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【創作】厳しい係長

 大沼係長は今日も部下に厳しい。8時半過ぎに職場に電話してきた係員 加藤への叱責の声が飛ぶ。
 定時に出社していない加藤からの電話ということで取り継いだ渡辺はもちろん、周囲の者も「加藤から遅刻の連絡」ということを察していたが、大沼の第一声で確信に変わった。
「遅刻して、すいませんですって。加藤さん、何を言ってるんですか」
受話器の先で更に謝罪しようとする加藤をピシッと遮るように大沼が続けた。
「私、昨日言いましたよね。お子さんの体調が悪くて早退するなら、明日の朝は無理に出勤しなくて良いと。休暇を取得して子どもの側に居た方が良いと思うと伝えましたよね。なのに何故「遅刻した」なんて謝るんですか。そんな謝罪は要りません、撤回してください。
 その上で確認しますが「休暇」ではなく「遅刻」とはどういうことですか」
  大沼は空いていた右手で珈琲カップを口に寄せた。
「えっ、午前のうちに夜勤明けの妻(看護師)が帰宅するから、午後は子どもを預けるですか。

 加藤さん、あなた、何を言ってるんですか!
 ふざけるのもいい加減にしてください。そんなことで『わかりました』なんて言えないですよ。
 夜勤明けの奥さんを休ませず、病気の子どものケアをさせるなんて話は聞きたくないです。
 とは言え、家庭の話に口出しする権限は有りませんので、そこは加藤家の判断を尊重します。私は仕事だけの交流ですから、仕事についてお伺いします。

 本日中に処理すべき案件は何かありますか?

 その程度の話、今日問い合わせが来るかもぐらいの話なら、加藤さんは出社不要です。その件も明日以降で問題無しです。なので加藤さんが午後から出社する必然性はありません。

 わかっていただけないようだからハッキリ言いますが、加藤さんが居なくても職場は回ります。回すために私がいます。けど、加藤家はあなたが居ないと壊れるかもです。
 不信感というヒビを修復するのは難しいです。ヒビを入れないことが大事です。
 だから、加藤さんの遅刻届は私のところで保留します。奥さんが帰宅してから、相談をして今日の進行を決めてください。加藤さんの独断専攻は認めないです。
 ま、私には休暇取得に対する権限はないので、ここまでの話は、独り言です。
 午前中には来れないことは承知しました。午後をどうするかは、決まったら教えてください」
   大沼は静かに受話器を置き、周囲にお触れを出した。
「加藤さん、とりあえず午前は休暇。午後は未定だけど、来たら私は叱責するからね。
 夜勤明けの奥さんに病気の子どもを預けるなんて、非道なことは皆さんはやらないでください。
 仕事のための家庭じゃなく、家庭を幸せにするために仕事してる、ということはブレずにいきましょう」

  パンッと、大沼が柏手を一つ入れ、全員が仕事モードに入った。机上に置かれたPCのキーボードを叩きながら森島は考えた。
「大沼係長はそんなヌルいことばかり言うから出世できないんですよ。世渡り下手なバカなオッさんだ。俺はそうならないけどね」
 
 昼休みに加藤の電話を受けた大沼が、受話器を置いた後
「加藤さんの奥さんが残業になったため、加藤さんは午後も出社できない。皆さんでフォローをお願いします。何かあれば私が対応します」
と語った時の大沼の満ち足りた表情を、森島は羨ましい気持ちを否定できず、自分もかく在りたいと憧れた。
(本文ここまで)
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 大沼係長が主役の物語はこちら

こちらは、チョイ役です。



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福島太郎
サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。 また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。  皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。

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