台上が照らされたり。礼拝堂の窓だけが照明であらわされたり。手持ちの懐中電灯のような照明がジュリアンのまわりをぐるぐると回り、まるで「ハウルの動く城」の星の子たちのような不気味さを醸し出したり。赤と黒はもちろん、白のライトがなんとも効果的に舞台を、演者を照らし、さまざまなものが表現されていました。
特に好きだったのは前出の懐中電灯のようなシーンと、ジュリアンがマチルドを翻弄すべく他の貴婦人に気があるふりをしてオペラに出かけるシーンでした。劇場の入り口を表現していると思われる長方形に照明の当たった箇所と暗闇だけが舞台上に表現され、ジュリアンと貴婦人が明るい箇所に向かって歩いていきます。音楽はかかっておらず、オーケストラのチューニングの音が鳴ります。たったそれだけでジュリアンと貴婦人が知らないところに行ってしまうマチルドの不安が際立ちました。
ところで、宝塚星組の「赤と黒」は見れていないのですが、この作品がどの程度宝塚ナイズドされていたのかがかなり気になりました。音楽やヒロイン2人の宝塚らしくなさももちろんですが、特に簡素なセットと派手な照明という意味でも宝塚で上演された様子が思い浮かびませんでした。最近、宝塚においてノンレプリカ形式で上演される海外ミュージカルについて書かれた本を読んだこともあり、もしかして宝塚版ではそこそこ煌びやかなセットが用意されたりしたんだろうか……と思いました。
「赤と黒」という作品については2020年に上演された月組版のみ知っていたので、全体的に新鮮な観劇体験でした。ルイーズもマチルドもあんなに娘役らしかったのに……!いまでもなんだか三浦宏規と礼真琴と(バージョンは違えど)珠城りょうが同じキャラクターを演じたというのがちょっと信じられません。
完全に余談ですが、礼真琴さんと田村芽実さんが何かでダブルヒロインを演じる作品が見たくなりました。礼エルフィーと田村グリンダ……
以前から三浦宏規さんには柚香光さんと並んで爆踊りしてほしいと思っていたのですが、礼さんも良さそうです。いや、バレエだから水美さんかな……
三浦宏規×田村芽実、もっと見たい!
私は有澤樟太郎さんのファンで、田村芽実さんを知ったのは「GREASE」からでした。有澤さんの相手役を務める、強さと弱さと毒々しさを持ち合わせた女子チームのリーダーを演じる田村芽実さんに夢中になりました。それ以降、「MEAN GIRLS」や「ダ・ポンテ」などを観ました。というわけで、「赤と黒」は三浦×田村の同級生コンビ(余談ですが私も98年生まれの同級生なのでかなり期待して応援しているおふたりなのです)を目当てにチケットを取りました。
この2人の並びがとにかく最高でした。若手の2人が「赤と黒」という古典の難しい役に抜擢されて、それぞれ感情に翻弄される様子を熱演するだけでも嬉しいのに、その2人が並んで激しい感情のやり取りをします。ジュリアンとマチルドの2人は、ずっと両思いでもなければ片方が片方を思うわけでもなく、優位性や気持ちの大きさがコロコロと入れ替わります。そんな掛け合いが本当に素晴らしく、素敵な並びでした。カッコつけ陽キャのお祭りなGREASEにくらべてなんて高度なやり取りをするようになったんだ……!!ヘアスプレーも見たかった…!!!
田村芽実さん、エポニーヌよろしくお願いします。期待しています。
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