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「地方で、学校の中と外をどうつなげる?“学び”への新しい関わり方を考える」イベントレポート

学校内だけで学びを完結させるのでない、学校外での学びの場が、子どもの成長のために必要とされています。しかし、学校側も「どのように社会と関わっていったらいいのか」、社会人としても「どのような学びとの関わり方がありうるのか」とケースが見えていないのが現状なのではないでしょうか。

学校内と学校外の学びの垣根が低くなるためには、どのような関わり方ができるのか。今回は、地方で教育に取り組まれ、学校内と学校外の学びをつなげておられる大山力也さんと阿部至さんのお2人をお招きし、「学び」への新しい関わり方について伺いました。

大山力也(おおやま・りきや)
鳥取城北高校教員。神奈川県横浜市出身、幼少期6年間をブラジルで過ごす。早稲田大学院教職研究科、早稲田大学教育学部、早稲田大学高等学院卒。山梨県で私立高校の非常勤講師を経験後、2017年より鳥取城北高校教員として鳥取県に移住。2019年に日本財団地域コーディネーターを兼任。アントレプレナー部顧問、総合探究主任として「学校と社会をつなげる」ことをテーマに日々活動中。

阿部至(あべ・いたる)
1986年生まれ愛媛県出身。鳥取大学地域教育学科、東京工芸大学デザイン学科卒業。都内大手広告会社を経て有限会社福島デザインへ入社。妻の実家がある山陰地方への移住を決め、認定NPO法人カタリバに転職。その後退職し、現在は同県における「特別な支援のための非常勤講師配置事業(にこにこサポート事業)」にて雲南市内の公立小学校で午前中は先生として授業をサポートし、午後はフリーランスのデザイナーとしてソーシャルデザインを実践している。広告デザインスタジオpumpstudio代表。

炭谷俊樹(すみたに・としき)
神戸情報大学院大学学長 ラーンネット・グローバルスクール代表 / 学びを探究するメディア「Q」責任編集
1960年神戸市生まれ。マッキンゼーにて10年間日本企業及び北欧企業のコンサルティングに携わる。新人コンサルタント採用・研修の責任者も担当。マッキンゼーの北欧事務所勤務時代に、デンマークの社会や教育に感銘したことがきっかけとなり、阪神・淡路大震災後の1996年、神戸で子どもの個性を活かす「ラーンネット・グローバルスクール」を開校。1997年、大前研一氏とともに企業のビジネスリーダー育成事業を創業、2005年よりビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科教授(2010年より客員教授)。2010年に神戸情報大学院大学学長に就任。3歳の幼児から企業のエグゼクティブまで幅広い年齢対象で、探究型の教育を実践している。東京大学大学院理学系研究科修士(物理学専攻)。著書に『第3の教育』(角川書店)『ゼロからはじめる社会起業』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

子どもの世界観を広げるために、学校と社会をつなげる

── まずは、大山さんの活動について教えていただけますか。

大山:私は「学校と社会をつなげる」ことをテーマに活動しています。鳥取城北高校で社会科教員をしながら、昨年度は複業で日本財団の地域コーディネーターをしていました。今も地域と学校をつないだり、大人同士をつないだりして面白いことをしています。

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学校に対する課題意識が4つあります。1つ目は、学校内で一日中過ごし、社会との関わりを持たずに学校で世界が終わってしまう子どもが全国にいること。2つ目は、都会と地方で情報や体験機会の格差があること。その格差を埋めることはできないかと思っています。

3つ目は、キャリア教育の文脈で、目に見えている身近な職業しか子どもたちの選択肢がないということ。この選択肢の貧困から、どう世界観を広げるかを考えています。4つ目は、イメージ先行世代の今の子どもたちに、どうアプローチするか。情報を提示するときに文章ではなく動画を使うなど、いかに子どもたちに楽しいと思わせるかのデザイン性が大切だと思っています。

── 4つのポイント、どれももっともですね。具体的にはどんなことをされていますか?

