![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/165140206/rectangle_large_type_2_f22034c8b16c2753fa7844d21866eb77.png?width=1200)
『セイント・フランシス』:2019、アメリカ
レストランの給仕係として働く34歳のブリジットは、お見合いパーティーで26歳のジェイスと知り合った。彼女はジェイスを部屋に招き、肉体関係を持った。翌朝、ジェイスはシーツに付着している大量の血に困惑し、ブリジットに「生理か?」と尋ねる。2人はジョークも口にしながら、後片付けをした。
ブリジットはナニーの面接に赴き、レズビアンのカップルであるマヤとアニーに会った。2人には6歳になる娘のフランシスがいて、6月に卒園する。そこから8月までの予定で、ナニーを求めていた。
マヤとアニーのカップルは、新たにウォーリーという男児を授かっていた。しかしアニーは実際に産んでいないので産休を貰えず、マヤは在宅仕事だが高齢出産なので医師から充分に休憩を取るよう指示されていた。ブリジットはナニーの経験が無いこと、ベビーシッターのアルバイト経験あることを2人に話した。
彼女は6つ下の弟がいることを明かし、「仕事も家もある立派な大人で、私とは大違い」と語る。マヤは敬虔なカトリックで、壁には宗教画が飾ってあった。ブリジットは彼女に、中学まではカトリックだったと告げた。
ブリジッとはフランシスと2人になるが全く懐いてもらえず、不採用を確信した。帰宅した彼女は、「35歳で何をすべきか分からない」とパソコンに打ち込んでネット検索した。レストランで仕事をしていた彼女は、店長の言動に不快感を覚えた。
そこへマヤから採用の電話が入ると、ブリジットはレストランの仕事を放り出して赴いた。マヤは経験豊富で紹介状もある人を雇ったこと、高齢で動きが鈍く厳格な性格だったこと、フランシスが不機嫌になるのでアニーがクビにしたことをブリジットに話した。
マヤはブリジットに金を渡し、「甘い物は与えないで」と指示して買い物に出掛けた。ブリジットはフランシスを公園に連れて行くため、ベビーカーを準備する。フランシスは勝手に歩き出すが、すぐに疲れておんぶを求めた。
公園に着いたフランシスは、「お金貸して」と言い出した。「甘い物はダメよ」とブリジットが告げると、彼女は「ママじゃない。知らない人。助けて」と大声で叫ぶ。そのせいで警官が駆け付け、ブリジットはマヤの家まで連行される羽目になった。
帰宅したブリジットは、ジェイスに「余分に給料を貰えて、早く帰れたわ」と話した。買い物に出た彼女は体調が気になり、妊娠検査薬を購入した。調べると陽性だったが、ブリジットはジェイスに「産む気は無い」と断言した。「もしかして君の避妊が上手く行かなくて」とジェイスが口にすると、彼女は「避妊してない」と告げた。
「8年、この方法を使ってる。こうなると思わなかった」と彼女は言い、その理由を問われると「今まで無かったから」と答えた。ジェイスが「行く時は付き合うよ。費用は出す」と言うと、ブリジットは「半分でいい」と述べた。
フランシスはブリジットに、「ママが仲良くやれって」と話す。ブリジットは彼女をベビーカーに乗せ、図書館へ向かった。フランシスが「公園がいい」と言うと、ブリジットは「後で寄るわ。考え事をしたいの」と告げた。図書館に着くと、フランシスは絵本の読み聞かせを求めた。
ブリジットはトイレに行くフリをして、ジェイスに「付き合わなくても平気よ」とメールを送った。彼女が戻るとフランシスは勝手に鞄を開けて生理用品を出しており、大声で「生理中なの?」と問い掛けた。
帰り道、ブリジットはベビーカーのベルトを付け忘れ、フランシスが投げ出されてしまった。ブリジッとは手に軽い擦り傷を負い、家まで連れ帰ったブリジットはマヤに謝罪した。ブリジットは中絶手術を受けるため、病院を訪れた。医師は経過を見るために超音波検査をすると説明し、「貴方は見なくてもいい」と告げた。
