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【『鬼滅の刃』作者から創作論を学ぶ】
私には高等無職の友人(漫画描き)がいるのですが、彼が『描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』(著:週刊少年ジャンプ編集部)という本を薦めてきたんですね。
率直な感想としまして「確かに学びがある」のではないかと。
結局のところ創作をするうえで、それが漫画であれ小説であれゲームであれ音楽であれ、大本の部分は変わらないと思います。
創作者の中には私みたいなノウハウコレクターも結構いると思うんですが、「創作を始めること」がいの一番に大事なわけです。
「描きたいもの」があり、それを表現するため「創作を始める」
シンプルにこれだけの話ですが、SNSによる殴り合いのせいで自分の創作物が劣っていると感じてしまい、自らの手で芽を摘んでしまうという現象は枚挙に暇がありません。
「なんでもやればええねん!」は、言うは易く行うは難しでしょう。
さて、様々なライフハックや自己啓発で、作業効率を上げることはもちろん可能です。
しかし根本的な問題である「描きたいものをどう育んでいくか?」。
この解決策は様々な創作物等に触れることであり、私もさんざん言っていますが「要素をパクる」ことが重要です。
本書の中に「作品は好きなものの闇鍋」という表現がありましたが、これはどんな創作者でも同じでしょう。
「完全なるパクリ」はアウトですが、「ちょっとお借りする」くらいは問題ないのです。
そもそも物語はうん万年規模の歴史を誇り、ルネサンス期までで創作の型はすべて完成したと言われています。
「完全なるオリジナリティなど存在しない」と自分の中でしっかり定義したほうが、創作に対してより真摯に向き合えるのではないかと思います。
閑話休題。
そんな本書ですが、『鬼滅の刃』作者である吾峠呼世晴先生のインタビュー回答がメチャクチャ良かったです。
参考になったというか、私の感性と似ていた。
最近『進撃の巨人』(著:諌山創)を読んだのですが、あれは間違いなく天才の所業です。
ここまでのことをすべて計算で描けるとは到底思えず、超面白い(日本漫画史に残るレベル)ですが、ぶっちゃけ参考にはなりづらい。
それに比べて『鬼滅の刃』は再現性があり、参考にしやすい。
貶めているわけではないのですが、シナリオ構成における基本的かつ重要なエッセンスが詰まっていると感じます。
以下では吾峠先生のインてビューを引用しながら見ていきます。
ぶっちゃけ、私を含めた凡百の素人が語る創作論の100万倍有用だと思います。
(以前『鬼滅の刃』を読んだ時の感想文も貼っておきます)
Q3.ネームを直す(自ボツ・編集の指摘など)ときに気をつけていることはありますか?
A3.「主人公に1番ページを使うことです。主人公と直接関係ないことや、ストーリーの主軸と直接関係ないことは極限まで短くするかカットします。進行上必要なければキャラ自体カットします。」
『描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』
集英社 2021年
『鬼滅の刃』を読んでいて感じた、「主人公が超主人公をしている」というのは作者の細かな配慮の賜物だということです。
ストーリーを足すのは意外と簡単ですが、必要なもの以外を極限まで削ぎ落とすというのは非常に難しい作業だと私は感じます。
どうしても描きたい部分が多くなってしまいますからね……。
Q5.漫画を描くときに心がけていることはありますか?
A4.「わかりやすいこと、複雑な設定にしないことです。自分自身が創作物を読んでいて、あまりに複雑な設定や専門用語が出てくると覚えられなかったり、理解できなかったり(自分が馬鹿だからですが)、おいていかれて悲しくなることが多かったので。」
『描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』
集英社 2021年
超分かる。
私の場合、娯楽としての創作物はあんまり難しい話をしてほしくないんですよね……。
ゆえに難解な設定のSF・ファンタジーよりも、青春・友情・恋愛などのヒューマンドラマに比重を置いた作品が好きだったりします。
自分がアホなのは分かってるんですけど、やっぱり読みやすくあってほしい。
Q7.魅力あるキャラにするために練習したことはありますか?
A7.「キャラクターは生い立ちや環境、性格で思考と言動が決まるので、こちらが考えなくても勝手に喋って動いてくれるようになるまで突き詰めてそのキャラクターの人生と価値観を考えます。」
『描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』
集英社 2021年
メチャクチャ重要な話。
キャラクターは記号としてではなく、生身の人間として扱ったほうが良い場合が多いです。
「コイツならこうする」という段階までキャラクターの解像度を上げることができるかが、のちに読者からの共感を得られるかの分水嶺になる気がします。
なぜなら作者自身が「コイツならこうする」というのを分かっていないのに、それよりも短い時間しか作品に触れない読者が、それを理解できるとは考えにくいからです。
Q9.読みやすい漫画にするために気を付けていることはありますか?
A9.「初っ端で難しい説明をしない。大体の人は聞き慣れない言葉や単語、難しいことをぎゅうぎゅうにしてガーッと言われると心が挫けます。なので、最初は特にわかりやすく、感覚に訴えるようにします。」
『描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』
集英社 2021年
私も数多のSRPGをプレイしてきましたが、これに陥っている作品はかなり多い印象です。
初手で説明されても「何だかよく分らん……」となってしまい、非常にもったいないと感じます。
これに関しては私も課題としており、「冒頭を上手いこと引き付けられる内容にできないかな……」とずーっと思案しています。
Q12.ネーム以外で、漫画のネタ出しや話づくりのために何かやっていることはありますか?
A12.「話題になっているものをチェックして分析、才能がある人の作った作品をチェックして分析。」
『描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』
集英社 2021年
これはその他多くの漫画家も同じような回答でしたが、大事なのは「分析」すること。
『メモの魔力 The Magic of Memos』(著:前田裕二)に詳しいですが、具体⇒抽象化⇒転用のプロセスを踏むのがインプットからアウトプットの流れにおいて重要です。
ここでいう「分析」というのは、抽象化に当たります。
これを理解できていないと、インプットが無駄骨になる可能性が高まります。
よくネットで「極端すぎて参考にならない」という意見を見かけますが、それは抽象化というプロセスを踏まず短絡的に利用しようとしているからであり、エッセンスを抽出すれば基本的に何事も利用可能です。
今回は吾峠呼世晴先生を紹介しましたが、その他だと『銀魂』の空知英秋先生もかなり芯を喰った真面目な回答だったと思います。
良かったら読んでみてくださいね。