「オルタナティブスクールに通いはじめて、どう変わった?」保護者のリアルな声も。 オルタナティブスクールフェス2024イベントレポート(後編)
コロナ禍やAIの広がりもあって、「これまでの学び方・教え方でいいのかな?」と問いを持つ人が増え、オルタナティブスクールが各地で増えてきています。
とはいえ、新しい選択肢であるオルタナティブスクールを選ぶ人はまだまだ少数派。「それぞれのスクールにはどういう特徴があるの?」「どこのスクールも魅力的だけど、どんな基準で選んだらいいの?」「リアルな話を聞いてみたいけど、身の回りに通わせている保護者がいない」という人もいるかもしれません。
そういった家庭のヒントになるような、全国各地のオルタナティブスクールを紹介するオンラインイベント「オルタナティブスクールフェス2024」を、ASJ(一般財団法人オルタナティブスクール・ジャパン)と探究コネクトが2024年11月15日に開催しました。
後半は、参加者がブレイクルームに分かれ、気になったスクールの先生や保護者と話す時間に。登壇したスクールの全ては紹介できず、一部スクールにはなってしまいますが、ヒミツキチ森学園とインフィニティ国際学院、東京コミュニティスクールのルームの様子をお伝えします(記事前編はこちら)。
ヒミツキチ森学園。自分のどまんなかで生きる力を育む
神奈川県葉山にあるヒミツキチ森学園からは、理事の野瀬美千子さんとグループリーダー(先生)を務める青山雄太さんが登壇。ヒミツキチ森学園にお子さんが通っている保護者のみなさんも経験談をお話しされました。
野瀬:ヒミツキチ森学園は、自分のどまんなかで生きる力を育む学校です。人生の舵を自分で取るって、当たり前のようで難しいことだと思うんですよね。自分のどまんなかで生きるためには、楽しいことも超えていかないといけないことも、自分で決めて選んで冒険していく必要があります。AIに負けず、人間が唯一持っている感情を活かして生きていきたいという思いで、自分のどまんなかで生きるをコンセプトにしています。
青山:ヒミツキチ森学園へ見学に来られる方が「子どもたちの表情が伸びやかでいきいきしていますね」と必ず言ってくださるんです。子どもたちがいきいきしてるのは、自分のどまんなかに近づいているからだと思うんですよね。
僕らが大事にしているのが、頭で考える「思考」と心で感じる「感情」、身体でつかむ「感覚」の3つの関係です。例えば、朝や帰りの時間、授業中に、思考と感情がつながるサークル対話の時間をたくさんつくっています。自分の心の中で感じたことをその場に置いたり、みんなで話し合ったりして、心の中をくみかわしているんです。
また、思考と感覚がつながる活動で言うと、運動会では自分たちで演技を考えて踊る時間をつくっています。それと、感情と感覚がつながるヨガの時間もつくっていますね。これまでいろんな活動をやってきましたが、子どもたちに残るのは「思考」「感情」「感覚」をつなぐ活動なんですよね。今日はヒミツキチ森学園の保護者の方も来てくださっているので、ぜひ質問もしてくださいね。
参加者からの質問:ヒミツキチ森学園に通い始めて、お子さんの様子がどう変わりましたか?