手術を終えたブリジットは帰宅し、ジェイスが費用の半額を送金した。ジェイスが「少し調べた。付き合い始めには血とか」と話し始めると、ブリジットは言葉を遮って「付き合ってない」と修正した。
ブリジットはジェイスに、「貴方は26歳でしょ。若くて健康的な精子のおかげで、こうなっただけ」と語った。彼女は中絶の副作用で出血し、ジェイスは術後のケアに協力した。フランシスをギター教室へ連れて行ったブリジットは、事務員から一緒に始めるよう勧められた。
一度は断ったブリジットだが、詩人でもある講師のアイザックを見て気持ちが変わった。アイザックはフランシスを「この子はジョーン・ジェットみたいだ。才能がある」と褒め、来週も来るようブリジットに告げた。
ブリジットはフランシスを家へ連れ帰り、一緒にジョーン・ジェットのメイクをした。2人が曲を流して踊っていると、アニーが現れた。彼女がフランシスの顔を拭くと、防水のマスカラが取れなかった。
アニーはブリジットに、「この子は週末に結膜炎になったのよ」と言う。彼女はブリジットがランナウェズのファンだったと聞き、「バンドに何があったのか調べてみて」と告げた。帰宅したブリジッとは、ネットで「ランナウェイズ・裏の顔」と検索した。
ブリジットはジェイスのディナーに誘うメールを無視し、母のキャロルと父のデニスの散歩に付き合った。キャロルはブリジットの友人のジルが妊娠したことを、フェイスブックで知ったと語る。「友達と絡まないで」とブリジットが苦言を呈すると、彼女は「貴方が心配で」と言う。
ブリジットが「母親になる自信が無い。子を虐待する母親もいる」と漏らすと、母は「それは特殊な例よ」と語る。ブリジットが「生まれて来る子に悪い。今の世界は住みにくい」と話すと、彼女は「世界はいつでも住みにくいわ」と述べた。
キャロルが「親の意思だけど、もし生まれないか、生まれて今の人生を生きるか選べたら、生まれるのを選んでた?」と質問すると、少し考えてからブリジットはうなずいた。するとキャロルは、「だったら貴方の子供も喜ぶはずよ」と笑顔で告げた。
ブリジットはギター教室を訪れ、アイザックに「個人指導はやってる?」と尋ねた。アイザックは微笑を浮かべ、「普通はやらないが、君さえ良ければやってもいいよ」と述べた。トイレに行ったはずのフランシスが屋外に出ていたので、ブリジットは注意した。
フランシスを家まで連れ帰ったブリジットはトイレに入り、出血に気付く。彼女はパンツを脱いで丸め、手に握ってトイレを出た。するとフランシスがパンツを奪い取り、マヤに見せた。
マヤはブリジットに詫びて、「他人の秘密は尊重してあげて」とフランシスを注意した。しかしフランシスは全く気にする様子も無く、ブリジットに「マミーはタンポンを使うけど、ママはカップを使う。私も自分の体に合う物を見つけないと」と語った。
ウォーリーが泣き出すと、ブリジットが赴いて抱き上げた。彼女があやすと、すぐにウォーリーは泣き出した。それを見たマヤは、「気に入られてるのね。私が抱くと、すぐに泣く」と告げる。実際、彼女がウォーリーを抱くと、すぐに泣き出してしまった。
夜、ジェイスはブリジットに、自身の感情を記した日記を朗読した。「例の件の感情への影響は、まだ話し合ってない。僕には、まだ整理が付いてない感情がある。決断は正しいと思うが、僕らが失った物は大きいように感じる」と彼が語ると、ブリジットは「私は喪失感なんて無い。一緒にしないで」と告げた。
ジェイスが中絶の件を親友のチャドに話したと知り、ブリジットは「知られたくない。変な目で見られる」と抗議した。ジェイスは何の罪悪感も示さず、「誰かに話さないと落ち着かなかった」と言う。ブリジットは「これだから1人でやれば良かったのよ。ミレニアル世代は感情のことばかり」と、激しく苛立った。
翌朝、トイレに入った彼女は、誤ってタンポンを落としてしまった。トイレが詰まって真っ赤に染まり、チャドがドアをノックしたのでブリジットは何とかタンポンを取ろうとする。しかし手を突っ込んでも取れなかったので、彼女は仕方なくチャドにトイレを直してもらった。
