毎週ショートショート「逢いたい菜」

　僕には忘れられない人がいる。
　でも、交通事故で脊椎損傷になり車椅子生活が余儀なくされ彼女とは別れてしまった。これからの僕に巻き込みたくなかったから。それから一年はずっとモノクロの世界にいる。
　生活の中で人の助けを借りるたびに何処からか、舌打ちやたまに罵声が飛んで来たり、そうした今までの普通が普通じゃなくなるのが、重なると心の幹が細くなっていつか折れてしまうんじゃないかと言う恐怖が育っていった。
　そんなある日、病院から帰ると、家の前で母親が女性に頭を下げている。
　そして、僕を見つけると帰って来たっと言わんばかりに僕の方を指差した。
　女性が振り向くと彼女だった。
　そして、花を両手に僕にゆっくりと近づいてくる。
　そして、白いナズナを僕にくれた。
「あなたに私のすべてを捧げます。だから大丈夫だよ」
　彼女はずっとこの花言葉を持つ白いナズナを探していた。
逢いたい菜って名前をつけて。
　僕のモノクロの世界に真っ白が咲いた。

おしまい

-tano-