『女囚さそり 第41雑居房』:1972、日本
女囚の松島ナミは、彼女に恨みを抱く刑務所の所長の郷田によって1年間も地下牢に閉じ込められていた。しかし法務省から巡閲官が来るため、一日だけ出されることになった。
地下牢に現れた郷田は、「東京管区長に迎えられたので、間もなく、ここを去る」と得意げに言う。彼は部下の沖崎たちに放水させ、ナミの髪を掴んで「必ず狂わせてやる。狂え、狂え」と言い放った。
巡閲官は能天気な笑顔を浮かべ、女囚たちに声を掛けた。そこへ連行されてきたナミは、郷田に向かって凶器を突き出した。しかし、凶器はサングラスを突き刺しただけに終わった。
女囚のリーダー格である大場ひでが「こっちはもっと暴れてやるわい」と言うと、女囚たちは巡閲官のズボンを脱がして騒いだ。刑務官たちは威嚇射撃で鎮圧し、郷田は全員に懲罰を与えることを決定した。
郷田は女囚たちを石切場へ連れて行き、石を運ぶ重労働を命じた。刑務官の沖崎や古谷たちは、ナミを木に磔にすると、ドーベルマンを周囲に配置して吠えさせた。
そこへ郷田が現れ、「あれではダメだ。さそりの名が女囚たちの犯行の合言葉にされかねない」と告げる。彼は「今日は女囚たちの前でマツを徹底的に辱める」と言うと、刑務官の辻たち4名を呼び寄せた。辻たちはストッキングで顔を隠し、ナミを輪姦して女囚たちに見せ付けた。
ナミは女囚の大場、安木富子、我妻春江、野田朝子、都ローズ、及川君代と共にトラックの荷台に乗せられ、刑務所へ移送された。その途中、都は体を震わせ、ナミの傷を拭こうとした。すると大場たちが立ち上がり、「お前なんか死ねばいいんだ」と罵りながらナミを激しく蹴り付けた。ナミが動かなくなったので、都は「さそりが死んじまったよ」と大声で泣き喚いた。
運転していた辻がトラックを停め、荷台に上がった。するとナミは目を見開き、手錠の鎖を使って辻を絞め殺した。大場は相棒の刑務官からライフルを奪い、射殺した。
ナミは大場たちと共に逃亡し、砂漠や砂利の山を移動した。廃村で野良犬を見つけた大場たちは棒で叩き殺し、廃屋で焼いて貪り食った。そんな大場を、ナミは冷たい視線で凝視した。
大場は「どうせあたしゃ人間のツラしてねえよ。あたしゃ獣だよ。テメエの腹痛めたガキを2人までこの手で殺してるんだ」と言い放ち、狂ったように笑った。その時、廃屋の外から、呻くような不気味な声が聞こえてきた。
ナミたちが外に出ると、壊れた家の中に座り込んでいる一人の老婆がいた。老婆は包丁を両手で握り締めて正座し、「倅を返せ」とブツブツと呟いていた。
大場は惚れた亭主の浮気憎さに、自分の幼児と胎児を殺害していた。及川は連れ子いびりの若い情夫の首を絞めた。我妻は不倫相手の女房を毒殺した。安木は男を渡り歩いた果てに刃傷沙汰になった。野田は人の幸せを妬んで放火に狂った。都は自分を陵辱した父親を殺した。
ナミたちは廃村を出て、森に入った。森の中で老婆は倒れ、「呪ってやる、殺してやる」と言いながらナミに包丁を差し出した。ナミは包丁を受け取り、大場たちと共にイカダで川を下った。
町を発見したナミたちは、夜になるまで山小屋で隠れることにした。及川は息子のカズオに会いたい一心で、小屋から抜け出した。しかし実家には刑務官の沖崎と田所が待ち受けており、ナミたちの居場所を吐くよう要求した。
沖崎は本部への連絡に行き、田所に及川の尾行を命じた。しかしナミは尾行を察知し、田所に包丁を突き付けて小屋に連れ込んだ。田所は大場のライフルを掴み、我妻が腹を撃たれて重傷を負った。大場は田所を撃ち殺した。
