【イオン】第1回 日本最大の総合小売企業はどんなビジネスをしているのか?
私にとって、イオンというのは不思議なお店です。学生の頃、地元では普段しばしば使うものの、特にファンというわけでもない、そんなお店でした。
企業としても、私には不思議なことがあります。今や、イオンは日本最大の総合小売企業です。営業収益(売上)は8兆円を超え、多くの人が利用しています。しかし、セブン&アイホールディングスとよく比べられますが、営業利益の額は約2100億円(利益率2.5%)、最終利益は750億円ほど(利益率0.9%)と規模の割に大きくはありません。
店としても、企業としても、不思議なことがたくさんある。私にとってイオンはそんな企業です。
今回から何回かに渡って、イオングループとはいったいどんな会社なのかを読み解いていこうと思います。
イオンは何をしている企業なのか?、各事業はどのくらい大きいのか?、儲かっているのか?そしてなぜイオングループは日本最大になり、しかし利益は多くないように見えるのか?、こんな疑問に向き合っていきます。
第1回の今回は、「イオンは何をしている企業なのか?」を見てみましょう。
1.イオンって何をしている会社?
GMS、スーパーマーケット、ドラッグストア、不動産デベロッパー、さらに金融業まで、非常に多角的な事業を営んでいます。
イオングループは7つの事業を行っている
イオングループでは以下の7つの事業を行っています。
GMS事業
SM(スーパーマーケット)事業
ヘルス&ウェルネス事業
総合金融事業
ディベロッパー事業
サービス・専門店事業
国際事業
はじめに、グループ全体に占める事業別の営業収益(売上)と営業利益の割合を見てみましょう。非常に特徴ある構成をしています。
(イオンホームページより)
営業収益(売上)はGMSとSMがほとんど
営業収益を見ると、大部分の73%をGMSとSMが占めています。しかし、その二つの事業が稼ぐ営業利益は、僅か13%にすぎません。
営業利益は、ディベロッパー(ショッピングセンター)と金融で稼ぐ
一方で、儲けを示す営業利益でみると、ディベロッパー事業と金融事業がそれぞれグループ全体の約3割を稼ぎ、合計で6割強を占めています。
本業に見えるGMSやスーパーマーケットでは儲けず、ディベロッパーと金融で儲けている。イオングループとは、いったいどんな会社なんでしょうか?
イオンの特徴は、役割分担されたグループ経営
私のイメージでは、イオンの7つの事業には、グループ経営におけるそれぞれの役割があります。今回はまず、各事業の概要を、イオングループにおける役割と共に紹介しようと思います。
1.1イオンの規模と拡大を担うGMS事業とSM事業
イオンの強さの一つはその規模です。効率が落ちたり、管理しきれなくなったりと、デメリットもありますが、商品の価格交渉力、買収の資金力、WAONの価値向上と規模がメリットになることも沢山あります。
イオンの営業収益の7割を占めるGMS事業とSM事業は、まさに規模とその拡大の役割を担っています。
GMS事業:厳しい環境にさらされるイオンの本業
イオングループのGMS事業は、「AEON」ブランドの店舗を運営する事業であり、まさにイオンの本業といえます。日本全国に700近い店舗を有し、ほぼ全国46都道府県で店舗運営しています。
GMSは衣料品、食料品、日用品と生活に必要な商品を幅広く揃える総合小売店です。同じ商品群を扱う百貨店とは異なり、大量仕入、低価格を売りにしています。
しかし、ここしばらくは、家電や衣料品の専門店、楽天やアマゾンといったEC企業によりシェアを奪われ、業界全体が厳しい環境にあります。
SM事業:数多くのスーパーを引き受け、規模の拡大を担う
イオンのSM事業は、GMS事業とは対照的に、実にたくさんのブランドと会社で構成されています。
代表的なブランド(AEONとイオンスーパーセンターはGMS)
上記以外にも、この事業に属している企業は70社近くにおよび、運営する店舗数は4000店を超えます。
1990年台から、ダイエーを筆頭にヤオハン、マイカル、カルフール、マルナカ、ピーコックなど、日本全国の経営不振に陥ったスーパーを中心に傘下に収め、拡大し続けています。近年はこの事業が規模拡大の中心を担っていました。
しかし、ブランドがたくさんあり、その集客力も様々、一旦経営不振に陥った会社も多く、競争力も赤字の会社と黒字の会社が混在しています。このため事業全体の利益は多くありません。
1.2 グループの集客力の要、攻めのディベロッパー事業
日本最大の商業施設ディベロッパー
ディベロッパー事業は主に、イオンモールを主力とするショッピングセンターの開発と運営を行っている事業です。イオンモールは日本全国に150以上の大規模ショッピングセンターを運営しています。
