『セルラー』:2004、アメリカ
高校で生物と化学を教えている教師のジェシカ・マーティンは小学生の息子のリッキーを学校へ送り出し、家に戻った。ハウスキーパーのロザリオと話していると、いきなり見知らぬ男たちが乗り込んできた。彼らはロザリオを射殺し、ジェシカを連れ去った。
一味の頭領のイーサンはジェシカを屋根裏部屋に監禁し、設置してあった電話機を破壊して出て行った。だが、ジェシカは修理すれば電話機が使えると考えた。彼女は剥き出しの配線を繋ぎ合わせ、どこでもいいから外部に連絡を取ろうとする。
青年のライアンが友人のチャドとビーチを歩いていると、フラれた元恋人のクロエがいた。しかしライアンは軽いノリで話し掛け、「自分は変わった」と告げてヨリを戻そうとする。
車でビーチを後にしたライアンの元に、ジェシカから電話が掛かって来た。必死で誘拐されたことを訴えるジェシカだが、ライアンは本気にしない。しかし必死の懇願を受け、警察に行くことは承諾した。
ムーニー巡査部長は警官を引退し、妻のマリリンと共にスパを始めようと計画していた。友人で刑事のジャックからは自分の下で働かないかと誘われるが、ムーニーの気持ちは変わらない。
そこへライアンが現われ、ムーニーに携帯電話を渡してジェシカと話をさせる。だが、ジェシカが名前と拉致されたことを告げたところで、署内にいた男達が暴れ出した。ムーニーは電話を4階の殺人課へ持って行くようライアンに告げ、そちらの応対に回った。
ライアンは4階へ行こうとするが、電波が弱くなっていく。電話が切れることを恐れるジェシカの声に、ライアンは階段の途中で困ってしまう。
その時、屋根裏部屋にイーサンが戻ったため、慌ててジェシカは電話を隠した。イーサンはジェシカを脅し、リッキーを拉致すると告げて去った。その会話を聞いたライアンは、事件が本物だと理解した。
イーサンが去った後、ジェシカはリッキーを助けて欲しいとライアンに頼んだ。ライアンは警察署を飛び出し、学校へ向かう。だが、授業時間が終了して大勢の生徒たちが廊下へと出て来たため、リッキーを見つけ出すのに苦労する。
必死に探したライアンは、イーサンたちが車にリッキーを押し込むのを目撃した。ライアンはセキュリティーの車を盗み、後を追う。
ライアンは大型トラックに前を塞がれたり、渋滞に巻き込まれたりする内に、イーサンの車を見失ってしまう。何とか探し出そうとするが、電話のバッテリー残量が少なくなってしまう。
セール中の店に飛び込んだライアンだが、整理券を取って客の行列に並ぶよう言われる。ライアンはセキュリティーの車に戻って銃を手に取り、それで脅して充電器を用意させた。
荷物をまとめて帰宅しようとしたムーニーはジャックと出会い、先程の一件について尋ねる。しかしジャックは外出しており、何も聞いていないという。気になったムーニーはジェシカの住所を調べる。
一方、ジェシカの家には、イーサンの仲間の女性デイナが来ていた。彼女は留守番電話を確認し、ジェシカの夫クレイグの「レフトに来てくれ」というメッセージを聞く。
屋根裏部屋にイーサンが戻ったため、ジェシカは電話を隠す。イーサンはレフトの意味を尋ねるが、ジェシカは分からないと答えた。するとイーサンは窓に近付くよう指示し、物置に連れ込まれるリッキーの姿を見せた。リッキーを殺すと脅されたジェシカは、レフトがロサンゼルス空港にあるバーのことだと明かした。
その時、ライアンの隣に大音量で音楽を流す女の車が停まった。その音は、電話を通して屋根裏部屋にも漏れた。ジェシカが必死に話して誤魔化している内に、ライアンは慌てて消音ボタンを押した。
イーサンは仲間たちを連れて、空港へ向かう。ムーニーはジェシカの家に赴くが、そこにいたデイナが彼女のフリをしたため、そのまま立ち去った。ライアンは空港へ走りながらジェシカ話すが、途中で混線してしまう。混線相手の弁護士に事情を話して電話を切るよう頼むが、全く相手にされない。
ライアンは弁護士の車を発見し、銃で脅して電話を切らせた。その間に、道の真ん中に停めたセキュリティーの車はトラックに追突されて壊れてしまう。ライアンは弁護士の車を拝借し、空港へと急ぐ。
