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読書【鳥と港】”好き”を仕事に。

“これから”の働きかたの物語
大学院を卒業後、新卒で入社した会社を春指みなとは九ヶ月で辞めた。所属していた総務二課は、社員の意識向上と企業風土の改善を標榜していたが、朝礼で発表された社員の「気づき」を文字に起こし、社員の意識調査のアンケートを「正の字」で集計するという日々の仕事は、不要で無意味に感じられた。
部署の飲み会、上司への気遣い、上辺だけの人間関係──あらゆることに限界が来たとき、職場のトイレから出られなくなったのだ。
退職からひと月経っても次の仕事を探せないでいる中、みなとは立ち寄った公園の草むらに埋もれた郵便箱を見つける。中には、手紙が一通入っていた。
「この手紙を手に取った人へ」──その手紙に返事を書いたことがきっかけで、みなとと高校2年生の森本飛鳥の「郵便箱」を介した文通が始まった。
無職のみなとと不登校の飛鳥。それぞれの事情を話しながら「文通」を「仕事」にすることを考えついたふたりは、クラウドファンディングに挑戦する。

小学館 作品紹介ページ より

新聞の書評欄が好き

日曜日に掲載される地元新聞の書評欄が大好きです。
コーヒー飲みながら、鼻歌うたいながら読みます。
この本はそんな書評が導いてくれたもの。

書評家は「大鳥若馬」さん。
誰だか存じ上げず申し訳ないのですが、文体の根底には「人間讃歌」があるのでは? と思わせる暖かみが感じられました。

「ギタリストのピークはギターを初めて弾いて感動した瞬間」
という名言を交え、末尾には
「しんどさを感じたことがあるというあなたへ、この物語を贈りたい」
と殺し文句がピタッとはまってイチコロの書評になりました。 

好きを仕事に

過去を振り返ってみますと、大学3回生の終わりごろから始まった就職活動で、突然、まわりの友人達が

  • 「地元に帰るから銀行一択だな」

  • 「給料の高い業界だけ狙っている」

  • 「海外勤務できる会社に行きたいな」

なんて言い出して、「え? いつの間に決めてたの?」と私は置いてけぼり状態(単に私が遅いだけなんですけどね)。
遅れを取り戻そうと、自己分析系の本を買って、目指す業界を決めようとしていました。

そして、

  • 友達からあなたの長所と短所を聞いてみよう

  • これまででどんな挫折を味わったか書こう

  • こどものときに夢中になってやったのはなに?

なんてことを深堀りしていった記憶がありますが、分析を重ねてみても、これだ! っていう適職が出てこない。

そんな悩める私に、
「好きなことを仕事にすればいいんだよ」
って言う人もいたり、
「好きなことは余暇にやるのが一番だよ」
って言う人もいたり。

いろんなことを言われましたが、そもそも「好きなこと」がわからない私。。。

幸いにも、この本の主人公たちは自分の「好き」なことがわかっていて、何よりすごいのは、その「好き」を仕事にしてみたこと。

ただ、理想的だったはずの働き方が、どんどんと現実に侵され、苦悩に直面していきます。

「好きなことを仕事にしているはずなのに」、ね。

さて、ここから二人はどうするか? 

文通を仕事にするだけあって、言葉を武器にできる主人公たち。心の中に潜む葛藤や悩みを素直な言葉で言語化し、行動に移していきます。この言葉のやり取りが本当に気持ちいい。

そして、小説のベースである「文通屋」というビジネスも、クラウドファンディングをはじめ、プラットフォーム化等いろいろとアイデアが散りばめられていて、小説としての骨格を強固なものにしています。

「会社、燃えてないかな」と毎朝思うほど、会社勤めに疲れ果てていた主人公が、最後に出会えた心境とは?

春でも夏でも秋でも冬でも、この本を読んだその瞬間の最も心地よいだろう風が、ふわっと気持ちよくあなたのそばを横切るような、そんな素敵な読後感をぜひどうぞ。


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黄昏おじさん@副業中|簿記英検勉強中
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