大山:たとえば、これまで原則禁止になっていたアルバイトを解禁し、インターンシッププロジェクトをしています。子どもたちが社会経験を積めるところに魅力があります。半年くらいでイベント運営やチラシ作りも全部一人でできるようになった生徒もいますし、IT企業にインターンに行ってそのまま就職する事例もありました。実際に働いたから分かることがある、人は場数を踏んで成長すると思いました。

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「総合的な探究の時間」では、鳥取県だからこそできる学びとして、商店街の課題を見つけるワークをしたり、仕事観を広げるために地域で面白い働き方をしている方々を学校に招いたりしています。子どもたちが色んな人に会える機会を作っています。

また、ローカルな学びだけではなく、グローバルな学びも実施しています。例えば、東京に本部のあるNPOのフリー・ザ・チルドレン・ジャパンさんと連携講座をして、世界の貧困や児童労働の問題を擬似体験できるようなプログラムを実施しています。

実際にスタディーツアーとして、子どもたちとフィリピンのゴミ山に囲まれた地域に行ったこともあります。現地で目にした課題を解決するために、将来NGO職員になると言った生徒もいました。

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── いろいろな経験が次に活かされているわけですね。

大山:アントレプレナー部では、自分たちで作った商品を実際に売っています。最近は、ビールのラベルをデザインし、そのビールの売り上げがインドの子どもたちの教科書代になるプロジェクトをやっています。他にも様々な活動をしていて、生徒がやってみたいと言ったことに関する情報や、面白そうな情報をどんどん生徒に渡しています。

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学校の活動で大前提としてあるのは、「それが生徒のためになるか」ということです。面白いだけではなく、子どもたちのためになっているか。ここは絶対に外してはいけないポイントです。

まわりを変えようとせず、面白いことをやり続ける

── 大山さん自身がどんどん外に出ていき、たくさんの方と会われていますよね。そして、その方々に学校に来てもらって。

大山:鳥取に移住してすぐの頃は、誘われたら「はい」と全部答えるくらいの勢いでいました。それと、Facebookのイベントなどにも積極的に参加していました。最近は「こういうのやりたいんだけどどう?」と向こうからプロジェクトを持ち込んでくださることがほとんどです。

参加者からの質問:企業とは、どのように繋がりを作っていったのでしょうか?

大山:最初はいろんな飲み会に行ったり、出会ってお話を伺ったりしました。当時は、10回連続で面白い人を呼んでくる授業をしていたんです。僕がそのことをSNSで発信しているうちに、少しずつ話題になっていきました。

そういうことを地道に続けて、だんだん「地域のことと言えば鳥取城北高校」というイメージになってきた。「最近学校が面白くなってきている」という話が出るようになったのは、SNSでの発信が強く影響したと思います。

また日本財団さんで地域コーディネーターになったときの繋がりから、面白い方をご紹介いただいたりもしました。複業などで異質なコミュニティに身を置いたことのある人は、外部との繋がりづくりも強いと思いますね。

参加者からの質問:どうやって校内の風土を変えていったのでしょう?

大山:基本的に、興味を持たれるまで面白いことをやり続けるスタイルです。まわりの先生に「何してるの?」と言わせたら勝ち。そこまで頑張るという気持ちでいます。

たとえば一緒にフィリピンのスタディツアーに行ってくれた先生は、今そのプロジェクトを熱意を持って引き受けてくれています。実際に同じ景色を見てきているし、すごくやる気を持って取り組んでいる。そういう先生が校内に現れてきています。

他の教員を説得して口説き落とすということはあまりしていません。多少時間はかかるかもしれないですが、学校をあまり変えようとしすぎない方が良いのかなという気もしています。

デザイナーとして学校に入り、子どもの課題を解決する

── 次は、阿部さんの活動についてお聞きしたいです。

阿部:島根県雲南市で、午前中は小学校の非常勤講師として、午後からデザイナーとして働いています。

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午前中は、1年生から6年生までの子どもたちの算数を担当しています。具体的には、ティーム・ティーチングで教室に入り、特別なニーズがあってサポートを必要としている子どもに個別で勉強を教えます。場合によっては、図書室などで授業をすることもあります。

僕はデザイナーなので、教育現場にデザインの力を何とか盛り込めないかと考えています。ワークシートの作成をしたり、プロダクトデザインとして教材開発をしたりしています。

例えば、ワークシートはiPadで写真を撮ってソフトで配置換えをしたり、教科書の内容を囲ったりしてデザインを変えています。教科書の情報の多さがノイズになっている子どもがいるので、その子にとって見やすい教材をカスタマイズして作っています。

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── なかなか聞かない、面白い取り組みですね。

阿部:「ドリルをすれば良いのでは?」と言われることもあるのですが、その子の「教科書を使って勉強したい」というリクエストを大切にしています。友達と同じ教科書で勉強をすることで、モチベーションを保ちながら学習に取り組んでもらえたらと思っています。

