鼻歌はヘイ・ジュード
よしなしごと【気まぐれ選04】
図書館に行く。連休に読む本を探している。
日本文学「ア行」の本棚の前。私の周りを、ヒマをもてあました、手持ち無沙汰のおじさんたち(まあ私も含めてだ)が、うろうろ歩き回っている。いわゆる「手持ちブタ」である。
日本文学「ア行」から「カ行」の棚に回り込もうとしたとき、一頭の「手持ちブタ」と出くわした。メタボ気味でうっすら無精ひげで、短パンTシャツ黒ブチ眼鏡のブタだ。
低い声で何やら唸っている。一瞬気味悪さを感じたが、どうやら鼻歌を唄っているようだ。
「♪・・ヘ・ジュー〜・ド・メキン・バー〜・・」
手持ちブタさんの鼻歌は、ビートルズの『ヘイ・ジュード』。
図書館の中での鼻歌といい、しかもブタとビートルズの間には計り知れないくらいの唐突感があったが、多分何らかの原因で、彼の頭の中に、『ヘイ・ジュード』が舞い降りてきたのだろう。と思う。
不意に、あるメロディが浮かんできて、いつまでも頭から消えない・・。そういうことは、ままある。それにハマッたに違いない。
私は慎重に(野生動物との接触時のように)、そおっと後ずさりして鼻歌の音源から離れ、ゆっくりと「サ行」から「タ行」へ、そして「ナ行」の方へ逃げる。
私の背後から、『ヘイ・ジュード』の低い唸り声が聞こえてくる。ブタさん、えさを求めて徘徊しているようだ。鼻歌は、曲の最後のリフレインにさしかかっている。
「♪ダー・ダーダー・ダダダッダー・ダダダッダー〜へエ・ジュー〜・・」
このリフレイン(ご存知かと思いますが)、エンドレスである。延々と続いて終わらない。手持ちブタさん、『ヘイ・ジュード』の蟻地獄に落ちた。
【よしなしごと0248・2007年9月15日 (土)掲載】