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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『死の家の記録』ドストエフスキー著~

<<感想>>
ペトラシェフスキー事件(ロシアの思想事件。フランス革命(二月革命)の影響を受けて、一部の者はサークル内部にさらに小さいグループをつくり、農民蜂起(ほうき)や秘密文書の作成を計画)で逮捕され、シベリア流刑となったドストエフスキーの獄中での記録がもとになったものと言われる。
(ドストエフスキーは、当初は死刑を宣告されたが恩赦に救われる)
 
著書の中では、獄中の生活、行事、衣食住、囚人たちの性格、投獄された原因や出身などの会話、そして人間関係など、全体を通しての「観察力」「視点」は映画をみているようで自然に引き込まれる。まさに五感で感じる著書である。
「獄中記」というより「人間観察記」と言った方が適切なのかもしれない。
 
だがそれは、「自由への渇望」というテーマを強く浮き出すための、ドストエフスキーの特筆すべき心憎い演出であると考える。
「自由への渇望」をシンボリックにあらわしたキーワードが「足枷」「笞」。
特に「足枷」は単に獄中で行動の自由
を制限するものというだけではなく、当時のロシア社会における社会主義思想を弾圧しようとする象徴のようにも思われたが。
 
そこに画が見える。一番最後の記述。主人公が出所する際、最後に足枷をはずされるシーン。
(引用はじめ)
「鋲だ、鋲をまずねじるんだ!・・・・・・」と班長が指図した。「それをちゃんとのせる、そう、それでよし・・・・・・そこで、今度は金槌で打つ・・・・・・」
足枷が落ちた。わたしはそれをひろい上げた・・・・・・わたしはそれを手に持って、見納めにじっくりながめたかったのである。これがいまのいままで足についていたのかと、まさにわたしは、いまさらながら驚きの目を見はった。
「じゃ、さようなら!さようなら!」と囚人たちはとぎれとぎれに、荒っぽいが、何か満足そうな声々で言った。
そうだ、さようなら! 自由、新しい生活、死よりの復活・・・なんというすばらしい瞬間であろう!
(引用おわり)
まるでこちらまで、足枷を外されたような、解放されたような気分になった。
主人公の気持ち、ドストエフスキーの気持ちが理解できたような瞬間でもあった。

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