夜、ブリジットはアイザックからギターの個人指導を受け、キスを交わした。翌朝、寝過ごした彼女は、慌ててマヤの家へ赴いた。その夜、ブリジットはアイザックから誘われて会いに行き、セックスすることになった。彼女はアイザックに、コンドームの着用を求めた。
いざセックスを始めると、アイザックは「濡れてない」と言い出した。ブリジットは「ローション付きなのに」と困惑するが、彼はベッドから起き上がって浴室へ向かった。「おい、生理中だったのか。言ってくれよ」というアイザックの声を聞いたブリジットがシーツに目をやると、血が付着していた。
翌日、ブリジットは公園でフランシスを遊ばせ、アイザックにメールを打つ。彼女が目を離した隙にフランシスが池に転落し、近くにいた男性が救助した。ブリジットはフランシスを家に連れ帰り、マヤに「池に落ちたけど、大したことは無い」と説明した。
ブリジットが問題の原因をフランシスに転嫁するような言葉を口にしたため、マヤは「一瞬でも目を離しちゃダメ」と苦言を呈する。ブリジットが「過ちは認める」と言うと、彼女は「親に過ちは許されない」と述べた。
後日、ブリジットがマヤの家を訪れると、近所に住むシェリルが幼い息子を連れて遊びに来ていた。ブリジットは1年だけ大学で文芸の授業を受けていた時、シェリルと同期だった。シェリルはブリジットがナニーだと知り、「ウチに来て息子に何か作ってよ」と告げた。
ブリジットはシェリルが住む大きな家へ行き、彼女が出版した本を目にした。ブリジットはフランシスをスケート教室や体操教室へ連れて行き、海へ遊びに出掛けた。
ブリジットはフランシスから、「ヘンリーのママは離婚して、空手の先生と住んでる」と聞かされる。フランシスは「ヘンリーのパパはヤケになって、車で池に飛び込んだ。そういう騒ぎがあったから、ヘンリーは空手を辞めた」と語り、「マミーとママが離婚したら、私もスケートを辞める?」と質問する。
ブリジットは「2人は離婚しないと思う」と答え、「約束できる?」と問われると「それは出来ない。でも離婚しないと信じてる」と語った。
ブリジットはアニーに呼び出され、「マヤは定期的に誰かと会ってる?」と質問された。「数週間前に一度、医者の所へ行った」と答えると、アニーは「どう思う?貴方はいつもマヤを見てるでしょ」と意見を求めた。ブリジットが「最近は無口で。疲れて助けを求めているんじゃ?」と言うと、アニーは「だから貴方がいる」と告げた。
フランシスを公園で遊ばせたブリジットが戻ると、マヤが疲弊した様子で立っていた。奥の部屋ではウォーリーが泣いており、彼女はブリジットに「あやしてくれる?」私は近付けない」と漏らした。
ブリジットはウォーリーを抱き上げて泣き止ませると、フランシスに預けてマヤの元へ戻った。彼女が気遣って「アニーを呼ぶ?」と言うと、マヤは「やめて、お願い」と止めた。「何かしないと。1人で抱えちゃダメ」とブリジットが語ると、マヤは「マリアに祈ってる」と言う。「返事はあった?」という問い掛けに、彼女は「全て私が悪いと。そう聞こえる」と泣く。
ブリジットは彼女に、「私の母は、泣き叫ぶ私を壁に打ち付けたかったと。本音を出さないと、子育てはクソ孤独よ」と語る。マヤが「今夜は娘と花火を見に行く予定だった。アニーは仕事。私1人で2人の面倒は見られない」と言うと、ブリジットは「私も行くわ」と申し出た…。
監督はアレックス・トンプソン、脚本はケリー・オサリヴァン、製作はピアース・クレイブンズ&イアン・カイザー&エディー・リンカー&アレックス・トンプソン&ロジャー・ウェルプ&ジェームズ・チョイ&ラファエル・ナッシュ、製作総指揮はエリック・アッシュワース&エディー・リンカー&ボブ・ライアン&リン・ライアン&アンディー・サルメン&ナンシー・シールズ&ウォルター・ガルワス&フレッド・レヴィン&サラ・マーティン&ポール・リージャー&ケヴィン・ドイル&ラファエル・ナッシュ&ハルーラ・ローズ&グレッグ・ベックウェイ&ダイアン・ベックウェイ&ボブ・ルービン&アーリーン・ルービン&ロブ・ルービン&ロジャー・ウェルプ、製作協力はキャロル・ディーボ&アレックス・ウィルソン、撮影はネイト・ハートセラーズ、美術はマギー・オブライエン、編集はアレックス・トンプソン、音楽はクイン・ツァン。
