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タヌキの親子見聞録 ~熊野古道編~

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熊野古道中辺路をたどる熊野三山巡礼記 Jul.2024
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記事一覧

タヌキの親子見聞録 ~熊野古道編⑨~

第1章 圧倒的な那智の大滝  熊野三山の最後の目的地である熊野那智大社で、那智の大滝を近くで見ずに帰ることができようか。蒸し暑くても、足の膝が笑っていても、那智の大滝の側で、あのマイナスイオンにじかに触れないで帰るのはあり得ない。 「よし、とにかく水分補給しながら、頑張って下まで歩こう」  自分で歩かないと、目的地までは行けないのだから、タヌキたちは力を振り絞って石段を降りて行った。 車が通る道を気をつけて渡り、大きな石段があるところまで歩いて行く途中で、兄ダヌキが

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タヌキの親子見聞録 ~熊野古道編⑧~

第1章 ビュッフェ占い  ビュッフェ会場は、玄武洞があるのと同じ日昇館のレストラン「サンライズ」というところであった。タヌキ一家が予約の午後6時半の10分前に着くと、もう何組か並んでいる人がいた。受付を終えて会場に入ると、すでに午後6時から食事を始めている人があちこちで食事をとっていた。 「せっかくだから海が見える席で食べたいね」  タヌキたちは、海が見える席を探して奥へ奥へと向かった。奥から3席目あたりで空いたテーブルを見つけたので、そこに座ると、自分たちが食事中で

タヌキの親子見聞録 ~熊野古道編⑦~

第1章 大門坂は暑かった  大門坂駐車場に着いたのは、午後1時40分ぐらいだった。さっきの神倉神社を登る時に買ったスポーツドリンクを飲んだが、すぐにのどが渇くような暑さで、天気はとても良かった。大門坂駐車場にあった観光案内所で、大門坂だけ往復するとどれくらい時間がかかるか聞くと、片道40分で、余裕をもって午後3時くらいにはこの駐車場に帰って来られると確認し、大門坂へ向かい歩き出した。 民家のある小道を登っていくと、石階段の向こうに小さな鳥居が現れ、朱塗りの小さな橋を渡る

タヌキの親子見聞録 ~熊野古道編⑥~

第1章 鮮やかな熊野速玉大社  熊野三山の中で熊野速玉大社だけは、急な階段を上ることなくお参りできる。 小さな朱塗りの橋を渡ると、石畳の道をまっすぐ行けば拝殿があるのだろうが、その前に、左に大きな木が、石でできた柵に囲まれて立っていた。これが国指定の天然記念物にもなっている梛(なぎ)の御神木だ。樹齢およそ1000年といわれるその御神木の前でタヌキ一家は止まると、みんなで一礼をした。その御神木が、この御社のドンのような気がしたからだ。その木の側には、「世界平和を祈る梛の御

タヌキの親子見聞録 ~熊野古道編⑤~

第1章 足がつってもまた歩く  『野中の清水』を飲んで、旅館のクーラーで涼みながら休んでいると、車の運転で疲れた父ダヌキが一番に眠ってしまった。母ダヌキは、汗をかきすぎて浴衣では眠れなかったので、持参したパジャマがわりの服を着て髪を扇風機で乾かしていると、テレビを見ていると思った子ダヌキたちもいつの間にか眠ってしまっていた。母ダヌキも、明日の朝食を楽しみに午後10時過ぎには眠りについたのだが、夜中に飛び起きないとならない事件が起こった。 「うぅっ‼」  川の字に並んで

タヌキの親子見聞録 ~熊野古道編④~

第1章 絶対に全部食べる  1階の夕食会場には、すでに料理が運ばれていた。畳の部屋に上がると、タヌキたちはそれぞれ席に着いた。部屋の窓からは、石橋の向こうの川沿いに世界遺産の『つぼ湯』が見えた。 「お飲み物はどうされます?」  旅館のご主人が料理の説明をしてくれた後、飲み物についても簡単に説明してくれたが、実際にどんなものがあるのか見てみないとわからなかった。 「では、玄関横の冷蔵庫にありますので、見て選んでください」  そう言われて、タヌキたちはご主人について冷

タヌキの親子見聞録 ~熊野古道編③~

第1章 染みわたる野中の清水  滝尻王子の駐車場でタヌキ一家が車に乗り込むと、汗のにおいがムッと鼻を突いた。 「多分、レンタカー屋さん困るね」  父ダヌキは、少しでも被害が少なくなるように、シートと背中の間に首に巻いていたタオルを挟んだ。 「仕方ないよ、めちゃくちゃ暑いんだから」  母ダヌキは、山に持っていったスポーツドリンクを飲み干すと、カバンの中に残っていた麦茶の残りを飲みながら言った。子ダヌキたちも、山歩きのために着ていた長袖を脱ぐと、冷房の風が当たるところ

タヌキの親子見聞録 ~熊野古道編②~

第1章 熊野古道の玄関口  「とにかく国道311号にぶつかればいいんだから」  レンタカーで滝尻王子を目指す出だしから、カーナビの案内と母ダヌキの案内が一致せず、カーナビの案内を選んで、この道でいいのか迷いだした父ダヌキに、母ダヌキは、手に持っていた道案内のメモを膝に置いて、落ち着かせるために言った。 「多分、しばらくカーナビ通りに行けば、必ず国道311号にぶつかるから。とりあえずこのままナビ通りに運転して」  知らない道で、ナビを見ながら運転すると事故に遭いそうで

タヌキの親子見聞録 ~熊野古道編①~

第1章 親の心 子の心 「私はみんなと旅をしない。また怒って旅を台無しにしたくないから」  今年の4月に高野山を旅して、最後に怒りに狂って、楽しいはずの旅を台無しにしてしまったことを後悔している母ダヌキは、夏休みの旅について、自ら積極的に話題にあげることをしなかった。だからといって、夏休みに何もしないわけにはいかない。 「あんたたちはどこか行きたいところない?」  以前から行こうと計画していた熊野古道のことは口にせず、子ダヌキたちの行きたいところを聞き出そうとした。