『リボルバー』:1988、日本
蜂矢圭介と永井新は競輪場で知り合い、ぶつかってからツキが回って来たことで仲良くなる。2人は電車に乗り、鹿児島へ旅行に出掛けた。交番勤務の清水信彦は上司の伊地知に勧められ、山川亜代という女性と見合いをする。亜代は積極的だが、清水は乗り気ではなかった。
高校生の出水進は、幼馴染の佐伯直子から日曜に海へ行こうと誘われる。勉強熱心な進は受験を理由に断ろうとするが、結局は承諾した。蜂矢と新は海で女性をナンパするが、成果はゼロだった。清水は亜代と海へ出掛けたが、決して交際に前向きではなかった。
進は海でも勉強しようとするが、直子が本を取り上げた。部長昇進を控えた中年サラリーマンの阿久根康男が不倫相手の有村美里と共に通り掛かると、直子はカメラのシャッターを押してほしいと頼んだ。
スナックのホステスをしている尾崎節子はチーフと海へ来ていたが、オイルを忘れたので買いに行く。彼女はチーフにオイルを塗ろうとするが、間違えて清水の元へ戻ってしまう。気付いた節子は慌てて謝罪し、その場から去った。蜂矢は缶ビールを飲もうとするが、キャバレーのホステスの池上美希に誤って浴びせてしまった。
美希がアパートに隣人のマユミを招いている時、電話が掛かって来た。マユミに電話を受けてもらうと、相手は札幌の石森慎二という男だった。美希は隣人に、自分はいないと言ってくれと頼んだ。石森の「近い内に鹿児島へ行く」というメッセージを聞いた美希は、北海道で知り合った男だと隣人に告げる。彼女は軽い遊びのつもりだったので、鹿児島へ来るという言葉に困惑した。
阿久根は美里から、営業課の市来と結婚すると言われて驚く。美里は阿久根が「結婚する」と言いながら一向に妻と別れる気配が無いので、愛想を尽かしたのだ。阿久根は「絶対に別れない」と嫌がるが、美里は挙式の日程も決まっていることを告げて去った。
清水は巡回中に節子と遭遇し、店の名刺を渡された。彼は伊地知から亜代と会っていないことを指摘され、「式の日取りも決めないとな」と言われる。清水は曖昧な返事で誤魔化し、節子の店へ出向いた。石森はキャバレーでタチの悪い態度を取り、美希は支配人から帰らせるよう要求される。
石森は金が無いと美希に言い、アパートに泊めてくれと要求する。美希は断るが、石森は店を出た後も執拗に粘った。金も無いのに来たことを美希がなじると、彼は激昂して殴り掛かった。進は予備校から帰る途中、石森が美希を強姦している現場を目撃して固まった。石森は美希の財布から金を抜き取った時、進に気付いた。彼は進を暴行し、その場を後にした。
阿久根は美里の結婚式に出席し、ヤケ酒を煽った。亜代は交番に来て花を生け、清水は困惑した。清水が巡回に出ると、亜代は付いて来た。清水が「僕は貴方の人生の計画に応えられるような人間じゃないんです」と言うと、彼女は「自分を過小評価してます」と告げる。
清水が「君が好きなのは結婚だ。相手は誰でもいい」と話すと、亜代は「違います。私は清水さんと結婚したいんです」と言う。清水が強引にキスして「僕は結婚は御免だけど、やりたい。こういう男なんです」と語ると、亜代は走り去った。
清水が公園のブランコに座っていると、阿久根が背後から殴り掛かった。彼は清水を昏倒させ、拳銃を奪って逃亡した。蜂矢は新と一緒にバー「夜汽車」で飲み、ホステスのエミコとマユミに質問されて結婚していたことや妻に逃げられたことを話す。
バーを出た蜂矢と新は、大勢の警官が街で何かを捜索している姿を目撃した。阿久根は美里と市来が宿泊するホテルの部屋へ行き、2人を殺そうと企む。しかし他の同僚たちも一緒に戻って来たため、機会を失った。彼が酔い潰れている間に、美里と市来は新婚旅行に出発した。
病院で治療を受けた清水は、刑事から事情聴取を受けた。阿久根は美里と市来の新居に忍び込み、2人の写真を破り捨てた。彼は幼い娘に電話して声を聞き、涙をこぼした。阿久根は拳銃で自殺しようとするが、引き金を引くことは出来なかった。
外へ出た彼はピザの宅配員を拳銃で脅し、バイクを奪った。事件発生を受けて刑事たちが動くが、清水は参加を却下された。ピザを貪り食った阿久根が拳銃を落とす姿を、近くにいた進が目撃した。阿久根が拳銃をゴミ箱に捨てて去った後、進が拾って持ち去った。
阿久根は警察に追い詰められ、バイクごと海に突っ込んだ。彼は捕まるが拳銃は発見されず、新聞に大きく記事が出た。清水が節子の働く店で飲んでいると、記者の工藤保が取材を申し込んだ。
工藤から糾弾するような質問を浴びた清水は、「個人じゃ動けないんだよ」と腹を立てて頭からビールを浴びせた。工藤に殴られた清水は反撃し、周囲の面々が止めに入った。進は本を読み、拳銃の扱い方について調べた。節子はスナックに居辛くなり、「夜汽車」で働き始めた。
進は美希の元へ行き、石森の居場所を尋ねた。清水は警察寮に荷物を残したまま、姿をくらました。進は直子と会い、北海道へ行く旅費を貸してもらった。蜂矢と新は、安アパートで同居を始めた。蜂矢は新に、残った300万円を分けて別々に稼ごうと提案した。
彼はエミコの誕生日プレゼントに北海道のラベンダー畑を買おうと考えており、そのために競輪で大金を稼ぐつもりだった。節子はマユミから清水の様子について問われ、外に出ないで寝ているかビールを飲んでいるかだと答えた。
