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『劇場版「SHIROBAKO」』:2020、日本

 2019年4月。アニソンを紹介するラジオ番組のDJは、アニメバブルが弾けて本数が減ったこと、ブルーレイの売り上げが落ちていることを語る。武蔵野アニメーション(ムサニ)の制作として働く佐藤沙羅が会社に戻ると、先輩の宮森あおいが椅子を並べて寝ていた。あおいは沙羅に起こされ、『第三少女飛行隊めでゅーさ』の放送を見るため会議室へ向かう。
 彼女は『第三少女飛行隊』の頃の賑わいを思い出すが、現在の会議室に集まったのは彼女を含めて6人だ。あおい、沙羅、演出の円宏則、動画検査の堂本知恵美、色指定・検査の新川奈緒は当時のメンバーで、新たに制作の高橋球児が加わっている。

 『第三少女飛行隊めでゅーさ』のムサニは下請けに過ぎず、1作目とは全くの別物になっていた。ムサニの二代目社長となった渡辺隼はメーカープロデューサーの葛城剛太郎たちと麻雀に興じており、放送をチェックしなかった。放送が終わった後、あおいたちは『三女』に関わったメンバーの近況について語り合う。
 木下誠一は新作の絵コンテを落としそうになるが、何とか完成に漕ぎ付けた。山田昌志は監督デビュー作が大当たりし、注目を集める存在になっていた。高梨太郎は演出家になってムサニを出たが、監督を怒らせていた。

 ムサニを出て作画監督となった安原絵麻はあおいに電話を掛け、みんなで会う約束を確認した。久乃木愛は絵麻と同居しており、多忙な彼女を心配している。
 藤堂美沙は今もスタジオカナブンに所属しており、後輩の宮田憲之や奥戸真衣に指導する立場になっている。彼女はアップ第一主義を掲げて反発する宮田に丁寧な仕事を要求したり、仕事がはかどらずに悩む奥戸に優しく声を掛けたりする。脚本家としてデビューした今井みどりは、師匠の舞茸しめじから足りない部分を的確に指摘された。

 あおいは松亭へ赴き、沈んだ気持ちを振り切って笑顔を作ってから店に入った。彼女は絵麻、美沙、みどり、声優の坂木しずかと合流し、互いの近況を話し合う。みどりは新進気鋭の脚本家として注目され、デビューから2年でタイトルを任されるようになった。しかし悪評が少なくなかったため、本人は気にしている。
 しずかは声優業の他、『声優ララララ』というテレビ番組のリポーターを務めている。あおいが「私たち、夢にどれだけ近付いたのかな」と漏らすと、全員が黙り込んだ。

 帰路に着いたあおいは激しく取り乱している葛城から電話を受け、渡辺と連絡が付かないと言われる。今日は直帰だとあおいが教えると、彼は「こんな時に」と焦りを見せた。
 翌朝、あおいは渡辺に呼び出され、葛城と関係がある件だと察した。渡辺は本田豊が店長を務めるケーキ屋『Ourrin』へ行き、あおいに「今のムサニをどう思う?」と問い掛ける。ムサニは「タイマス事変」で仕事が無くなってスタッフが抜け、スタッフが抜けるから仕事が受けられないという悪循環に陥っていた。

 渡辺は「今のムサニの状況で劇場をやるとしたら、どうする?」と言い、元請けで劇場版アニメーションを手掛ける案件を教えた。それは「株式会社げ~ぺ~う~?」が制作する予定だった『空中強襲揚陸艦SIVA』という完全オリジナル劇場アニメで、2020年2月の公開が決定していた。通常なら製作期間に2年は必要とするが、10ヶ月しか残っていない状況だ。
 渡辺と別れて考え込んでいたあおいは、高梨と制作の平岡大輔に遭遇して車で送らされる羽目になった。高梨と平岡はメーカーに自分たちの企画を採用してもらうため、スタジオ経由で持ち込みに行く途中だった。平岡はあおいに、「やりたいことがあるなら、ジタバタしないと何も始まらない」と助言した。

 あおいはカレーとおでんの店『キッチンべそべそ』に立ち寄り、ムサニの初代社長で店主の丸川正人に会った。まだ丸川が社長だった頃、ムサニはオリジナルのTVアニメ『タイムヒポポタマス』の制作を進めていた。しかし社長の交代したメーカーが予算を出せないと言い出し、放送の3ヶ月前になって制作中止が決定した。
 丸川の辞任でムサニは倒産を免れたものの、また下積み状態に戻っていた。丸川はあおいに、若い人の道標になるようなアニメを作ってほしいと告げた。

