事件現場が語る真実とは~荒神谷の謎~
よしなしごと【気まぐれ選21】
あろうことか、出雲県警本部の武器保管倉庫から大量の武器が紛失するという、前代未聞の事件が起きた。事が事だけに、極秘で捜査を続けていた県警は、必死の聞き込みで不審情報の収集に当たっていた。
捜査は難航し、迷宮入りかとも囁かれていた矢先、地元で「荒神さん」と呼ばれる神社近くを通りかかった市民から、見慣れない茶碗の破片が落ちていたと通報があった。
県警署員が駆け付けたところ、谷地の中ほどに、不審な物置小屋が見つかった。県警本部はすぐさま捜査員を派遣、大がかりな捜索を行った。
その結果、荒神谷一帯の山間地域を根拠とする、大規模な窃盗団組織の存在が浮かび上がった。
調べによると、その組織集団は県警の倉庫に従業員として入り込み、内部事情に精通したのち、計画的に武器、つまり約400本に及ぶ銅剣を、一気に運び出したのではないかと見られている。
鑑識本部によると、捜索は谷あいの傾斜地にトレンチを入れ、紛失した銅剣が土中に埋められている可能性のある個所を慎重に掘削したという。結果、表層部の土を取り除いた段階で、銅剣の一部を発見。さらに周囲を掘削し、計358本を回収した。
公表された現場写真によると、銅剣は整然と4列に並べられている。右2列は切っ先を揃えた形で並べられ、左2列は切っ先と柄が交互になる形で整列している。
発見された銅剣は右列から93本、120本、111本、34本の順に並んでいた。
この現場状況について、鑑識本部長が記者会見に応じた。
――発見現場は物置小屋か
「え~、物置小屋というより、簡単に片屋根をかけてあるんだが、これは元々からあったもんで。山で伐ってきた丸太を寝かせて、家を建てるときの柱にする。それまで乾燥させておく置き場だわな」
――なぜ今まで見つからなかったのか
「あ~、犯人たちは銅剣を隠すのに、積んであった丸太を一旦どかして、一段上の水平になったところに置いた。それから、銅剣を埋めた後で、丸太を元の位置に戻せば、遠目から見ればわからん。木を隠すには森の中って言うだろうが・・、誰も不審にも思わんからなあ」
――現場は村の神社の祭祀施設だという説もあるが
「あ、そりゃないわ。上の段に巫女さんが立ってたとかいう人もおるがね、学者さんは現場見ちょらんのじゃないか。わしら刑事は現場百遍、見りゃピーンと分かる」
――なぜ右2列と左2列は並べ方が違うのか
「犯人たちは、まんず、一番右から並べたんだ。2列目を並べ終わって、残りを数えてみるとまだたくさん残っちょる。
これじゃ置ききれんわ、そいで、交互に並べれば良かと気がついて、残りはそうした。
最初に並べた分も並べ直そうかと思うはずだが、そんな手間をかけてると時間を食う。ぐずぐずしてたら、目撃される恐れもあるから、やめたんだな」
――右から2列目の下側がずれているが・・
「全部並べ終わって上から土をかぶせて、埋めた分だけ土が盛り上がるから、それをわからなくするように、ギュッと踏んで固めた。
犯人の中に一人、太ったやつがいるんじゃないかな。そいつが右から2列目を踏んだ。体重が乗りすぎて、下のほう崩れちょるじゃろ・・」
――いちばん左の列だけ、本数が少ない点については
「おそらく最初埋めた時は他の列と同じくらいあった、と思う。犯人グループの誰かが、そっと抜いたんだろうね、多分。
1本どこか持っていって売れば、1カ月くらいは遊んで暮らせるだろう。全部で400本あったとすれば、ちょうど40本くらいネコババしたことになるわな」
――犯人は捕まえたのか
「う~ん、目星はついとるんだが・・。ただ言ってみれば、村中の人間が全員共犯みたいなもんだからねえ・・。誰をどこまで捕まえていいかどうか、上と相談だな」
「ところで・・」と、今まで熱弁をふるっていた鑑識本部長が声をひそめた。
「ここからはオフレコ、つうことにしてもらいたいんだっけど・・上のお偉いさんたちは、400本も銅剣が盗まれたちゅうのは、県警の恥だけんね、あまり表沙汰にはしたくない意向なんだわ・・。それと、他にも余罪があるかもしれんし・・。
発見されたとは記事にしてもいいが、この銅剣がどこから持ってきたものであるか、それは、あくまで不明ということで。よろしくお願いしたい・・・」
記者会見はまだ続いている・・・。
ちなみに、銅剣が埋められていた現場のすぐ横から、さらに銅鐸6個と銅矛16本が発見押収されるのは、この1年後のことである。
※注:
1984年に島根県斐川町(現・出雲市)の『荒神谷遺跡』から、これまでの古代史の常識を覆す銅剣などが大量に発掘された。出土品は1998年に国宝に指定され近接地に博物館が設けられている。
この記事は、(言うまでもなく)発掘現場を見学した状況をもとに創作したフィクションである。
ということで、本当のところは『荒神谷博物館』HPでしっかりご確認いただければ幸いです。(https://www.kojindani.jp/)
【よしなしごと0308・2009年5月 9日 (土)掲載】
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