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特製チキンカレー 篇

 今は昔、林田といふ翁ありて、TAOでせっせと働いていたことがありました。何だか普通にTAOと出してしまっておりますが、福岡は博多でぼくがオーナーをしているBARのことです。

 もはや鬼籍に入られてしまいましたが、この10数年はTAOのナベツネとして君臨し、何もしないが口は出す、といった状況なのですけれども、かつては古田 敦也の如く、もっと古くいえば藤村 富美男の如く、ひとたびチャンスが来たならば

「バッター交代、代打オレ」

的なプレイング・マネージャーを務めておりました。

 その時、せっせと仕込んでおりましたのが、TAO特製チキンカレー(700円)だったのです。

700円で売っていたのですが、今思うと手間の割に安い!

超手間がかかりますが味は好評で、継続的に出していたのですが、現在の西山店長の代になってひっそりと姿を消しましたグレープフルーツにつけていたソルティ・ドッグ専用のウォッカも、それに付けるヒマラヤのピンクソルトも、カクテル用のフレッシュフルーツジュースも、手間がかかるものは、全てひっそりと姿を消しました

 それでもぼくが立っている時よりも売り上げが良いので見てみぬフリをしているんですけれども、やはり継続と言いますか、伝統と言いますか、今あるものの上に事を立てていく、と言うのが老舗の醍醐味ですので、どこかで復刻したろうとは企んでおります。

 さて、ということで前稿のとおりスパイスをゲットいたしましたので、今日は簡易版TAO特製チキンカレーを復刻いたしましたので、その作り方をご紹介していきたいと思います。覚えてるかな?

 まずは鶏ガラをゲットします。大きめのスーパーに行くと、内蔵されているお肉屋さんで鶏を捌いていますから、必ず鶏ガラはあります。見当たらなかった場合は、お肉コーナーではなく、冷凍コーナーに置いていたりするので注意してみてください。

 鶏ガラは骨のことですから、高くないです。大体、1羽で100円前後。今回は2羽仕入れてきました。

 この鶏ガラを、写真のようにグチャグチャになるまで煮ます。圧力鍋でやってもいいですが、目的は出汁の旨味を取ることなので、ぐつぐつと煮込む方が個人的には好きです。が、皆さん、お時間もないでしょうから圧力鍋でも全然OKです。

 2リットルの水を沸かして、灰汁がじわじわ出てきますので30分ほどあくとり代官になります。

 ここまでグチャグチャになるのに灰汁を取ってから2時間は煮込みます。お店で出すわけではないから、自宅のご飯にそんな時間かけられねーよ!という方は、ぶっちゃけ鶏ガラスープの素やチキンコンソメなどを大量投入してもらっても構いません。

 さて、煮込んでいる間にカレールーの準備をします。欧風カレーでは、スパイスを小麦粉に溶かし込んでスープっぽいルーを作るのですけれども、インドカレーのルーの基本は玉ねぎです。

 今回は、玉ねぎの大きいサイズを2個使います。だいたい玉ねぎは3個で400円くらいで売られていますから2個で260円くらいか。玉ねぎはみじん切り説もありますが、経験上、最終的には溶けちゃうので千切りで良いです。

オリーブオイルバターを敷いた上に玉ねぎを投入し、いわゆる飴色になるまで炒めます。玉ねぎを飴色になるまで炒めるのには軽いスキルが入ります。途中で水分が飛ぶのですぐ焦げちゃうんですね。でも弱火で焦げないようにじわじわと炒めていていくと、玉ねぎがめっちゃ甘くなります。

 一から玉ねぎを弱火でじわじわと飴色になるまで炒めるのに、だいたい40分くらいかかります。そんな時間ねーよ!という方には、水分が無くなったタイミングで水をドバドバ投入する、という手法があります。

 焼いては水を投入し、水を投入しては焼く。どっちかというと、焼くと煮るの中間くらいの手法です。実は、これは辻調理師専門学校でも教えられている歴とした時短玉ねぎ飴色手法です。もっと早くしたい方は、玉ねぎをスライスした後、電子レンジで一回ふやかす、という技もあります。玉ねぎ2個分だと、500Wで10分600Wで7分30秒くらいかけると良いでしょう。

 量によっては電子レンジにかけている段階で焦げるという悲劇も起こり得ますので様子を見ながら行なってください。今回は電子レンジでふやかした後、辻調式でガシガシ炒めていったので、ものの5分で飴色に到達しました。

 次にスパイスです。スパイスは全てパウダーであれば、そのまま混ぜ込んで良いのですが、今回は、

ホール(粒)で買ってきやがったので、ちょっと手間がかかります。でもホールから作った方が香りが立って美味しいので良しとします。

 フライパンに多めのオリーブオイルを入れて、にんにくと一緒にスパイスを炒めていきます。炒める、と言うよりはアヒージョに近く煮ると言ったほうが良いかもしれない。こちらも焦げないように、低温でじっくりと。

 あとでチリも入れるんですが、この時に赤唐辛子も一本ほど入れると油に香りがついて良いです。焦げないようにじっくりと煮ていくと、にんにくがホクホクになってヘラで潰せるようになります。そうするとスパイスのホールも潰せるようになっているので、かき混ぜながらスパイスを潰していきます。

