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道具とききて

私って、タバコは左利きでライターは右利きだ。


道具には必ず利き手が存在する。
両手で動かさなければいけないもの以外は。

ペンは右利き。
箸も右利き。
ハサミも、ボールを蹴るのも投げるのも、
虫を払うのも、転んだとき先につくのも、
スマホのタイピングも、トイレのとき拭くのも……
私って右利きだ。

彼に「俺のこと道具としてしか見てないでしょ」と言われた。
彼が道具だとしたら、
私ってどっち利きだったのだろう。

私がタバコを左手で持つのは、
彼の利き手が左だったからだ。
真似をした。左利きに、いや、彼に憧れて。
今では右手でタバコを持つと震える。
左手で字を書くときみたいに震える。

彼を撫でるとき、
私はいつも右手だった気がする。
彼を引き止めるとき、
またしても右手だった。
彼を平手打ちしたとき
咄嗟にでた手だったから右手だった。

彼が私の手を握るとき
彼は車の通る方を歩いてくれるから両利きだった。
彼が私を撫でるとき
本気だったから左手だった。
彼が私を平手打ちしたとき
本気じゃなかったから右手だった。

これって愛じゃないか。
優しさじゃないか。
気づけなかった。
私って本当に独りよがりだ。
私はなんでも利き手だった。

唯一私が左利きのタバコだって
彼の真似をしたなんて嘘で
右手でスマホをいじるための左利きだった。
彼は左手でスマホをいじるから
彼のタバコは右利きだったんじゃないかな。

私って本当に独りよがりだ。

道具には必ず利き手が存在する。
両手で動かさなければいけないもの以外は。

彼には右利きだった。
何をするにも右手だった。

ずっと受け入れられなかった。
道具としてなんて見てないって言い張った。
でも振り返ってみれば私って右利きだし、
両利きになんてなれなかった。

彼を引き止めたあの日、
もし、私が左手を出していたら。

私って、本当に独りよがりだ。

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