トンネルに入ったため、慌ててライアンはバックし、別の道を行く。空港に到着すると、イーサンたちの姿があった。ライアンはパスポートを盗み、検問所に向かう。彼は密かに、前方にいるイーサン達の荷物に拳銃を忍び込ませた。
拳銃を発見されたイーサン達は警官たちに取り押さえられるが、警察バッジを提示して解放された。犯人一味が刑事だと知り、ライアンは驚いた。
クレイグの特徴をジェシカから聞いていたライアンは、それに合致する男を発見して電話を渡し、トイレに押し込む。だが、その男はライアンではなかった。イーサンたちは本物のクレイグを発見し、空港から連れ去った。
屋根裏部屋に連行されたクレイグは、イーサンから「例の物を渡せ」と脅され、センチュリー・シティーの銀行に預けてあると打ち明けた。イーサンはクレイグを連れて、銀行へ向かう。すぐにライアンも、銀行へと急いだ。
帰宅したムーニーは、テレビのニュースで携帯電話販売店での事件と弁護士が車を奪われた事件を知る。弁護士の「そいつはジェシカという女とベラベラ話していた。誘拐されたと言っていた」というコメントを聞いたムーニーは、ジェシカの家に電話を掛けた。留守番電話になっていたが、ムーニーは訪問時に対応した女性と声が違うのに気付いた。
イーサンはクレイグに貸金庫を開けさせ、例の物を入れたバッグを持たせて銀行を去ろうとする。ライアンが一味を襲撃し、クレイグを連れて逃亡しようとする。しかしクレイグが捕まったため、ライアンはバッグを持って逃亡する。
イーサンたちは銃撃し、周囲に警官の身分を提示する。イーサンたちに追われたライアンは電話を落としてジェシカとの通話が切れてしまう。
何とか逃げ出すことに成功したライアンはキャブを拾い、盗難車としてレッカー移動された弁護士の車を盗みに行く。キャブの中で、ライアンはバッグの中に入っていたビデオカメラの映像を見る。
そこには、イーサンたちが人を射殺する現場が映っていた。偶然にも殺人現場を撮影したクレイグは、イーサンたちに気付かれて追われる身となったのだ。一味の中には、ジャックの姿もあった。
一方、ジェシカの家へ赴いたムーニーはデイナの発砲を受け、反撃して狙撃する。相手が刑事だと知ったムーニーは動揺して救急班を要請したが、既に彼女は事切れていた。ムーニーは犯人一味だとは知らず、現場にやって来たジャックに自分の知っている情報を全て話した。
ジェシカは再び電話を繋ごうとするが、見張り役と通じてしまう。見張り役に襲われたジェシカだが、生物の知識を利用して殺害した。彼女は屋根裏部屋から脱出し、リッキーの元へ向かう。
アジトに戻ったイーサンは、ジャックからの電話でジェシカ邸での出来事を知る。ジェシカはリッキーをイーサンの車に乗せて逃亡を図るが、クレイグに拳銃を突き付けたイーサンが現われ、失敗に終わる。
ライアンは通話履歴を利用してイーサンに電話を掛け、ビデオテープとジェシカたちの交換を要求した。ライアンは交換場所として、人の多いサンタモニカ桟橋を指定した。
ジャックはライアンを発見して殺害するため、ムーニーに「携帯電話販売店の犯人探し」と称して彼の確認を依頼した。ライアンは携帯を耳に当てた状態でフードを被り、イーサンたちに気付かれぬよう注意しながら交渉をする。
だが、クロエが現われてフードを取ってしまい、それを見たムーニーがライアンに気付いた。何も知らないムーニーは、ライアンをジャックに引き渡した…。
監督はデヴィッド・R・エリス、原案はラリー・コーエン、脚本はクリス・モーガン、製作はディーン・デヴリン&ローレン・ロイド、製作総指揮はリチャード・ブレナー&ダグラス・カーティス&タウニー・エリス&キース・ゴールドバーグ、撮影はゲイリー・カポ、編集はエリック・シアーズ、美術はジェイムズ・ヒンクル、衣装はクリストファー・ローレンス、音楽はジョン・オットマン。
出演はキム・ベイシンガー、クリス・エヴァンス、ジェイソン・ステイサム、ウィリアム・H・メイシー、ノア・エメリッヒ、リチャード・バージ、ジェシカ・ビール、リック・ホフマン、マット・マッコーム、エリック・エチェバリ、アダム・テイラー・ゴードン、エリック・クリスチャン・オルセン、ヴァレリー・クルス、キャロライン・アーロン、ブレンダン・ケリー、シェリー・シェパード、ローナ・スコット、エステル・“ティータ”・メルカド、アル・サピエンザ、ジョン・チャーチル、グレッグ・コリンズ他。
