「ヘレディタリー」2回観たった
※ヘレディタリーとミッドサマーとボーはおそれているのネタバレあり
ホラー耐性がつく前に観てたら泣いてたと思う。
私はかなりホラーとグロに慣れてる方なので「ギャー!」みたいな怖がり方はしなかったけど、ずっと「すぅーごい嫌だなあ」と思いながら観てた。
良い意味でね。
良い意味だけど、すぅーごい嫌だったわぁ。
アリ・アスターの作品は、最初に劇場で「ミッドサマー」を観て、次にこの夏にアマプラで「ボーはおそれている」を観て、そこで「アリ・アスター天才やんけ」と思ったので、これはさすがに「ヘレディタリー」も観ないといけないと思い至り、ひと月くらい前に観たって感じ。
そのときは晩御飯前に空いた時間に観たんだけど、せっかく初物の秋刀魚を焼く用意してたのに、観ながら完全に秋刀魚を焼きたくない気持ちになった。
秋刀魚と新米のワクワク感を削ぐ勢いの嫌さ。すごいね。
三作の中で「ヘレディタリー」は、一番ストレートに”ホラー的な嫌さ”を使ってる作品だと思う。
特に肉体的な嫌さが強い。
アリ・アスターは、一作目の「ヘレディタリー」で視覚と肉体の嫌さが多いストレート気味のホラーをやって、二作目の「ミッドサマー」では肉体的な嫌さ・怖さを残しつつも宗教的なものとか人間の内側の恐さに寄って「ホラーってより、メッセージ性のあるミステリーかサスペンス」という印象になり、三作目の「ボーはおそれている」では”親子関係”というところに触れて、ホラーの印象は無くなり、完全に精神の方へ入っていってるんだな。
撮るたびに、中へ中へ入っていってる。
そして、三作とも「ずっと前から全て仕組まれてて、気づいた時にはもう終わり。とっくに周りを囲まれていたんだよ」ていうのをやってるんだ。
「ミッドサマー」は、おそらく主人公の両親が例の村を抜け出して逃げてきた元村民で、村人たちはずっと探していたんだろうし、取り戻すために友達の振りをして村から人を送り出していたんだろう。
「ボーはおそれている」は、母親がボーの精神を支配するだけでなく、自分への愛を試すために自分が雇った人間をボーの周りに送り込んでいた。偶然知り合ったと思ってた人たちはみんな母親と繋がっていたわけだ。
「ヘレディタリー」も、主人公の母親(冒頭で亡くなった祖母)が実はパイモンという悪魔を人間の体に宿して復活させるために昔からずっと色々やって来てたんだというのが、最後の方で明かされていく。
一見、不幸な身の上だったように思える母親の人生は、単に母親自身がパイモン復活のために家族の体を使おうとしてきた結果であり、その意味ではちゃっかり成功してきていた。
キチンと全て「継承」していた。
観終わってから考えると、前半の妙な引っ掛かりは全部「ここから既に始まってるよ」「住んでる町にはパイモン復活を目論む団体がいて、取り囲まれてたんだよ」いうことを示す部分だった。
私は1度目を観終わってからずっと「結末」と「もしかしてあの場面は…」を繋ぎながら過ごしてきた。
今回、それを確認するためにもう一回見返したのだ。
見返すと、もう最初からずっと「あー、これのことだったんだ」て場面の連続だった。セリフでも映像でもずっと示してきてる。作ってる側だったら「流石にここまで出したら分かりやす過ぎるのでは」と思うんじゃないかってくらい、ガンガンにヒントが出る。「はい、ここヒントですよー」て感じで出してくる。
それなのに、観てる側は初見じゃほぼ正解へ辿り着けないんだから凄いよね。
見返して気付いたことで、もうひとつスゲーと思ったことがある。
主人公は自分のトラウマをミニチュアで忠実に再現するんだけど、そのミニチュアの室内に視線を寄せていくとヌルッと現実の部屋の中になったり、逆に現実の部屋からカメラを引くとミニチュアだったり、現実の家や森をミニチュアみたいに撮っていたりと、現実とミニチュアが綯い交ぜになっている。
そうすることで「なにか大きな存在に全てを管理されている(支配された世界にいる・掌の上)」というイメージを表してるんだろう。
この村自体がもうパイモンからすると「蟻の飼育ケース」みたいなもんで、もう逃げるも終わらせるもなにも出来るわけがなかったんだ。
こういう「最初からあなたに自由も希望も何もなかったんですよ。頑張ったのにねぇ。残念でした」ていう絶望感をアリ・アスターはずっと描いている。
あと、アリ・アスターはなんか「知らない一般人が全裸で並んでこっち見てたら怖いね」ていう謎の感覚があるらしいね。
日本人は温泉とか行くからそんなに他人の全裸に驚かないけど、海外の人は異常に感じるんだろうな。「んなことあるわけない」と思うもんな。
三作全部見てからアリ・アスターの宣材写真見ると「こんなに爽やかでいい人そうなのに…」てなるよね。
人って怖いよね。
次はどんな作品を見せてくれるんだろう。楽しみ。てか、この先どうなるんだろうこの監督。マジで楽しみ。