会社のPCをぶっ壊した

医療系の研究施設で働いている。僕は短期転勤族だ。今の事業所は7ヶ所目。ここでの任務はマネージメント。人員もさることながら施設の管理も任されている。

とはいえ、施設の立上げから居たわけではないので、システムは極力いじらないことにしている。致命的な欠陥は見当たらないからだ。もちろん小さな不具合はあるのだが、変更による利用者と作業者のストレスを考えれば、一旦保留にしておくことが最適解だと思っている。

僕は後から入って来た者だ。そんな奴が駄目だ駄目だと改革していったら、どうなるかぐらいは分かる。そんな事例もすぐ近くで起こっていたからだ。

6人の部下の中には同じ会社の後輩がいる。肉好きで姐御肌の肉姉さんだ。彼女は本当の後輩だった。彼女がひとつ前に勤務していた事業所は、僕が入社したときに配属されたところだった。彼女の上司だった大関先輩には僕もお世話になっていたというわけだ。

聞いたところによると、大関先輩が抜けた後のリーダーが最悪がったとか。その人物は別のところで僕もお世話になったことがある。5ヶ所目の事業所でお世話になった同僚の四十路兄さん、その人である。

兄さんは優しい人だった。だが知識は乏しい。おそらく違う管理方法のリスクの度合いを把握できていなかったのだと思う。故に自分の知っている方法へと強引に変えてしまったのだと推測する。

聞けば職場崩壊の寸前だったらしい。そのどさくさで彼女も北海道へ来たわけだ。結局、四十路兄さんの自主退社で幕引き。後釜には僕が3番目の事業所でお世話になった主任兄さんが入ったらしい。たしかに主任兄さんに任せておけば大丈夫だろう。問題の本質を本社の人事部も分かっていたのだ。

とても申し訳ない想いでいっぱいになった。実は四十路兄さんのそこへの異動は、僕の入り知恵によるものだったからだ。当初は違う事業所への異動が決まっていたが、遠すぎるということで四十路兄さんから相談を受けていた。退社するしかないと言うので、僕はごねることを提案した。案の定、異動先は変わり、問題の起きた事業所のリーダーとなったわけだ。

本当に申し訳ない。事業所の人たちやオーナー会社の人たちに迷惑をかけてしまった。四十路兄さんにも謝りたいのである。せめて肉姉さんには事の真相をすべて話しておいた。原因の多くは実力不足の人材不足。ちょっとしたボタンの掛け違いではなかろうかと。

おかげで肉姉さんとの信頼関係はすこし強まったと思う。結局、僕の知らないところで起きていた騒動で、得をしたのは僕であった。次のミッションにも協力もしてもらえそうだ。

次のミッションとは、施設のシステムを大幅に変更すること。オーナー会社の新規事業のためだ。毎日の作業内容にも変更が入ると思う。故に現場の嘘偽りない声を聞きたい。肉姉さんはノリがいい。僕とは真逆だ。社員さんとも親密。僕と社員さん達との橋渡し役に最適と考えていた。

この策は上手くいった。立場的にも社員さん達とは壁の出来やすい間柄だが、肉姉さんは僕にがんがん寄ってくるので、それを見た社員さん達もがんがん来てくれる。

これはありがたい。無理を気にせず理想を語ってくれる。参考になるレベルではない。できるだけ要望は組み込めたくもなる。のぞむところだ。驚かせたくもなるのである。

僕の午前中はルーチンワークだ。瓶に水を詰める。これを2時間くらい行う。手は勝手に動く。頭では施設のシステム変更のことを考えておくのだ。作業が終わり次第、思いついたものをPCに打ち込めば、午前中の仕事は終わり。

午後は誰かの作業を手伝いに行く。順番通りのローテーションで偏りが無いようにだ。その後は皆で洗浄室をまわしたり、廊下を掃除すれば、1日の作業は終了。定時には退社する。

だが最近はPCに向き合う時間が増えてしまった。時間が無いのである。1日の大半を費やすこともしばしば。その日もそうだった。居室にある僕の机の斜め隣りは、上長である坊主課長がいる。彼もPCに向かっている時間が多い。たまに雑談もする。

PCに向かいながらの雑談。僕は誰かと話しながらの作業が苦手だった。それを忘れていた。雑談に意識がもっていかれると、僕のPCの操作は暴走する。気がついたときにはシャットダウンされていた。再び電源を入れるもOSは立ち上がらない。どうやらウイルスに感染させてしまったようだ。

やらかしてしまった。謝罪の嵐。PCはエンジニアのいる本社へ郵送。しばらくPCから離れることになった。

やはりコミュニケーションは難しい。最近は忘れていたが、僕は喋るのが苦手な奴だった。経験からバレないようにはなってきたが、本質的なところは変わっていない。いつもは冷静でまあまあ完璧にこなす僕。そう思っていた坊主課長は僕のミスに驚いていた。だがしかしこれが僕の正体なのだ。

人は変わらない。変わる部分もあるが、変わらない部分もある。それは身長と同じだ。うまく付き合っていく必要がある。けっして伸ばそうとしてはいけない。変わらないからだ。

最近は無理をしていたのかもしれない。知らず知らずのうちに演じていた。本当の僕はどこにいるのだろう。もうすぐ週末だ。写真でも撮りに行こうと思う。

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