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『ホワイトリリー』:2017、日本

 結城はるかは有名な陶芸家である乾登紀子の弟子として、住み込みで仕事をしている。登紀子は酔った状態で、スポンサーのパーティーに出掛ける。最近の彼女は陶芸教室をはるかに任せ、全く顔を出さなくなっている。しかし、はるかは登紀子を敬愛しており、自分の問題点を指摘されると喜ぶ。
 はるかは陶芸教室へ行き、素人の主婦たちを指導する。登紀子はテレビのコメンテーターとしても活動しており、それを見たはるかは笑顔になる。

 夜遅くになって戻った登紀子は泥酔しており、、経営コンサルタントの野尻慎平と一緒だった。はるかは夕飯を用意していたが、登紀子は「遅くなるって言ったよね。普通、食べてくるって思わない?」と口を尖らせる。
 野尻が「でも美味しそうじゃない」と料理を口に運ぶと、はるかは不愉快そうに凝視した。登紀子は野尻を寝室へ連れて行き、情事に及ぶ。その喘ぎ声を、はるかは隣の部屋から壁越しに聞いてオナニーを始めた。

 野尻が帰った後、はるかが眠ろうとしていると登紀子が全裸で現れた。「今日も不完全燃焼。だから、お願いね」と登紀子が口にすると、はるかは嬉しそうに「はい、先生」と言う。彼女は服を脱ぎ、登紀子と肌を重ねた。情事を終えると登紀子は「すごく良かったわ。じゃあ、お休み」と告げ、すぐに部屋を去った。
 翌朝、はるかはコーヒーを用意して登紀子の起床を待つ。しかし登紀子はコーヒーを飲まず、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。はるかが「少し控えた方がいいんじゃないですか」と忠告しても、彼女は「飲みたい気分なの」と全く意に介さなかった。

 はるかが買い物を終えて登紀子のアトリエに戻ると、二階堂悟という青年が来ていた。はるかは陶芸教室の希望と考えて声を掛けるが、悟は否定した。彼は有名な陶芸家の息子で、1ヶ月ほど修業を積むことになったのだ。
 作務衣に着替えた悟がろくろを回す様子を見ながら、登紀子は「ゾクゾクする」とはるかに囁いた。悟は駅前のビジネスホテルで泊まるつもりだったが、登紀子は「ウチに泊まればいいじゃない」と告げ、はるかに布団を用意するよう指示した。

 悟が恋人の三田村茜と電話で話していると、ドアがノックされた。悟が電話を切ると、登紀子が入って来た。彼女は悟を外に連れ出すと、恋人がいると知りながら誘惑してセックスに持ち込んだ。はるかは2人の情事を目撃し、アトリエに戻って嗚咽した。
 次の朝、はるかがキッチンに行くと、先に登紀子が起きて朝食を作っていた。彼女がはるかの前で「昨日は楽しかったね」と言うので、悟は困惑した様子を見せた。登紀子が「この子なら平気よ。私の全てを受け入れてくれるから。約束したもんね」と確認すると、はるかは「はい」と強張った顔でうなずいた。

 登紀子が外出すると、悟ははるかを口説くような軽薄な態度を取る。彼ははるかが登紀子に惚れていると気付き、「男で酷い目に遭ったりしたの?だって女が好きなんでしょ」と馬鹿にしたように言う。はるかは彼を睨み付け、「先生だからです」と告げた。
 はるかは土砂降りの夜、登紀子の家の前にずぶ濡れで佇んでいた。登紀子が恋人の西野康介と帰宅し、震えている彼女をアトリエに招き入れた。はるかが両親への連絡を嫌がると、登紀子は陶芸をやってみないかと勧め、康介と2人で陶芸教室を開くことを話した。登紀子ははるかに「何も話さなくていいから、私のことは信じて」と告げ、3人での生活が始まったのだった。

 はるかは登紀子に悟を追い出すよう頼み、「どうしちゃったんですか。あんな男にハマるなんておかしいでしょ」と責めるように告げる。「私、怖いんです。先生がまた、あの時みたいになっちゃったらどうしようって」と彼女が涙目で訴えると、登紀子は平手打ちを浴びせて「わきまえなさい」と鋭く告げた。
 登紀子が去った後、はるかは声を殺して泣いた。康介が事故死したという知らせを受けた時、はるかは傷心の登紀子を抱き締めて接吻した。困惑する登紀子に、彼女は「先生のすぐ傍にいます。これからも、ずっと一緒にいます。先生を一人になんかしない。先生の全てを受け入れます」と告げた。