保護者Oさん:入学前、息子は幼稚園に行くのを、毎日すごく嫌がっていたんですね。行きたくないと泣いたり、帰ってきてからも感情が溢れて暴れることもあったりしました。この調子で小学校に行くとどうなるのかなと心配していましたが、ヒミツキチ森学園には毎日通えているんです。「休みたい」と言うことがなくて、とても驚いています。
参加者からの質問:公立小学校に勤務している教員です。オルタナティブスクールに行ったからこそ見えた、公立学校の良さはありますか。
青山:子どもが通っている関係で、今も公立学校の現場に行くことも多いのですが、公立学校にはたくさん子どもたちがいて、数のエネルギーがありますね。運動会を見ていても、未だにすごく感動します。
それと、公立学校は、先生に力を引き上げてもらうことで伸びていく子どもたちには合っていますよね。ヒミツキチ森学園では、僕らと一緒に考えながら、子どもたちが自分で力を伸ばしていくことが多いので。公立学校とオルタナティブスクールのどちらが良いということではなくて、子どもによって違いがあるからこそ、学ぶ場所が変わってくるという話だと考えています。
参加者からの質問:なぜヒミツキチ森学園にお子さんを通わせることになったのでしょうか。
保護者Kさん:娘は小さい頃から敏感な特性を持っていてこだわりが強く、公立学校では対応してもらえないのではないかということを家庭内で話していました。幼稚園は発達心理学を取り入れている幼稚園に行っていて、娘の才能が少しでも開いていくようにという思いで、ヒミツキチ森学園を選びました。結果として、親は何も言ってないのですが、入学してから娘は毎日朝6時に起きて勉強をする生活を送っています(笑)。
保護者Sさん:見学に行ったら自分が通いたくなってしまう学校だったんですよね。ヒミツキチ森学園は、保護者や地域の方々を巻き込んだイベントを開催しているのですが、そこにいる子どもたちはもちろん、保護者や先生たちの目がキラキラしていて。心から楽しんで面白がっている保護者や先生の姿を見ると、子どもたち自身も楽しくなってくる。僕の息子も公立学校に通う選択肢もありましたが、聞くと「ヒミツキチ森学園に行きたい」と言ってくれたんです。
インフィニティ国際学院 中等部・高等部。日本と世界を旅して学ぶ
インフィニティ国際学院 中等部・高等部のブレイクアウトルームでは、副学院長の伊藤研人さんと広報・PR担当の柴田満世さんが登壇しました。
柴田:2019年にインフィニティ国際学院は創立しました。中等部・高等部ともに定員24名の全寮制オルタナティブスクールです。「世界はこんなに広いのに、決められた机の上で学ぶなんてもったいない。」このコンセプト通りに、インフィニティ国際学院は本当に教室の外に飛び出してしまいます。中等部は北海道と奄美大島をメインに、高等部は世界各国を舞台に生きた学びに触れていきます。
ここでひとつ、みなさんに質問です。お子さんにどんな人になってほしいですか。インフィニティが導き出したこの問いに対する答えは、どんな環境にいても自分の意思で選択し行動できるアントレプレナーシップを持った人です。つまり自分の人生の舵を自分で握る人ですね。
インフィニティ国際学院のミッションは、10年後の世界を変える人材を育むことです。まずは日本の教育に新しい風を吹き込むこと、そして日本の未来をより良い方向へと導くことを次のステップとして見据えています。まさしくインフィニティ国際学院は、日本の教育に変革を起こそうとしているんです。
私たちインフィニティ国際学院の教室は、世界そのものになります。見聞きするものすべてが教科書であり、出会う人々全てが先生です。中等部の学びの拠点は北海道と奄美大島で、生活の場は学校でもあり、家でもある共同の寮。生徒たちは掃除、洗濯、ときには自炊も行って、生活づくりを身につけていきます。チューターが毎週行っている個人面談では、親代わりとして一人ひとりに寄り添い、心のサポートも欠かしません。
中等部の3年間は、探究や学びを楽しみ、自分自身を知る土台をつくるための期間であると考えています。自分と向き合うこと、自分自身の興味関心を知ること。青年期と呼ばれる13歳からのこの時期にとことん自分と向き合って自己理解を深めることができると、その後の人生は格段に豊かなものになります。