山小屋を出たナミたちは、嵐に見舞われた。洞穴で雨宿りをしている最中、我妻は死んだ。翌朝、空は晴れ上がった。バスで観光に来た団体客は、警官から女囚が逃げたことを聞かされた。若い男たちは「女囚なら飢えとるぞ」とニヤニヤ笑い、バスガイドの体をベタベタと触った。
都が渓流で小便をして戻ろうとすると、その若い男たち3人が酒盛りをしていた。男たちは都を捕まえて輪姦し、溺死させた。3人は死体を捨てて逃げようとするが、ナミたちに捕まった。
女囚たちは観光バスを乗っ取り、街道を走らせた。だが、トンネルを抜けたところで、郷田たちの検問が待ち受けていた。大場はナミをバスから突き落とし、囮にした。刑務官たちがナミを捕まえ、白バイ2台がバスを追跡した。
バスの行く手にはトラックが道を塞いでおり、その荷台には及川の両親と息子が人質として乗せられていた。バスを飛び出した及川は出刃包丁を振り回して暴れ、銃撃を受けて死んだ。大場は逃げようとする運転手を刺し殺し、バスのハンドルを握って強硬突破した。
大場たちはバスで倉庫に突っ込み、そこに立て篭もった。郷田はナミに、倉庫の中を探るよう命じた。ナミが倉庫に足を向けると、大場はライフルを構えて睨み付けた。倉庫から戻ったナミは、「どうだった、人質の様子は」と郷田に訊かれ、「死んでるよ」と答えた。
警官隊が突入し、大場の弾丸は尽きた。大場は重傷を負い、他の女囚たちは死んだ。郷田は沖山と古谷に、ナミと大場を護送するよう告げた。そして彼は、ナミが逃走を図ったように偽装し、始末しろと命じた…。
監督は伊藤俊也、原作は篠原とおる、脚本は松田寛夫&神波史男&伊藤俊也、企画は吉峰甲子夫、撮影は清水政郎、編集は田中修、録音は広上益弘、照明は桑名史郎、美術は桑名忠之、擬斗は日尾孝司、音楽は菊池俊輔、主題歌「怨み節」は梶芽衣子。
出演は梶芽衣子、白石加代子、賀川雪絵、八並映子、伊佐山ひろ子、石井くに子、荒砂ゆき、渡辺文雄、小松方正、戸浦六宏、室田日出男、佐藤京一、堀田真三、田中筆子、長谷川弘、小林稔侍、三重街恒二、久地明、笠原玲子、伊丹さかえ、伊達弘、阿藤快、高月忠、山之内修、小出隆之、近衛秀子、須永かつ代、相馬剛三、山田甲一、園かおる、山本緑、小甲登枝恵、竹村清女、愛田ジュン、渡辺ゆき、谷本小夜子、八百原寿子、名達ますみ、佐川二郎、山浦栄、林宏、宮地謙吾、岩井松二郎、五野上力、木村修、横山繁、三浦忍ら。
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篠原とおるの漫画『さそり』を基にしたシリーズ第2作。
ナミ役の梶芽衣子、郷田役の渡辺文雄、沖崎役の室田日出男、古谷役の堀田真三は、前作からの続投。
大場を白石加代子、安木を賀川雪絵、我妻を八並映子、野田を伊佐山ひろ子、都を石井くに子、及川を荒砂ゆき、辻を小松方正、巡閲官を戸浦六宏、田所を佐藤京一が演じている。前作で人質にされる刑務官を演じていた小林稔侍が、今回は都を強姦する観光客の一人として出演している。
冒頭、「さそり~」「さそり~」「さそり~」と怨霊か何かが呼ぶような声がして、地下の独房へとカメラが入っていく。ただし、前作でナミが「さそり」と呼ばれたことは一度も無い。
しかし今回、ナミが地下牢から連行されてくると、女囚たちが「松島ナミだよ。言って分からなきゃ、さそりだよ」「ああ、あれがさそり」などと言っており、郷田たちも当たり前のようにナミのことを「さそり」として認識している。いつの間にか、「さそり」という異名がナミに付けられたらしい。
そんな「女囚さそり」こと松島ナミは、冷たく湿っぽい地下牢で手足を拘束されながらも、スプーンを口にくわえ、石の床で削って凶器を作っている。