 丸川と別れたあおいは、『SIVA』の制作を引き受けようと決意した。翌日、彼女は渡辺と共に葛城と会い、礼を言われる。「もしかしたら、これからもゴメンね」という葛城の言葉に、あおいは困惑した。「げ~ぺ~う~」は全く仕事を進めておらず、社長の三崎芳雄は葛城が激怒しても悪びれずに「あの予算で作れる作品じゃないですよ」と軽く言っていた。
 葛城は「げ~ぺ~う~」から企画を引き上げたことをあおいと渡辺に語り、この件を担当するアシスタントプロデューサーの宮井楓を紹介した。あおいは楓に誘われて飲みに行き、2人で愚痴をこぼした。

 翌朝、あおいは劇場映画を手掛けることをムサニの面々に発表し、第一回企画会議が開かれた。あおいは渡辺と葛城に、『タイマス』のアイデアを活用できないかと提案した。あおいは木下に監督を依頼するが、すっかり塞ぎ込んでいる彼は嫌がって逃げ出した。あおいと本田が説得すると、木下は舞茸の承諾を条件に出した。舞茸が「断る理由は無い」と即答したため、木下も監督を引き受けることになった。
 あおいはメカデザインを『タイマス』と同じく遠藤亮介にお願いしたいと思っていたが、連絡が付かない状態だった。あおいはムサニ出身の作画監督である井口祐未に頼るが、彼女も全く連絡を取っていなかった。遠藤はタイマス事変で自暴自棄となり、あちこちで仕事を落としたり喧嘩したりしていた。

 井口は別件とスケジュールが重なっていたため、キャラクターデザインだけという条件で仕事を引き受けた。あおいは小笠原綸子に作画監督を要請するが、今は原画の仕事しか受けていないと言われる。彼女が原画としての参加を引き受けてくれたので、あおいは喜んだ。
 シナリオ会議には3D監督の下柳雄一郎も参加し、あおいは絵コンテと演出に3人程度を考えているが円しか決まっていないことを語る。彼女は瀬川美里に依頼するつもりであること作画監督を絵麻に要請したいことを語り、木下は承知した。

 しずかは恩師の縦尾まりと会い、仕事を貰えるのは嬉しいが、流されているのではないかと不安があることを打ち明けた。まりは彼女に、自信と覚悟があれば自分のやりたいことに向かうべきだと告げた。仕事をせずに遊び歩いていた遠藤は、ゲームセンターで瀬川と遭遇する。瀬川は下柳からの電話に出ようとしない遠藤を「逃げてるだけ」と批判し、反発する彼に「だったら周りに迷惑掛けてないで、ちゃんと働きなさいよ」と声を荒らげた。
 遠藤は妻の麻佑美にだけ働かせていることを指摘され、「俺の生き方をどうこう言われたくない」と腹を立てる。瀬川は「生き方?今、ちゃんと生きてるって言える?アンタみたいな馬鹿、そこで燻っていればいいわ」と怒鳴り付け、その場を去った。下柳に頼まれて遠藤を説得するつもりだった瀬川は、感情的になったことを後悔した。

 下柳は遠藤を呼び出し、『SIVA』への参加を促した。遠藤は「俺がやりたかったのは『タイマス』だ」と拒絶するが、下柳は木下とあおいが作画監督を任せたがっていることを明かし、資料を渡して去る。遠藤はアクション作監とメカデザインとして『SIVA』に参加し、ムサニを出ていた制作の安藤つばきもドロップフィットスタジオからの出向という形で加わった。
 原画の木佐光秀と作監の絵麻も参加し、美術監督の渥美裕治も仕事を進める。木下とあおいは音響監督と稲浪良和と共に作曲家の浜崎五郎と会い、伴奏音楽を依頼した。

 しずかは「声優と芸能人の垣根を越え人材になってほしい」というマネージャーに、どうしても受けてみたいアニメのオーディションがあることを訴えた。美沙は社長の中垣内伸昭から『SIVA』のチーフアニメーターを提案され、迷わずに引き受けた。
 あおいは久々にムサニを訪ねてきた杉江茂から、子供アニメ教室の手伝いを頼まれた。彼女は声を掛けることを約束し、架空動物の原画を手伝ってもらう。舞茸はストーリー展開に迷いを感じ、アルテという主要キャラの必要性にも疑問を抱いて全く作業が進んでいなかった。劇場公開まで、あと6か月となっていた。

 声優オーディションに同席した舞茸は、ルーシー役を受けに来たしずかの声を聞いて「アルテもやってもらっていいですか」と依頼する。その声で着想を得た舞茸は、みどりに会って意見を求めた。絵麻は円から「綺麗にはなったけど、動きが殺されてしまった気がします」と原画を評され、すっかり落ち込んだ。
 舞茸はみどりに脚本協力として手伝ってもらい、シナリオを完成させた。あおいはスキャンダル写真で炎上した山田や高梨&平岡にも手伝ってもらうが、公開まで4ヶ月になっても木下の絵コンテが一向に進んでいなかった…。