あとは分度器が全然ユニバーサルデザインではないと気づいて新しいものを模索したり、そういった教材開発をしています。”午前は講師で午後はデザイナー”と言っていますが、基本的にはデザイナーなんです。デザイナーとして小学校の中に入って、社会課題を解決しているスタンスです。

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僕が他のデザイナーと違うのは、現場に行きたい気持ちが強いことです。今回教育現場に入れたのはすごくラッキーでしたし、自分自身の学びになっているなと思っています。これからもいろんな現場に行きたいです。

さまざまな形で、デザインと教育をかけ算する

── 午後も、教育分野のデザインなどをされているのですか?

阿部:午後は、ソーシャル分野のデザイナーをしています。昔いた企業では商業的な広告を作っていましたが、もともと「社会の課題を解決するためにデザインの力を使いたい」という軸がありました。具体的には、ロゴ、パンフレット、ポスター、ウェブサイトなどを作って過ごしています。

そんな中でも、デザインの現場で教育についても扱えないかと思い、デザイン出張授業をしています。

例えば、「生徒が家具デザイナーになりたいそうなのだけど、知り合いにいませんか」と友人づてに高校の先生から聞かれて。前は東京の広告会社に勤めていたので業界のネットワークがありましたし、「力になりますよ」と。オンラインで実際に家具デザイナーの方を呼び、生徒が直接いろんな質問ができるような授業をしました。

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大山:自分の持っているノウハウを活かしながら複業として先生をするのはアツいなと思うし、先生の複業化という文脈はかなり面白いです。非常勤という選択肢が、学校で当たり前になってきていると感じますね。実践をされている阿部さんの存在はすごく大きいなと思います。

── 地方の子どもたちは、デザイナーという仕事に触れる機会は少なそうですから、貴重な機会になりますね。

阿部:高校の授業の中に入って、美術部の生徒に「美術とは何か」ということをデザイナー視点で伝えたこともあります。

あとは生徒と実際にひとつのものを作ります。この間は、サッカークラブのチラシをみんなで作りました。情報を集めて整理して、アウトプットして表現して。完成したものに更にフィードバックをもらい「伝わるためにはどうするか」をもう一度考えてリデザインしたり。そういう往復ができるのがデザインのいいところです。

僕の仮説ですが、デザインを通して自己肯定感が上がるんじゃないかと思うんです。チラシなど、デザインはアウトプットが明確に出ます。作品が世の中に出て評価されるのは、自分の分身が褒められるという達成感につながるのではないかな、と。それをパッケージにしたワークショップをいろんなところで使っていけたらと思います。

── すごくユニークですよね。デザインで社会を変えることについて、例はありますか。

阿部:僕自身の動機になった、1つのポスターがあります。僕は大学では教育学科で、自閉症の研究領域を専門として選びました。当時は、「自閉症は先天的なものではなく、保護者のしつけによる後天的なもの」という間違った情報が世の中に溢れていて。そのことで保護者さんが悩まれていることを何とかできないかと考えていたんですね。

そのときに目にした自閉症の啓発ポスターに、子どもの写真と一緒に「自閉症になったんじゃない。自閉症に生まれただけ。」という大きなキャッチコピーがついていたんです。デザインで、自閉症が先天的なものと言えていた。衝撃を受け、すごいなと驚きました。

僕が伝えたいことは結構時間がかかることなのに、短時間で心を動かすメッセージをワンビジュアルで届けることができる。デザインで世の中を変えるというのは、そういうことかなと思っています。情報を整理したり加工したりして、より人の心を動かすデザインをするということですね。

── わかりやすい形にデザインすると人に伝わる。それが理解や行動につながり、社会を変えるということなのですね。大山さんはアントレプレナーシップ、阿部さんはデザインですが、社会の中で使われていることは、学校の中でも活かせるチャンスがたくさんありますね。

あとは、今の学校の当たり前を受け止めるのではなく、「こんなことをしてみたら子どもたちにとって新しい学びの場が作れるんじゃないか」と、お二人が主体的に探究されていると感じました。そういう風に、学校の中と外の橋渡し役をされる方が増えてほしいですね。

(文:田中美奈、編集:田村真菜)

収録動画はFacebookグループ「探究コネクト」探究する仲間をつなぐコミュニティに公開しています。


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