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詩|ひめさまのおみやげ

あの姫は
受け取れないものばかり持ってくる
ヘビの抜け殻とか蝉の死骸とか
姫がここにこう置くたびに
女房たちが悲鳴をあげておる

姫が庭に座り込んでおるので
何を熱心に見ておるものかと寄ってみれば
みみずやらダンゴムシやら
あのような蝶やてんとう虫には目もくれぬ
あの様子では美しい歌を詠むことなぞとんと期待できぬ

姫さまがいらっしゃると局がぱっと明るくなりますの
元気なお声やお姿を見ているとまるでわたくしもお庭を走り回っているような気持ちがいたします
なによりもそんな気持ちになりますのは姫さまがおみやげをわたくしに手渡してくださってお礼を申し上げたときにお顔を拝見した時ですの
わたくし、ほんとうに嬉しい嬉しい思いがいたします
姫さまがおみやげのご説明をされるときのご様子もとても好きですの
どちらの場所でどのようにお探しになられたのか、とてもお詳しくお話しいただけるの
だからまるでわたくしもその場で見つけた時のような気持ちになりますわ
今日お持ちいただいたのはまるまるの御屋敷のまるまる門とまるまる門の間の壁の下のところに咲いておりましたお花だそうなの
だけど、なにゆえそのようなところにいらしたのかどうかは内緒なんだそうですの
危のうございますからお気をつけくださいと申し上げますと少しお困りのご様子でしたけど、小丸の方を見たあとこちらにお笑いになられたときにはもうお忘れのご様子でした
姫さまがお帰りになられた後お渡しいただいた時から少し草臥れていた黄色いお花をお歌の紙に挟んで豆やら石やらの入った文箱を重しに致そうかと思いましたけど、やめましたの
お水にさして飾ることにいたしました
いく日ももたないと思いましたけれど朝に眺め、夜に眺めして、もしも姫さまがいらしたときにまだ咲いていたら
姫さまはそれを見たらきっとびっくりなさってどんな事をおっしゃるかしら
三於はきっとまたお持ちくださるんじゃないかって
わたくしは、姫さまはどんな顔をなさるのかなって思いながら
お花を眺めておりますの
そういたしますと
駆けてこられた姫さまの笑顔が思い起こされて
わたくしの顔もほころんでしまいます
三於は
お早くお越しくださるとよろしいですねって言うけどそういうことではありませんの
それにお花をご覧になられてそれからずっとお花をお持ちになられるようになっても
それはそれでいやですの
だから、やっぱりお紙にはさもうかしらって思うのだけれど、いちどお水に差して飾ってしまった手前それも憚られるような気がして
どうしたものかと思いながら昼間も眺めておりますの
姫さまには
呆れられそうだから
内緒にしてねって
三於にお話ししておりますの



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