中等部で世界に羽ばたく土台をつくったら、次の舞台は世界です。高等部は固定の拠点を持たず、日本と世界の国々を旅しながら、フィールドワークを通して学びます。例えば、ニュージーランドで環境問題やエコの取り組みを学んだ後、日本に戻ってきて森林を活用したものづくりや町おこしビジネスに企画段階から挑戦したりしています。
環境、文化、テクノロジーからビジネス、そしてサバイバル体験まで、机の上の教科書ではなく、世界中現地に行って五感を通して学んでいくんです。予定調和の旅ではなくて、自分の好奇心のままに行動していくので、様々な出会いがあり、学びがある。それが強烈な原体験となっていきます。
原体験というたくさんの宝石をどれだけ自分のポケットにしまうことができるか。そのポケットはどんな形をしていて、どんな宝石を入れたらしっくりくるのか。中等部の3年間で培った自分への理解を土台に、高等部3年間の世界への理解が重なったとき、どんな未来に進みたくなるのか。それらを自らに問い続け、答えを導き出していきます。
子どもの可能性を机の上で終わらせますか。本当に大切なことは教科書には載っていません。世界はこんなに広いのに、教室という限られた場所で学ぶのはもったいないです。この貴重な時期を、最高の場所で過ごしていただけたらいいなと思います。
参加者からの質問:高等部の旅について詳しく伺いたいです。生活や寝泊まり、食事などはどうされているのでしょうか。
伊藤:行く国によって違いますね。例えば、ニュージーランドでは、大きな一軒家を借りて、それぞれの部屋に生徒が分かれて生活していました。スーパーに買い物に行って、みんなで料理して、楽しく過ごしていましたね。
あるいは、今生徒たちがちょうどカンボジアとインド、ネパールの学習に行っているところなのですが、この旅では移動しながら学んでいます。宿に泊まってその土地で学べることを学んで、列車やバスで移動してまた宿に泊まってという形です。今子どもたちはヒマラヤを登っていますね。まさにバックパッカーのような生活です。
いくつか例をお話ししましたが、生活自体にも多様性を持たせているんですよね。自分たちで自炊をしたり、予算を抑えたご飯を現地調達して食べたり。そういう生活の多様性もたくさん経験してもらうことで、いろんな環境に適応できる力を身につけてほしいと思っています。
参加者からの質問:1年で何カ国に行きますか? 日本に帰国してから、学んだことを発表する場はありますか。1クラス何人で旅をしていますか。
伊藤:来年度以降は、1年に3カ国から5カ国を想定しています。1カ国につき、長いものだと1ヶ月ほど滞在することになります。また、学んだことをアウトプットする機会はありますね。各国ごとに、プレゼンテーションをするのですが、毎回アウトプットの仕方を変えています。
例えば「この時間通りに発表してください」と生徒に伝えるプレゼンテーションもあれば、一切の制約なく、演劇や絵本など、独創的に発表方法を考えてもらうこともあります。また、1年の終わりには、年間の振り返りということで大きな発表の機会をつくっています。旅をする人数ですが、訪れる国によって多少の前後はあるものの、最大8名が想定されていますね。
東京コミュニティスクール。2校目「とらすとベースフリースクール」開校が決定
東京都中野区にある東京コミュニティスクール(TCS)からは、法人事務局・理事の永易江麻さんが登壇しました。
永易:初等教育の選択肢があまりにも少ない。多様なお子さんがいるからこそ、初等教育の選択肢を増やしていく必要があるのではないか。そんな思いで、TCSは2004年に開校しました。TCSは少人数で学ぶことを大切にしているので、自分たちのことをマイクロスクールと呼んでいます。今は小学生が50人通ってきてくれていますね。
人生を100年と考えたときに、学校で学べるのは多くの人が6歳から22歳のわずかな時間なんですよね。この時期に自ら探究し、学び続ける力と創造し続ける力の素地をつくることが大事なのではないでしょうか。TCSの教育理念は「自和自和(じわじわ)」です。自分らしさを活かし、人や社会や自然との和(つながり)を楽しみ、ともに学び着実に成長していくという思いを込めています。