 登紀子は悟との情事を重ね、はるかは壁越しに音を聞いて涙した。登紀子の外出中に茜が来ると、悟ははるかに「俺の部屋、片付けといてくんない?酒臭くて」と言う。
 「腕は磨かなくていいんですか」とはるかが責めるように告げると、彼は「先生には黙っててよ」と頼んで茜と出掛けた。茜は悟が自分から離れることを心配しており、彼とセックスして激しい声を上げた。はるかは悟の部屋を片付けるが、強い苛立ちを覚えて絶叫した。

 陶芸教室の主婦たちが悟と楽しそうに笑い合っていると、はるかは「やる気が無いなら出て行ってください」と怒鳴る。すると主婦の1人が、「プロになれるとも思ってない。ただ楽しみたいだけ。はるかちゃんの指導って窮屈なの」と述べた。
 登紀子ははるかを叱責し、悟に抱き付いて「明日から教室の方、任せるわ」と告げた。はるかは悟に「あそこまで言われて、よく嫌にならないね」と言われると、「約束したんだから。ずっと一緒にいるって。私がいなきゃダメなんだから」と泣きながら話した。

 家でも学校でも居場所の無かった自分を受け入れてくれたこと、ここだけが自分の居場所であることを彼女が語ると、悟は「はるかちゃんが先生に縛られてるのかと思ったけど、逆に先生のこと縛ってない?」と告げた。はるかは登紀子の体を心配し、ビールをノンアルコールに切り替えた。
 登紀子が悟に買って来てもらおうとすると、そこへ茜がやって来た。茜ははるかが悟の浮気相手だと思い込み、激しく非難する。彼女は家に上がり込み、悟に「一緒に帰ろう」と告げる。登紀子は「めんどくさい女ね」と見下した視線を向け、「ホントは自分に同情してるだけなんでしょ」と言い放った。

 茜が泣きながら走り去ると、登紀子はお風呂に行く。はるかが「私も同じなのかな。同情してるだけなのかな」と漏らすと、悟は「ここを離れた方がいいんじゃない?」と告げてキスする。そこへ登紀子が戻り、自分を裏切ったと非難して出て行くよう命じる。
 「嫌です。私は先生が全てなんです」とはるかが頭を下げると、登紀子は自分の前で悟とセックスするよう要求した。「私の全てを受け入れるって約束したわよね」と登紀子に凄まれると、はるかは泣きながら承諾する…。

 監督は中田秀夫、脚本は加藤淳也&三宅隆太、製作は由里敬三、エグゼクティブプロデューサーは田中正、プロデューサーは西尾沙織&高橋政彦、Co.プロデューサーは小室直子&高木希世江、アソシエイトプロデューサーは山本章、撮影は近藤龍人、照明は藤井勇、録音は柿澤潔、美術は西渕浩祐、編集は青野直子、音楽は坂本秀一。

 出演は飛鳥凛、山口香緒里、町井祥真、西川カナコ、三上市朗、伊藤こうこ、榎本由希、松山尚子、はやしだみき、鎌倉太郎ら。

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 「日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」として製作された5本の内の1本。行定勲の『ジムノペディに乱れる』、塩田明彦の『風に濡れた女』、白石和彌の『牝猫たち』、園子温の『ANTIPORNO アンチポルノ』に続いて最後に公開された。
 監督は『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』『MONSTERZ モンスターズ』の中田秀夫。脚本は『クロユリ団地』『劇場霊』でも中田秀夫と組んだ加藤淳也&三宅隆太。はるかを飛鳥凛、登紀子を山口香緒里、悟を町井祥真、茜を西川カナコ、野尻を三上市朗が演じている。

 プロジェクトに参加した他の面々とは違い、中田秀夫だけはロマンポルノに携わった経験がある。かつて中田秀夫は日活で助監督として働き、小沼勝に師事してロマンポルノの現場で仕事をしていたのだ。しかし彼が監督に昇格する前に、1988年でロマンポルノは終了してしまった。
 つまり彼にとってロマンポルノは、「撮りたかったのに撮ることが出来なかった映画」なのである。「ロマンポルノに何の興味も無い」と平気で言っちゃうような誰かさんとは、このプロジェクトに対する思い入れが全く異なるのだ。