 すごく香りが立ちます。もうカレーの香りです。

 ここに先ほど飴色になるまで炒めた玉ねぎを投入します。

 さらにパウダースパイスを投入。ロンドン土産のチリペッパーパウダーカシミールチリペッパーパウダーカイエンペッパー大さじ1/2ずつほど投入しました。この分量については理由はありません。もらったものを全部使っただけです。

 そこに黄色いスパイス、ターメリック大さじ2ほど投入します。実は、カレーはなぜ黄色いのか、というとターメリックが黄色いからです。ターメリックは日本ではウコンと呼ばれていて、肝臓の機能回復に役立ちます。どんなに林田くんが大酒を飲んでも、カレーを食べていれば大丈夫だと信じています。

 ちなみにスパイスの分量についてですが、これは好みです。これがスパイスカレーを作る醍醐味です。自分の好みに合わせて、お気に入りのスパイスを探し出して混ぜ合わせていく。そして、レシピを固めない限りは毎回、違うテイストのカレーが誕生します。

市販のカレールーが、ベースが定まっているロックやポップだとするならば、スパイスカレーはジャズです。即興です。ワウ、オーイエーです。

 種類としては、チリ、カルダモン、クミン、クローブ、ナツメグ、ローリエ、シナモン、そしてスパイスの王様、ブラックペッパーこと黒胡椒。この辺りが入っていたら王道ジャズと言えるでしょう。コリアンダー(パクチー)もメインメンバーですが、うちの家族はパクチーが嫌いなので入れません。

 今回はガラムマサラホールの中に、カルダモン、クミン、クローブ、ローリエ、シナモンなどが入っていましたので、それらを大さじ2。チリ系を大さじ2、ターメリックを大さじ2、くらいの分量です。

玉ねぎ二つに対して合計大さじ6のスパイスを入れる、くらいに覚えておいておくと良いでしょう。大さじ6のスターティングメンバーは、その日の調子によって整えるという、バレーボールチームの監督になったような感じです。

 こいつらを弱火で炒めながら混ぜると、カレールーの完成です。

 まだ下ごしらえは終わりではありません。次に、トロミを出すためのベース、トマト缶です。トマト缶はそのままぶち込むとカレーに酸味が出てしまいます。こちらも弱火でぐつぐつと炒めてあげると甘みが増します

 かつ、少し砂糖を加えて仕上げます。辛いものには甘みを、甘いものには辛味を足してあげると、味に深みが出ます。和食の陰陽にも繋がるのですが、これは映画ゴッドファーザーアル・パチーノ扮するマイケル・コルレオーネが、パスタを作るマフィアの部下に行った助言を元にしています。

 鶏ガラで取った白湯(パイタン)。このまま水炊きにしても超うまいですが、今日はカレーです。

 ようやくパイタンとカレールーが邂逅。一気にカレーっぽくなってきました。まだスパイスのホールが残っていますが、煮込んでいくと溶けてなくなります。ちなみに、欧風カレーのように固形感はないので、多少、目を離していても焦げ付くことはありません(すごい目を離すと焦げ付くので15分に一回くらい混ぜます)。この状態でだいたい1時間くらい煮詰めていきます。

 その間に、具材の準備です。今日はチキンカレーなので手羽元塩を振って20分ほど寝かせておきます。塩を振る理由は下味をつける意味もありますが、鶏肉から水分を抜くためです。この行程を抜かすと、余計な水分が出てカレーの味がボヤけてしまいます。ですから牛すじであろうが豚バラであろうが、この行程は全肉、全料理同じと思ってもらって良いでしょう。

 ここにターメリックを投入。こちらは臭み消しと、スパイスの効果で肉が柔らかくなるように願って入れるものです。

 さらにヨーグルトを投入。今回は無塩のものを使いましたが、味の深みが出るので加糖のものでも構いません。同じく臭み消し、とここでヨーグルトで肉を処理しておくことで、あとで牛乳を入れなくてもマイルドな仕上がりになります。

 こいつらを混ぜて、外側をコーティングしてあげたあと、

 しっかり焼き目が付くまで焼きます。焼かずに投入しても臭みはないのですが、煮崩れしやすくなりますので、やはり一度、焼きを入れておくことをお勧めします。

 なんかインドカレーって具材がゴロッと入っているイメージがあるので、人参は大きめにカットしています。ちなみにジャガイモはすぐ崩れるので、最後の最後、食べる前に煮るときに入れます。

 と、ここまでで完成。
 昨夜は苦節6時間かけて完成しました。

 ちなみにTAO特製チキンカレーは、ジャガイモ、人参、セロリ、リンゴを全てすり潰して入れていたのですが、こちらの手法はまたお店でメニューが復活したときにでも。

 しかし、ここまで手間をかけて昔は作ってたんだよなー。

チノアソビバーの店長、りゅうせい

「ぼく、料理できないんでー」

で終わってるんですが、ぼくも何を隠そう、お店を開くまで包丁握ったことなかったんですよね。料理教室に通い(実話)、自分で勉強して、他のお店と違うものを出すにはどうしたら良いのか、自宅で再現できないような、でも自分で作れそうな料理とは何なのかを日々考え、20年たって今、積み上げたものの上に立っていることを、もう一度、思いだして欲しいなぁ。

(了) 2025. vol.010

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Podcast「チノアソビ」では語れなかったことをつらつらと。リベラル・アーツを中心に置くことを意識しつつも、政治・経済・その他時事ニュー…

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