No.066 ミステリクイズ


問題文

昼休み、私はAを空き教室で待っている。
春休みが終わってもう2週間になるが、私はまだ春休みボケなのか、心はどこか引き締まらず浮ついている。

今朝、後輩のAから緊急で相談したことがあると連絡があった。
なるべく会って話をしたいとも。
腕時計を見ると、約束の時間2分前。
その時、Aとそれから知らない生徒が入って来た。
その生徒は小柄で顔立ちも良いが気が弱そうで飾り気がない。
制服はきちんと整っており、アクセサリーは右手首の腕時計のみ。
陽キャで典型的なギャルの A とは正反対の印象だ。

(A)「お待たせしました~、先輩。待ちましたか?」
(私)「今来たところ。それで、相談って? それから、その子は誰?」
(B)「はじめまして。2年の B です。よろしくお願いします」
(A)「B はクラスメイトっす、それと相談も B についてなんです…」

A は相談内容を話し始めた。
今朝、B の机の中に脅迫状が入っていた。
しかも、脅迫状は今回が一度目ではなく3度目。
先週の水曜日が一回目、2度目は今週の月曜日、そして3度目が今日、同じ週の金曜日だった。

(B)「これが今日、置いてあった脅迫状です」

B はポケットから2つ折りにされた紙を机の上に取り出した。
私は中身を見る。
『C と今すぐ別れろ。さもなくば痛い目を見るぞ』
真っ白な紙に短い文章が横書きで書かれている。
文章は強い筆圧で、ボールペンか何かで書かれていた。
注意深く観察したが、汚れや擦れなど、他の手がかりは見て取れなかった。

(私)「他の脅迫状は?」
(B)「私、怖くて…持っているのが嫌で捨てました…すいません…」
(私)「この C って彼氏?」
(B)「ち、違います。彼氏じゃないです。ただの幼馴染です」
(A)「あれで付き合ってないの⁉ 私、てっきりやる事やってると…」

Bの顔がみるみる赤くなる。

(B)「変なこと言わないで!」
(A)「ごめん。そんな怒らんでよ。ほんとごめんって。ああ、そういえば係の仕事あるんじゃなかった? そろそろ時間じゃない?」

Bは腕時計を確認する。
そして椅子から立ち上がり、私に、『どうかよろしくお願いします』と頭を下げて出ていった。

(私)「あんた、私のことなんて伝えたのよ?」
(A)「そりゃ、先輩。ありのままの事実を伝えましたよ。先輩が数々の難事件を…」
(私)「もういい、もういい。でも意外、BはAとは正反対って感じだけど」
(A)「席が隣だったんですよ。それで時々話すようになって」
(私)「Cって生徒はどんな感じなの?」
(A)「ありゃ、罪な男ですよ。イケメンで高身長、スポーツ万能、それでいて誰かれなく優しい。モテないわけがありません」
(私)「だから、最近 、教室でB と C がよろしくしていて、正直おもしろくない」
(A)「そう思う人もいるかもですね」
(私)「Aの推理を聞かせて?」
(A)「その前に、これを見てください」

Aは私にスマホを見せる。
そこには学級日誌の1ページの写真が映されている。
担当欄にはBの名前があり、日付は先週の月曜日だった。
だがそれよりも私が一番気になったのは、その筆跡だ。

(私)「脅迫状の筆跡と似ている…」
(A)「似ているどころじゃありません。この特徴的な ”る” や "す"、”ぞ” の形はまるっきり一緒です。」
(私)「なるほど、そういうことか」
(A)「はい。そうなんです。私、どうしたらいいか分からなくて」
(私)「それは決まってる。まだ時間もあるし、今すぐ教室へ行ってけりをつけよう」
(A)「い、今すぐですか?」
(私)「だって私、受験生だし。放課後、塾あるから時間ないし。歩きながら話そう」
(A)「でも B は係で教室にはいませんよ?」
(私)「ん?」
(A)「ん?」

さて、Aの推理では真相な何でしょうか?
また、私の推理では真相な何でしょうか?
(Aの推理と私の推理は異なります。)








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ヒント

Bの利き手はおよそどちらでしょうか?
脅迫状には、よごれや擦れなどは一切ありませんでした。


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解説

Aの推理では、”脅迫状はBの自作自演である” と考えています。
根拠としては、脅迫状のいくつかの文字とBの筆跡が酷似していることが挙げられます。
およそ B は偽の脅迫状で誰かの気を引こうとしているというのが、Aの考えです。

私の推理では、まず B の自作自演だとは考えておりません。
理由としては、脅迫状に汚れや擦れなどが見て取れなかったことが挙げられます。
B は右手に腕時計をしており、およそ左利きであると考えれます。
左利きが横書きの文章を書く時、多少なりとも文字が擦れて紙が汚れてしまいます。
しかし、脅迫状にはそのような擦れや汚れは一切ありませんでした。
もちろん、注意を払って擦れなどが付かないように書けばよいですが、そこまで注意深い犯人であるのならば、筆跡からバレることに注意が向かなかったのは納得いきません。(そもそも手書きではなくワープロで書けばよいだけです)
つまり、犯人は右利きであり、Bの筆跡を真似して脅迫状を書いたと考えられます。

では、次に犯人は誰なのか?
犯人は右利き
かつ、犯人は被害者の筆跡を知っている人物
かつ、犯人は被害者に恨みを持つ人物

被害者に恨みを持つ人物からおよそクラスの誰かであると思われます
脅迫状が B の机の中に入っていたのも犯人がクラスの誰かである可能性を示唆しています。もし犯人がクラス外の人物なら机の中でなくとも、Bの下駄箱にでも入れた方がリスクは小さいです)。
一方で右利きから犯人を絞り込むのは困難です。
残ったヒントは犯人は B の筆跡を知っている人物です。

犯人は B の筆跡を知る必要があります。
犯人はどこで知りえたのでしょうか?
可能性として高いのが、学級日誌です。

犯人は学級日誌を見て、Bが特徴的な筆跡をしているのを知り、今回の犯行を思いついた。
学級日誌を見れるのは、担任と日直に限られます。
担任は除外するとして、犯人はBが日直をやった後に日直になった人物かつ初めて脅迫状が送られる前に日直をしていた人物となります
(日直当番が一週回っていれば誰でもBの筆跡を知ることができたのではないかと考えることもできますが、まだ春休みが終わり、新学期が始まって2週間しか経っていないので、少人数クラスでない限り日直当番がすでに一周回ったとは考えにくいです)。

Bが日直をやったのが先週の月曜日
最初の脅迫状があったのが先週の水曜日の朝
犯人は先週の火曜日に日直だった人物
の可能性が高いです。
(先週の水曜日に日直だった人物は時間的制約上、犯人である可能性は低いです。水曜日の朝に学級日誌を受け取り、Bのページを見て犯行を思いつき、すぐにBの筆跡を真似て脅迫状を書いてBの机の中に入れる。これらをBが教室に来る前にやらなければなりません。かなり時間的にぎりぎりになりますし、それなら後日やればよいです)

以上が私の推理でした。

ただここまでの推理は、どれも状況証拠ばかりであり、確証はありません。つまり、私の推理が間違っている可能性も往々にしてあり得ます。

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