 冒頭、登紀子が酔っ払った状態で2階から現れ、ワンピースの背中のファスナーを上げるようはるかに頼む。ろくろを回していたはるかは手が汚れているので、口でファスナーをくわえて上げる。
 その様子を、カメラはアップで写し出す。ちょっとしたSEも入れて、「ここは官能的なシーンですよ」ってことをアピールする。この段階で、「はるかは登紀子の弟子というだけでなく、性的な欲情も抱いている」ということがハッキリと分かる仕掛けになっている。

 はるかは自分が用意した夕食を野尻に食べられると、露骨に嫌悪感を示す。それは「敬愛する師匠のために作ったのに」ということではなくて、明らかに「恋敵」への憎しみが込められている。しかし、登紀子が野尻を部屋に連れ込んでセックスすると、その声を聞いて興奮し、オナニーを始める。
 そういう時のはるかは不快感を抱くよりも、性欲に身を任せることを選ぶわけだ。「自分の愛する師匠が他の男に抱かれている」という状況が、彼女の性欲を刺激しているのだ。いかにもロマンポルノらしい変態性が見られるシーンである。

 はるかが眠ろうとしていると、ドアが開いて全裸の登紀子が現れる。薄暗い部屋にドアを開いて光が差し込み、それと同時に全裸の登紀子がカメラに写し出される。最初ははるかにピントが合っているが、そこから登紀子にフォーカスが移動する。カメラの左手前にははるかがた状態から上半身を起こしており、右奥には登紀子がスラリと良い姿勢で立っている。構図も含め、「絵」の力を感じるシーンだ。
 ここから2人が肌を重ねるシーンになるのだが、カットが切り替わると白い花で埋め尽くされた部屋になっている。ファンタジーとしての映像になるわけだが、そこからカットが切り替わると現実の部屋に戻り、登紀子が「すごく良かったわ。じゃあ、お休み」と告げて立ち去る。つまり幻想的なシーンは、はるかが登紀子との情事に感じている美化された心象風景ってことだ。

 はるかは登紀子に師弟関係を超えた感情を抱いているが、そこには西野康介という男の存在が絡んでいる。もしも康介が事故死しなければ、はるかと登紀子の関係は「弟子と師匠」のままだっただろう。きっと彼女は登紀子と康介の結婚を祝福し、良き弟子として2人の傍にいただろう。
 だが、康介の死で登紀子の心が壊れそうになってしまった時、はるかは自分を受け入れて居場所を作ってくれた彼女を支えるため、過剰な行動に出てしまう。接吻し、全て受け入れると約束するのだ。これが大きな過ちなのだが、はるかは正しいと信じている。はるかと登紀子は、こうして間違った依存関係を結んでしまったのだ。

 登紀子が酒に溺れたり男遊びを繰り返したりするのも、康介の死が影響していることを、はるかは分かっている。だから、その行動を全て否定することが出来ない。飲酒量の多さを心配しても、男遊びに嫌な気持ちを抱いても、決して投げ出さずに尽くし続ける。
 彼女は登紀子に何をされても全て受け入れることについて、「約束したから」と言う。それは自分に言い聞かせるための言葉だ。その約束は、はるかを縛り、そして登紀子を縛っている。そんな約束が無ければ、登紀子だってはるかへの言動が違っていただろう。

 はるかは登紀子との関係に、美しい幻想を見ている。幾ら身勝手に利用されても、無償の愛を捧げようとする。しかし登紀子にとってのはるかは、都合のいい女に過ぎない。そんな関係が続いていたが、はるかが登紀子を庇って茜に刺されたことがきっかけで、大きく変化する。退院したはるかは登紀子に平手打ちを浴びせ、「私を悦ばせて」と要求してセックスする。
 主従関係が逆転した情事の後、登紀子が再び一緒に暮らすことを提案すると、はるかは「ありがとうございました」と笑顔で告げて去る。それは「身勝手に利用されることへの決別」ではない。はるかが解放されると同時に、登紀子を解放するための決別なのだ。

(観賞日:2018年11月28日)

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