進は直子から「北海道へ行く目的を聞くまで帰らない」と言われ、自分を殴った男に仕返しするつもりだと明かした。傲慢な考えだと批判された進は拳銃を空に向けて撃ち、直子は泣いて走り去る。蜂矢は新と一緒に小倉競輪場へ行くが、全く稼げなかった。
節子がマンションを出た後、工藤が清水の元へやって来た。工藤は市場で発砲事件があったことを教えて「貴方はもう勝手に動ける」と告げるが、清水は「買いかぶり過ぎだ」と全くやる気を見せなかった。
蜂矢と新が北海道へ行くため、寝台特急に乗り込んだ。2人の隣に乗っていたのは、同じく北海道へ向かう進だった。節子が帰宅すると、清水は工藤から拳銃が使われたことを知らされたと話す。「貴方に何が出来るの?」と言われた彼は、「しなくしゃいけないと思う」と口にする。
節子は「拾った人、分かると思う」と告げ、マユミの隣人が知っていると教えた。清水は美希の部屋を訪れ、進が拳銃を拾ったこと、ススキノの『フラッシュバック』という店でバーテンをしている石森を殺すつもりであることを教えた…。
監督は藤田敏八、原作は佐藤正午(集英社刊)、脚本は荒井晴彦、プロデューサーは山田耕大&小林寿夫、撮影は藤沢順一、照明は金沢正夫、録音は信岡実、美術は徳田博、編集は井上治、音楽は原田末秋(OFFICE・EX)。
出演は沢田研二、村上雅俊、佐倉しおり、手塚理美、南條玲子、柄本明、尾美としのり、小林克也、長門裕之、高部知子、清水まゆみ、露原千草、倉吉朝子、川村一代、吉田美希、山田辰夫、我王銀次、村田雄浩、有福正志、椎谷建治、北見敏之、水上功治、浦信太郎、松下一矢、阿部雅彦、前川麻子、白井真木、進藤奈々子、竜のり子、二家本辰巳、高田純、丸内敏治、内田洋介、宮内正二郎、山田島規浩、濱崎順一郎、谷口良子、井上由美子、竹下和代、小幡操、田中薫ら。
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佐藤正午の同名小説を基にした作品。わずか半年ほどで終了した「ロッポニカ」レーベルの作品の内の1本。これは1988年10月22日の封切だが、続いて11月26日に公開された『首都高速トライアル』がロッポニカ映画の最後となった。監督は『ダブルベッド』『海燕ジョーの奇跡』の藤田敏八。これが最後の監督作品。脚本は『待ち濡れた女』『噛む女』の荒井晴彦。
清水を沢田研二、進を村上雅俊、直子を佐倉しおり、節子を手塚理美、亜代を南條玲子、蜂矢を柄本明、新を尾美としのり、阿久根を小林克也、美希を倉吉朝子、美里を吉田美希、石森を山田辰夫が演じている。長門裕之が伊地知役で特別出演、高部知子がエミコ役で友情出演している。
一応は沢田研二の主演作になっているが、実質的には群像劇だ。一丁の拳銃を巡って交差する人々の人生模様を描いている。序盤に用意されている海のシーンで、拳銃に翻弄される主要キャストの面々を一気に登場させて数組を絡ませている。
ただし蜂矢と新だけは少し色が異なっており、拳銃盗難事件に直接的に関与することは無い。終盤に入って「清水を追い掛ける直子を追い掛ける」という行動を取り、進が石森に拳銃を向ける現場に居合わせる形となるが、そこまでは少し離れた存在になっている。
清水は仕事への意欲が全く見えず、怠惰に流されているだけの冴えない男だ。そんなキャラクターだからってことが大きいのか、とてもじゃないが前半は主人公と言い難い。
それよりも、胸糞の悪い身勝手な奴ではあるが、阿久根の方が遥かに存在感がある。拳銃を奪い取り、積極的に物語を動かしていくポジションだしね。他の主要キャストは基本的に日常風景を描いている中で、阿久根のパートだけは何かが起きそうな気配が漂っている。
阿久根は警察に捕まって前半だけで退場するが、今度は進が中心になる。ようするに、拳銃を持っている奴が基本的には話を動かしていく役割を担当するのだ。その間、清水は傍観者の状態が長く続く。
彼は拳銃の持ち主も場所も知らないので、奪還のために動けない。なので、冴えない男だった奴が、ますます自堕落なダメ人間になるだけだ。しかも、そんな様子をメインで描いているわけでもなく、しばらくの間は完全に消えている。
1時間10分ほど経過し、清水は拳銃に関する情報を得てたことで、ようやく動き出す。裏を返せば、そこまでの彼は全く積極的に出来ない。そのために、他のキャラを描く群像劇の形になっていると言ってもいいだろう。
しかも清水が拳銃の情報を得た後も、所持しているのは進なので、「進が復讐のために石森の元へ向かう」という部分がメインではある。それと並行して、清水が事件を阻止するために動く様子が描かれる構成となっている。
蜂矢と新の立ち位置がフワフワしているし、清水の心情ドラマも今一つクッキリと見えて来ない。最初から少しヤバい女だった亜代だが、それにしても終盤の扱いは可哀想な気がしないでもない。進の「苦い青春ドラマ」は、消化不良で放り出されているような印象を受ける。などなど、1つ1つを細かく見ていくと、不満は少なくない。
ただ、見終わってみると、何となく上手くまとまっている気がするから妙なモノだ。雰囲気だけで持って行かれた感じかな。でも、それはそれで、映画としては決して悪いことじゃないからね。
(観賞日:2021年7月20日)
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