商圏競争力のある、攻めれる事業
イオンモールは、国内のショッピングセンターとしては最大の規模を有しています。1990年台から2000年台にかけてショッピングセンターは日本全国に乱立しましたが、イオンモールは、その競争に勝ち残りました。
イオングループの業態の中でも、出店すれば商圏の客を他店から奪い取ることのできる、貴重な攻めの事業といえます。
1.3 グループの利益の最後の砦、守りの金融事業
規模が活きる、クレジットカード事業
イオングループの金融事業は、クレジットカード業と銀行業を含んでいます。WAONポイントの貯まる、イオンカードを発行しています。
金融事業の営業収益には、例えば「カード会員がイオンカードで分割払いをした時の利息」、「カード会員がカード払いをした時に加盟店(お店)からもらう手数料」があります。
クレジットカードは会員が多ければ多いほど収益性が増すビジネスですので、ここでもイオンの規模の大きさが強みになります。
負けても負けない、利益の最後の砦
さらに金融事業のいいところは、イオングループのお店以外でこのクレジットカードを使っても、イオンに収入がはいることです。(もちろん、イオンのお店で使ってもらうに越したことはありません)
例えアマゾンなどのEC企業にGMSのシェアを奪われても、支払がイオンカードなら一部はイオンに還元されます。戦いに負けても、一定の利益を確保できるという点でも、金融事業は重要な事業と言えます。
1.4 次の事業の柱になるか、ヘルス&ウェルネス事業
ヘルス&ウェルネス事業はイオングループの中では比較的新しい事業です。
ドラッグストア業界は、市場規模も拡大している成長市場でしたが、2015年のウェルシアホールディングを子会社化したことが重要な転機となり、以降は各地のドラッグストアを買収しながら拡大し、その店舗数はすでに5000店を超える規模になっています。
イオングループでの売上割合は10%程度ですが、営業利益はグループ全体の16%ほどをきっちり稼いでいます。現在の業界の再編ラッシュを制し、規模と利益の両面でグループの柱になることが期待される有望事業と言えます。
1.5 GMSとモールを支える、サービス・専門店事業
サービス・専門店事業には、スポーツ用品、子供服、ファッション、ゲームセンター、書店に映画館、果ては葬儀あっせんまで、様々な専門店が含まれます。(※)
(※)結婚相談のツヴァイもイオングループでしたが、2020年4月24日にIBJに会社ごと売却されています。
そのほとんどが、GMSやイオンモールの中に出店し、店舗がまるで一つの街となるように、店舗の魅力を支えています。
1.6 成長のための挑戦、少しずつ利益を上げ始めた国際事業
最後に、イオンの国際事業はアジアを中心に13か国に展開しています。2011年に掲げた「アジアシフト」の戦略に基づいて、拡大と収益性の強化を図っています。
なかなか中国で営業黒字の出せなかった国際事業ですが、収益性も少しずつ改善し、2020年では約100億円の利益を上げられるようになってきました。
飽和する国内市場のを見据え、早期から成長のために挑戦を続けています。
2.まとめと第2回以降のこと
イオンは、小売を中心として全体で一つの事業を営んでいる
このように、イオングループは多数の事業が有機的に助け合いながらビジネスモデルを構築しています。本業がどの事業か、というよりは、社会にも似た、全体で一つの事業を営んでいるといえるのではないでしょうか。
これから取り組む、イオングループのいろんな不思議
これから何回かにわたって、紹介した事業のうち主要なものの決算をみながら、仕事の内容、大きさ、儲け、業界でのポジションとその理由について、見ていきます。
そして、最後に、ずっと不思議だった以下の疑問に迫りたいと思います。
イオンはなぜ、日本最大の小売企業になったのか?
30年以上前イオン(当時のジャスコ)はGMS業界の1つの企業にすぎませんでした。イオンが業界最大の企業になれたのはなぜなのでしょうか?
イオンはなぜ、業界のリーダーの位置なのにそれほど収益性が高くないのか?
しばしば、セブン&アイとの比較で語られますが、イオンは業界最大の企業にもかかわらず、その収益性は決して高くありません。その理由は何でしょうか?
イオンは、何を目指す、どんな会社なのか?
そして最後に、自分の中で、この問いに向き合いたいと思います。その時、イオンが下のロゴを掲げる理由にも、触れることになります。
第2回以降では、イオンの主要な事業ごとに、仕事内容とその決算数値を詳しく見ていきます。その上で、最後にまたイオングループがいったいどんな会社なのか?に戻ってくるつもりです。
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