TCSの特長のひとつは、探究する学びを取り入れていることです。学習者主体の学び場をつくっています。ふたつめは、少人数と異年齢で学ぶことです。いろんな学年の子と関わることで社会性を育んでいくことができるんですよね。また、原体験も大事にしています。自然体験をたくさん取り入れて、子どもたちには五感を研ぎ澄ませる体験をたくさんしてもらっています。
次に大事にしているのが、個別化です。みんなで学ぶこともありますが、それぞれのペースに合わせてデジタルツールも活用しながら学習を進めています。また、一人ひとりの子どもを全員のスタッフで見るということも大事にしています。そのために、時間割の組み方は工夫していますね。また、スタッフ全員で会議の時間をとって、どんな学びを実践していくか計画したり、子どもたちを評価する時間をとったりしています。
今は、TCSとは別に「とらすとベースフリースクール」を立ち上げるために奔走しているところです。2025年4月に開校予定のスクールで、歩いてもいい、止まってもいい「歩止歩止(ほどほど)」という理念を掲げています。
参加者からの質問:発達特性のある子どもや、学習に苦手感のある子どもには対応されていますか。
永易:お子さん一人ひとり発達の度合いは違うので、そのでこぼこに合わせて対応するというのは、障害の有無に関わらずみんな同じだと思っています。
保護者の方から発達障害の子も受け入れていますかというご質問を受けた際には、まずその子自身がどういう子か知りたいので、会わせてくださいという話をしています。TCSでは一斉で授業をすることも取り入れており、そういうしっかりした枠組みの中で学ぶより、自分の好きなことをとことん追究するのが好きなお子さんだと、とらすとベースフリースクールの方が向いているかもしれません。どちらのスクールが向いているかは、その子のことを知って、検討したい思います。
TCSの第2校と聞くと、TCSと似た校風のスクールを立ち上げると思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、今のTCSではできないことをとらすとベースフリースクールではやろうと考えています。TCSではしっかり時間割が決まっていますが、余白の時間をたくさん取り入れたカリキュラムをつくっていきたいと思っています。
参加者からの質問:今のTCSでできないことは何だと考えていますか。
永易:TCSではテーマ学習という名前で探究を行なっていて、1年で6テーマ、6年間で36個のテーマに触れていきます。子どもたちにとっては一見興味を持てないテーマがある可能性もありますが、最初は興味がないと思ったことでも、やってみたら面白くなる経験を積み重ねてほしいと思っています。こうした経験の中で、点と点がつながる経験をして、自分で学び続ける力や創造し続けられる力を身につけてほしいんですよね。
今のTCSのスタイルは、いろんなテーマに出会えるという点で素晴らしいと思う一方で、既に探究したいテーマが決まっている子に対しては、他に何かできることがあるのではないかということも思っていて。自分のペースで学んでいきたいお子さんには、とらすとベースフリースクールの入学を検討してもらえたら嬉しいです。
保護者や教育関係者、オルタナティブスクール立ち上げ予定の参加者も
第二部が終わった後は、参加者がブレイクアウトルームに分かれ、イベントの感想を共有。「オルタナティブスクールにお子さんを通わせている保護者のリアルな声が聞けたのが良かった」という声や「オルタナティブスクールを運営する方々の熱意が伝わってきた」といった声が寄せられました。
本イベントには、保護者だけではなく、教育関係者や、「これからオルタナティブスクールの立ち上げに関わっていきたい」という参加者も。それぞれの参加者がオルタナティブスクールのイメージを深め、新しい学びの選択肢を考える時間になりました。
また、各スクールからも「スクールに実際に見学に来てくださる保護者の方も、最近はいくつか見学して比較したい方が増えてきている。こういう場は必要だと思った」「入学希望者を取り合うのではなく、みんなで協力して業界を盛り上げていけるんだなとわかった」という声がありました。
さまざまな理念を持ったスクールが一堂に会したオルタナティブフェス2024(登壇した学校一覧はこちら)。興味のあるスクールがあれば、ぜひ説明会などに参加してみてくださいね。
(文:田中美奈)
記事前編はこちらです。