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『デッドコースター』のデヴィッド・R・エリスが監督を務めたサスペンス・アクション映画。
ジェシカをキム・ベイシンガー、ライアンをクリス・エヴァンス、イーサンをジェイソン・ステイサム、ムーニーをウィリアム・H・メイシー、ジャックをノア・エメリッヒ、クレイグをリチャード・バージ、クロエをジェシカ・ビール、弁護士をリック・ホフマンが演じている。すっかり老けてしまったキム・ベイシンガーよりも、若手俳優のクリス・エヴァンスを主役と捉えた方が適確だと思う。
アンクレジットだが、プロデューサーのディーン・デブリンがキャブの運転手役で、ミュージシャンのG. Loveが本人役で(Garrett Dutton名義)出演している。
この映画の原案は、ラリー・コーエンだ。「誰かの命が危ないために電話を切ることが出来ない」という根幹部分は引き継がれているものの、最初の脚本とはかなり違うらしい。
とは言え、さすがラリー・コーエン、面白いB級映画の話を作らせたら天下一品の才能である。
ここでポイントになるのは、面白い「B級映画」ってトコ。基本的に、大勢の豪華スターが出演するビッグ・バジェットのメジャー映画向きの人ではない。なぜなら、ツッコミ所は多いからだ。
この映画でも、「なぜ機械の専門家でもないジェシカが壊れた電話機を簡単に修理できるのか」とか、「なぜライアンは他の警官や他の警察署に助けを求めることを考えなかったのか」とか、「なぜ軽薄全開だったライアンが身の危険を顧みずジェシカ救出に奔走するのか」とか、ツッコミを入れようと思えば入れられるポイントは色々とある。
だが、「ツッコミ所があっても、それを超えるぐらい面白いシナリオならいいんじゃねえの」ってのが、ラリー・コーエンの脚本だ(本人がそう考えているかどうかは知らないが)。
もちろん、ラリー・コーエンのアイデアを生かすも殺すも、脚本と演出次第である。
台無しにせず、ちゃんと「面白いB級映画」として仕上げた脚本家と監督の手腕も評価されるべきだ(脚本にはクレジットされたクリス・モーガン以外にも、『デッドコースター』のJ・マッキー・グルーバーとエリック・ブレスが関わったらしい)。
映画が始まって数分で、もう「犯人がドアを蹴破って乱入」という有無を言わせぬ巻き込み方。その後も、電話の破壊を見てすぐに修理に入るなど、とにかく展開が早い。
最初にヒロインのキャラ紹介や状況説明を済ませてから入るべき作品もあるが、この映画の場合、その「いきなり開始」でOK。そもそも、ヒロインのパーソナルは大した意味を持っていないし。
その後も休まずにジェット・コースター・ムービー的に展開していくが、そうやってコンパクトにまとめたのは大正解だ(上映時間は92分)。いい具合にガンアクションやカーアクションを盛り込み、急ぎすぎの印象を与えず、テンポ良く進めていく。
途中で通話が切れてしまうが、クライマックスでもちゃんとセルラー(携帯電話)が重要なアイテムとして使われているのもグッド。
導入部でシリアスでスリリングな空気を作り出すが、ライアンが登場すると一気に軽いノリになる。その後は彼が東奔西走するわけだから、そのノリが誘拐事件というシリアスな話の中にも入ってくることになる。
ライアンだけでなく、コメディー・リリーフのような弁護士を始めとする脇役のキャラクターも、シリアスの中に軽妙さを持ち込む役割として使われている。
この緩和も下手をすれば緊張感を削ぐというマイナスだけに終わりかねないが、上手いバランスでの味付けとなっている。
デヴィッド・R・エリス監督に対して最も「分かってるな、センスあるな」と感じたのは、ウィリアム・H・メイシーの使い方。
彼は普段、冴えない役や情けない役が多い役者であり、ここでも「いかにも実直で冴えない警官」として登場する。だが、彼は「物陰から出て床をスライディングしての銃撃」とか「横っ飛びしての銃撃」といった動きを披露し、アクション俳優の如くに活躍するのだ。
これが奇をてらっただけのスベった演出ではなく、ニヤニヤさせてくれる嬉しい演出になっている。
B級映画の傑作だ。
(観賞日:2007年9月5日)