出演はケリー・オサリヴァン、ラモーナ・エディス=ウィリアムズ、チャーリン・アルバレス、リリー・モジェク、リリー・モジェク、マックス・リプシッツ、ジム・トゥルー=フロスト、マリー・ベス・フィッシャー、フランシス・ギナン、レべッカ・スペンス、レベッカ・ウォード、エズラ・ギブソン、ダニー・キャットロウ、ハンナ・ドウォーキン、ブラッドリー・グラント・スミス、レベッカ・ブラー、ブレイデン・クロサーズ、サム・ルービン、ソフィア・ルービン、オニエ・“ブラザー・ワード”・ダヴェンポート、ロジャー・ウェルプ、ルイス・ガルシア、ノア・ウィリアムズ、キャスリーン・ルール他。
―――――――――
サウス・バイ・サウスウエスト映画祭の観客賞と審査員特別賞、シカゴ映画批評家映画祭の観客賞、アメリカン映画祭の観客賞を受賞した作品。ブリジットを演じるケリー・オサリヴァンがグレタ・ガーウィグの『レディ・バード』を見て触発され、自身の体験を基にして脚本を執筆している。彼女の私生活のパートナーであるアレックス・トンプソンが、長編初監督を務めている。
フランシスをラモーナ・エディス=ウィリアムズ、マヤをチャーリン・アルバレス、アニーをリリー・モジェク、ジェイスをマックス・リプシッツ、アイザックをジム・トゥルー=フロストが演じている。
序盤、ジェイスとセックスした翌朝のブリジットは、スマホで赤ん坊を可愛がる親の写真を連続で見ている。その後には、ナニーの面接に出向いている。なので子供を欲しがっているのかと思いきや、面接後の友人との電話では、そんなに「子供が大好き」という様子は見せていない。そして妊娠が発覚すると、即座に「産む気は無い」と断言する。
では子供が欲しくないのかと思いきや、彼女は避妊していない。8年間、ずっと「男に膣外射精してもらう」という方法でセックスを重ねている。それは表面的に考えれば「産む気が無いならアホすぎる方法」だが、「どこかで子供が欲しい気持ちもある」と捉えると、見方が少し変わって来る。
ブリジットは中絶手術の時、医師から超音波検査の写真を「見なくてもいい」と言われている。しかし医師が目を離した隙に、その写真を密かにスマホで撮影する。その行動からは、「実は出産を全否定していないのでは」という疑惑が生じる。
本当は産みたい気持ちもあるが、それよりも不安が勝っているという状況なのではないか。フランシスに上手く懐いてもらえなかったことで、余計に彼女の中で出産への気持ちを減退させてしまったのではないか。
ブリジットはレストランの給仕係だが、それはアルバイトに過ぎない。34歳だが結婚しておらず、定職にも就いていない。弟と比較して、劣等感も抱いている。「こんな自分が子供を産んで、ちゃんと育てられるのか」という不安が強いのではないか。
彼女がキャロルに漏らす「母親になる自信が無い」という言葉は、本音のド真ん中なのだろう。そして「子供を虐待する母親もいる」とか「気候変動や銃乱射事件、核戦争の危険。今の世界は住みにくい」というのは、たぶん「不安を覚える本当の理由」を隠す言い訳なのだろう。
この映画には、対立構造を生みやすい複数の関係性が盛り込まれている。カトリックの敬虔な信者と、信仰を捨てた人間。望んで母親になった女性と、母親になることを望まなかった女性。レズビアンとヘテロセクシャル。白人と黒人。
華やかな生活を送る人生の勝ち組と、定職にも就けずにいる人生の負け組。腹を痛めて母親になった女性と、出産せずに母親になった女性。赤ん坊に好かれる女性と、懐いてもらえない女性。「ミレニアル世代の若い男性と、年配の男性」の関係性もあるが、それを除けば女性の関係性ばかりだ。
