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一枚の紙切れから見えてくること
よしなしごと【気まぐれ選17】
図書館で借りてきた本を読んでいる。
ドリアン・T・助川の『言葉ノート』。雑誌に連載していた短いエッセイをまとめたもの。気楽に読めて、面白い。
半分ほど読んだあたりで、ページの間から一枚の紙切れ(レシートのようなもの)がはらりと落ちた。図書の貸し出し票だ。
以前(1年以上前)、この本を借りた人の帳票がそのまま挟まっていた。
借りた日付と、借り出された「資料」の名が記されている。これって、借りた人の名が書いてあるわけではないが、一種の個人情報のようなものだな・・と思いつつ、見る。
借りられた日 20XX.6.30
貸出資料名
『言葉ノート』
『21世紀のこども百科恐竜館』
『おもひでぽろぽろ』[DVD]
『のりもの探検隊』[DVD] 以上4点
これを借りたのは多分、小さな子供のいる若いお母さんだ。
図書館に子どもを連れてやってきた。男の子はたいてい恐竜と電車が好きだ。
彼女は子どもの手を引きながら、書架を眺めている。家事の間に読める軽い本がいいな。そう思って、一冊の本を手に取る。『言葉ノート』ドリアン・T・助川が選ばれた。
DVDも借りる。
ジブリのアニメ『おもひでぽろぽろ』。この前、テレビでやってたけど、途中で旦那が帰ってきて、晩ごはんの支度をしたりしたから落ち着いて観れなかったし、もう一度じっくり観たいな、と思う。
自分のための本とDVD、子供のための恐竜の本とのりものDVD、合わせて4点。
デニム地のトートバッグ(多分)に入れて、図書館を出る。
自転車の後ろに乗せた子どもに、彼女は話しかける。
「さて~、お買いものして帰ろっか! 晩ごはん、何がいいかな~~」
そんな光景を、一枚の紙切れから思う。
と、もう少しこの話には続きがあって、紙切れがはさまれていたところから、少し先に、何か液体をこぼしたらしいシミがついていた。そのページ、ドリアン・T・助川のエッセイのタイトルは「ゴキブリ」。
彼女は、きっとゴキブリが苦手で、そして少しおっちょこちょいな人だと思う。
【よしなしごと0378・2012年3月 9日 (金)掲載】
【よしなしごと】シリーズは『tanpoPost』に2004~2013年にかけて掲載したブログ記事です。エッセイ風のショートストーリー、パロディ、ニセ論文、小ネタ、などなど。思いつくままに書き散らした小文をランダムに【選】としてご紹介します。お付き合いいただければ幸いです。