 監督は水島努、原作は武蔵野アニメーション、脚本は横手美智子、プロデューサーは山中隆弘&前田健太&宮村諒&小杉雅博&青井宏之&長谷川嘉範&吉江輝成&池崎佳子、プロデュースは永谷敬之、ラインプロデューサーは相馬紹二、キャラクター原案は ぽんかん⑧、キャラクターデザイン 総作画監督は関口可奈味、美術監督は垣堺司&竹田悠介、色彩設計は井上佳津枝、メインアニメーターは森島範子&鍋田香代子、3D監督は市川元成、撮影監督は梶原幸代、特殊効果は加藤千恵、編集は髙橋歩、サウンドミキサーは山口貴之、音響効果は小山恭正、音響監督は水島努、音楽は浜口史郎、音楽プロデューサーは永谷敬之、主題歌『星をあつめて』はfhana。

 声の出演は木村珠莉、佳村はるか、千菅春香、髙野麻美、大和田仁美、佐倉綾音、高木渉、松風雅也、檜山修之、斎藤寛仁、浜田賢二、山岡ゆり、米澤円、葉山いくみ、田丸篤志、松本忍、間島淳司、高梨謙吾、伊藤静、日野まり、茅野愛衣、沼倉愛美、山川琴美、井澤詩織、小柳基、西地修哉、吉野裕行、小林裕介、中原麻衣、こぶしのぶゆき、興津和幸、濱野大輝、鈴村健一、湯浅かえで、室元気、櫻井孝宏、横尾まり、菅原雅芳、橋本ちなみ、室元気、岩田光央、野瀬育二、高橋李依、高橋伸也ら。

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 2014年10月から2015年3月まで放送されたTVアニメ『SHIROBAKO』の続編となる劇場版。監督の水島努や脚本の横手美智子など、TV版のスタッフが再集結。
 声優陣も、あおい役の木村珠莉、絵麻役の佳村はるか、しずか役の千菅春香、美沙役の髙野麻美、みどり役の大和田仁美、丸川役の高木渉、渡辺役の松風雅也、木下役の檜山修之、円役の斎藤寛仁、山田役の浜田賢二、矢野役の山岡ゆり、佐藤役の米澤円、安藤役の葉山いくみ、遠藤役の松本忍など、TV版のレギュラー陣が再集結している。他に、楓の声を佐倉綾音、高橋を田丸篤志、三崎を鈴村健一が担当している。

 TVシリーズで食べ残した要素があっての続編ではなくて、物語は綺麗に完結していた。今回は「あれから4年後」を描く後日談となっている。TVシリーズでは、落ち目の会社だったムサニが目の前の仕事に頑張って取り組み、復調していく様子が描かれていた。
 しかし今回の劇場版ではスタッフがゴッソリと抜け、元請けが出来ないぐらい落ちぶれている。それに伴い、映画は重くて暗い雰囲気で始まっている。しかもムサニの調子が悪いだけでなく、「アニメバブルが弾けて本数が減り、ブルーレイの売り上げが落ちている」とラジオDJに説明させて、アニメ業界が全体的に活気を失っていることが示されている。

 映画版として、仕切り直して「改めて最初から物語を作る」という形になっているので、「ダメな状況から頑張って上がっていく」という物語を描きたいのは良く分かるし、それが物語を構築する上で常套手段であることも理解できる。
 「みんな成功してムサニもウハウハ」みたいに順風満帆なトコから話をスタートさせるよりも、遥かにドラマを作りやすいしね。ただ、TVシリーズに感動した人間としては、「せっかく全員が頑張って良くなったのに、また落ちたのか」と寂しく感じるのは事実だ。

 冒頭でロロとミムジーを登場させ、4分ほどを使って「こんなことがありまして」とザックリとTV版の復習をしている。しかし、これは全く意味が無いと言い切ってしまっていいだろう。
 どうせTV版を知らない状態で劇場版を見る人はほとんどいないだろうから、そこは基本的に無視しちゃっても構わない。それに、どうせTV版を見ていない人にとって、冒頭部分の「おさらい」は何の役にも立たないのだ。なので、いきなり4年後から始めた方がいい。

 ムサニは落ちぶれているしアニメ業界も元気を失っているが、TVシリーズの全ての登場人物がダメになっているわけではない。順調に仕事をしている人物も、大活躍して注目を集めている人物もいる。ただし、そういう面々は「こんな人もいる」という程度の扱いになっており、スポットが当てられるのは「落ちている人々」だ。
 もちろんTVシリーズと同じくドーナツ5人娘がメインになるわけだが、この面々は全員が悩みを抱えている設定だ。この内、ハッキリとした形で仕事が上手く行っていないのは、ムサニに残ったあおいだけ。他の面々は順調に仕事が入って来ているが、その中で悩みがあるという状態にある。