最後の「ミレニアル世代の若い男性と、年配の男性」の関係性も、実は女性を描く上での要素だ。前者はジェイス、後者はアイザックで、つまりブリジットが関係を持つ相手としての存在だ。
最初にブリジットはジェイスと関係を持つが、中絶した辺りから気持ちが変化して、アイザックに惹かれるようになる。ブリジットはジェイスの言動に苛立ちを覚えるようになり、どんどんアイザックに傾いていく。しかしアイザックとのセックスは失敗に終わり、これをきっかけに彼との関係は終焉を迎える。
そして完全ネタバレだが、最終的にブリジットはジェイスとの関係を修復する。「片方がダメになったから、切ろうとした相手とヨリを戻す」というビッチな感覚での選択ではない。様々な経験を経て学習し、「ミレニアル世代だから」という自身の偏見を排除し、それまで隠していた素直な気持ちを告白した上で、ちゃんと付き合おうと決断したのだ。
対立構造にある関係性において、一方の味方をしたいのなら、もう一方を悪として描けば簡単だろう。しかし本作品は、どちらか一方を安易に否定したり批判したりすることが無い。どちらの立場にある女性も肯定し、寄り添ってあげようとする。
どんな立場にいる人間も、それぞれに辛かったり傷付いたり、悩みを抱えていたりする。相手の立場になって少し考えてみれば、自身と異なる人の痛みも理解できるだろう。多様性が広がっていく社会の中で、ほんの少しの優しさや思いやりがあれば、誰もが共存できるはずだ。
しかし残念ながら人間は完璧じゃないし、そんなに寛容な性格の持ち主ばかりでもない。時には苛立ちを他人にぶつけたり、間違った行動を取ったりする。だからブリジットも過ちを犯すことは少なくないし、決して褒められた人生を送って来たわけじゃない。しかしマヤやフランシスたちと交流する中で、彼女は様々な体験を経て、少しずつ学んでいく。
特にフランシスとの関係は、彼女を大きく成長させる。時に大人びたことも言うフランシスだが、当然のことながら基本的には幼い女の子だ。だが、ブリジットと彼女の関係は、「疑似母娘」ではない。強い絆で結ばれた2人は、「年の離れたソウルメイト」になるのだ。
生理の悩み、育児の悩み、仕事の悩み、交際の悩み。現代女性が抱えるリアルな生態が、ここには描かれている。こういうことを書くと「それも偏見」と批判されかねないが、そこに関しては、やはり女性のケリー・オサリヴァンだからこそ描けた生々しさじゃないかと思う。
これが男性だったら、特に生理を巡る現実なんて、そこまで深い部分までは理解していないだろう。ケリー・オサリヴァンが実際に体験したからこそ、ここまでの描写が可能になったんだろうと思う。
この映画で特に印象に残るのは、粗筋で書いた後のシーン。花火大会に向かう途中、マヤは授乳のために公園で休憩する。すると近くで幼い息子と娘を遊ばせていた主婦のジョーンが、「トイレとか車の中でやってもらえない?自分の部屋じゃないのよ」と注意する。
マヤがレズビアンだと知った彼女は、「子供に同情するわ。どうかしてる」と口にする。ブリジットは怒って家族への謝罪を要求し、マヤは「子供が見てる」と告げる。ジョーンが「ウチの子供も見てる」と返すと、彼女は「だからこそ、異なる意見を尊重すべきだと示さないと。不快にさせたなら謝る。だけど、我が子への愛を詫びる気は無い」と強い口調で語る。
ここで終わったら、ジョーンを単なる悪者にして、「マヤが酷いことを言う女をギャフンと言わせた」というだけのシーンになっただろう。もちろん、ジョーンの言動に問題があったことは確かだ。しかし、この映画は、そこで終わらない。フランシスがブリジットに促され、ジョーンに挨拶して握手を求める。
名前がジョーンと知ったフランシスは、「ジョーン・ジェットと同じ?」と尋ねる。マヤは「私はマヤで、この子はブリジット」と自己紹介し、「楽しんで」「貴方も」とやり取りしてジョーンと別れる。
これによって、全ての「母親」という存在が否定されずに済んでいる印象を受けたのだ。そして、ちょっとウルッと来たんだよね。
(観賞日:2024年2月3日)