そこへ郷田や沖崎たちが現れてナミを見下ろすと、それをカメラは斜めのアングルで捉える。沖崎たちが強烈な放水をナミに浴びせると、ブルーのライティングにして、スローモーションで見せるというサディスティックな演出になる。
巡閲官がナミに近寄ると、郷田は気を付けるよう警告しつつも、「噛み付く余力は残っていないか」と笑う。その時、ナミは両足ジャンプで郷田に飛び込み、前作で隻眼になっている彼の目に凶器を突き刺そうとする。
それは失敗に終わるが、ビビった巡閲官は腰が抜けて小便を漏らす。すると女囚たちはジンタの演奏を始め、「さそりがなんじゃい、こっちはもっと暴れてやるわい」という大場の号令で、巡閲官のズボンを脱がせる。
女囚たちは草履を一斉に空に投げ、それが一瞬だけ警帽に変わり、それを狙って撃つかのような刑務官の一斉射撃。そして女囚たちか取り押さえられるのだが、その様子を自分たちで静止してストップモーション映像に見せている。
石切場の作業では、なぜか女囚たちがポンチョを着ている。ナミだけは木に磔にされてドーベルマンに吠えられていて、そこに現れた郷田が「あれではダメだ」と言うのだが、そりゃあ当然だろう。磔で犬に吠えさせているだけでは、何の懲罰にもならんわな。それより、他の女囚と同じように、石を運ばせた方が遥かに苦しいだろう。
で、郷田はエスキモーみたいな服を着た刑務官4人を呼び寄せて輪姦させるが、ナミの前で「これも職務だ」と言っているし、正体はバレバレだし、パンストで顔を隠す意味が無いぞ。
トラックで運ばれる途中、ナミは辻を殺害して脱走する。事件現場に郷田たちが行くとトラックは燃やされており、辻は裸にされて、股間に太い木を突き刺されて放置されている。
殺した野良犬を貪り食っている姿をナミが見つめていると、大場は「どうせあたしゃ人間のツラしてねえよ」と怒鳴るが、誰もそんなことは言っていない。ただし、確かに妖怪じみたツラをしているけれど。
廃屋の外から声が聞こえて、行ってみると、一軒の家の屋根と壁が崩れて、その中でブツブツ言っている老婆の姿が現われる。そこから場面が切り替わると、なぜか廃屋でナミが二つに割った竹を打ち鳴らし、その後ろでは我妻(?)が男と裸で抱き合っている。また場面が切り替わり、今度は6本の火が画面前方に出現し、「男に狂う女のサガか」という浪曲が始まる。
ベンベンという三味線に乗せて浪曲が語られる中、女囚たちが白装束で正座し、その背後に老婆がいるという、前衛劇のようななシーンになる。そこからは浪曲によって、それぞれの女囚が犯した罪が語られていく。ナミの番になると、彼女は竹を割る。そして何やら竹細工を作っている。
正直、何が何やらワケが分からない。今回の方がアングラ風味がかなり増しており、キチガイぶりも大幅にアップしている。エログロとしては前作の方が上だろうが、カルト映画、サイケな映画としては、今回の方が遥かに上だろう。
老婆は森の中で倒れ、「呪ってやる、殺してやる」と言いながら包丁を差し出す。ナミが包丁を受け取ると老婆は死亡し、突風が吹く。すると老婆の体は紅葉に覆われ、それが風に飛ばされると、彼女の姿は消えている。決して特撮ヒーロー物の怪人ではない。
で、どこで手に入れたのか分からないが、女囚たちはイカダで川を移動する。我妻は「男に会える」と浮かれ、一升瓶を持って「一人で見るのがよかチンチン、フリフリ見るのもよかチンチン。見れば見るほどよかチンチン」などと調子良く歌う。
実家に戻った及川を、沖崎たちが待ち受けている。及川がナミたちの居場所を吐かずに口をつぐんでいると、怒った沖崎は及川の幼い子供を投げ付けるという荒っぽさを見せる。