 もちろん、それぞれの人物は悩みと向き合い、解決に至る。具体的に言うと、あおいは「ムサニが落ちぶれて悪循環に陥っている」という悩みがあるが、劇場映画を手掛けることで状況の好転を目指す。しずかはタレント活動が増えて悩むが、志願したオーディションで声優の仕事に改めて向き合う。
 絵麻は原画の評価が悪くて自信を失い、美沙は奥戸の能力を見抜くことが出来ずに落ち込むが、子供アニメ教室に参加して前向きな気持ちを取り戻す。こうやって列挙すると、みどりの「悩みからの解放」の手順は他の4人より弱いかな。

 あおいが『SIVA』を作ることを決意すると、ミュージカルシーンに入る。ここを「やけに長いな」と感じる人もいるようだが、その気持ちは分からなくもない。そもそもミュージカルシーンが必要なのかという是非論は置いておくとしても、まあ普通に考えりゃ長いよね。ただ、ここは「TVシリーズを見ていた人へのサービス」みたいな狙いもあるんじゃないかな。
 と言うのも、TVシリーズでムサニの面々が手掛けた作品のキャラクターが次々に登場するんだよね。あと、「アニメーションを作りましょう」と歌うのは、「辛いこともあるけど、みんな頑張ろうね」というエールもあるのかなと。製作サイドが意図していたかどうかは分からないけど、勝手に京アニ放火事件と結び付けて、涙腺が刺激されちゃったなあ。

 『SIVA』の製作に取り掛かってからの展開は、その多くが「TVシリーズを見ていたファンのための時間」になっていると言ってもいい。どういうことかと言うと、「TVシリーズでムサニの作品に関わっていた面々が次々に参加する」という様子が描かれるのだ。ちょっとした同窓会みたいな雰囲気もあるし、「あのキャラクターも再登場してくれた」ってことで、TVシリーズのファンは喜べるんじゃないだろうか。
 ただし皮肉なことに、「かつてのメンバーが再集結」という部分を重視した弊害で、本来ならスポットを当てられるべき楓の存在感が皆無と化している。こんなことなら、いっそ出さなくても良かったんじゃないかと思うぐらいだ。いかにも「これからあおいと組んで仕事を進め、大きく扱われます」って感じで登場したのに、その後は「いてもいなくても」の存在になるのよね。「げ~ぺ~う~」にあおいが乗り込む時は同行するけど、「そこで急に存在をアピールされても」と思っちゃうわ。

 TVシリーズにも増して、この映画はアニメーションに携わる人々、いや、それだけでなく「何かを作ろうとする全ての人々」に対するメッセージが幾つも出てくる。
 例えば、平川はあおいに「めんどくさいこととか、腹立つこととか、色々あるけど、やりいたことがあるなら、とにかく何かジタバタしないとな。そうしないことには何も始まらないし、何も変わらない」と助言する。

 なぜアニメを作るのか問われたあおいが「それは、アニメが好きで、アニメを作る人が好きだから」と答えると、丸川は「好きだから、で作るのは尊いことだ。だけど、それだけじゃダメだ。自分は何を作りたいのか、作ることでどうしたいのか。それが無いと、遅かれ早かれ挫折する」と語る。
 まりはしずかに、「事務所も声優も夫婦みたいモンだからね。相手は気の利かない旦那だと思わないと。ただ夫婦と違うのは、しずかは自分の決定に責任を持たなきゃいけないってこと。失敗も成功もね。その自信と覚悟があるなら、やんなさい」と話す。
 自分の置かれている状況や職種にもよるだろうけど、それらの台詞が心に突き刺さる人もいるだろう。

 TVシリーズは「あたかもリアリティー」を上手く構築できていた。ポイントは、あくまでも「あたかも」であり、本当の意味でリアルなアニメ業界を描いているわけではないってことだ。
 実際のアニメ業界は、そんなに甘くはないだろう。もっと困難は多いだろうし、もっとドロドロしている出来事もあるだろう。「みんなの努力や協力でトラブルを乗り越える」ということが繰り返されていたが、そんなのは綺麗事に過ぎないはずだ。

 だが、『SHIROBAKO』は現実の厳しさを視聴者に叩き込もうとする作品じゃなく、「辛いこともあるけど、みんなで夢に向かって頑張っていこうぜ」という作品だ。また、アニメーションに携わる人々、アニメーションを愛する人々に向けた応援歌のような意味合いもある作品なのだ。
 この劇場版にしても、きっと実際に同様の案件があったら、こんなに簡単に事は運ばないだろう。でも、そこに「マジなリアル」なんてモノは要らないのだ。例えファンタジーであっても、希望のある前向きな答えを用意しているのは大正解だ。

(観賞日:2021年5月26日)

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