刑務官だけでなく、一般人の男もクズ野郎で、都は観光客3人に輪姦されて溺死させられる。都の死体が川に捨てられると、その途端、滝を流れる水が真っ赤になり、彼女が死んだことをナミたちに知らせる印になる。
女囚たちは観光バスを乗っ取り、街道を走らせる。ただ、都を殺した3人はともかく、巻き込まれた他の客やバスガイドはいい迷惑だ。大場は「お客さんたちは、あたしたちとは人種が違うってツラしてやがる。その上品ぶったツラをひんむいてやろうじゃないか」と言い、いきなり若い女たちを捕まえて服を破り、裸にしている。
前作では反体制や反権力というテーマを持ち込んでいたが、少なくとも今回の女囚たちは、体制や権力と戦う闘士ではなく、同情されるような存在でもなく、ただのキチガイの無法者だ。
バスがトンネルに入ると、真っ暗闇の中で囚人服の面々がうごめくイメージ映像が挿入される。大場の命令でバンザイさせられている観光客が闇に消えると、女囚たちが手錠を掛けられてシュンとなっている映像が入る。バスのセットがパカッと割れて傍聴人席に変わり、さっきまで観光客だった連中が「あいつらみんな死刑だよ」などと喋っている。
続いて、ドロドロした太鼓の音が鳴り響くと、大場が白装束で切腹する。そして観光客が漁師たちになって女囚に網を投げ、棒で殴り付ける。大場が立ち上がるとナミの姿になり、彼女は包丁で網を破って勇ましく見得を切る。ここまでが、トンネル内での前衛演劇チックなシーンだ。
郷田に捕まったナミは、大場たちが立て篭もった倉庫を探るよう命じられる。ナミが倉庫に行くと、大場はライフルを構えて睨み付ける。クールに凝視したナミは、立ち去ろうとして振り返り、「私を売ったね」と告げる。このセリフ、本作品が始まってから、ナミが喋った最初の言葉だ。
前作でも口数が少なかったナミだが、今回は寡黙ぶりがさらにエスカレートしており、そこまでは、ずっと無言だった。もう終盤に来て、ようやくナミは喋るのだ。そして、「どうだった、人質の様子は」と郷田に訊かれて「死んでるよ」と言い、これで全てのセリフが終了。なんと全編でわずか二言しか喋らないのだ。
ナミが護送の途中で始末されそうになった時、重傷の大場が最後の力を振り絞って古谷に襲い掛かる。ナミがゴミの山に運ぶと、大場は瀕死の状態でも、まだ「島へ帰って村中に火を付けてやる。あたしを白い目で見た奴を、どいつもこいつも火達磨だ」と、最後まで恨みを口にしている。
狂った死に顔も素晴らしい。この映画を引っ張っているのは、間違いなく白石加代子の圧倒的な存在感だ。
終盤、ナミは前回と同じく黒いトンガリ帽子に黒いコートという「さそりルック」に身を包み、東京矯正管区長になった郷田の命を狙う。どうやったのか分からないが、走っている車のフロントミラーに向かって、吊り下げた警官人形を突入させる。で、慌てて郷田が車を停めると、並木道の向こうにナミが立っている。そしてコマ落としによって、並木の間隔ごとにワープして接近する。
郷田を襲ったナミが包丁で道路で袈裟に切ると、画面が切断される。そして場面が切り替わり、郷田は新宿副都心を逃げている。さっきまで千代田区にいたはずなのに、ワープしたのか。もしくは、そこまで延々と追いかけっこが続いたのか。
で、ようやく刺し殺して郷田の義眼が落ちる。その義眼がアップになると笑顔のナミが写り、彼女が囚人服に変身。で、他の女囚たちと共に町を走り出し、包丁をバトンのようにリレーする。女囚の数が増え、みんなでマラソンして映画は終わる。見事なぐらいキテレツだね。
(観賞日:2010年8月7日)